第20話 織田信長、戦国の魔王
ころころ、ころころ、ころころ、ころり――。
転がるのは、朽ち果てて野ざらしになった髑髏。
いつか見た戦場の光景であった。繰り返し思い出される、地獄の夢である。
織田信長、第六の天魔――。
銀に磨いた南蛮胴とビロードマントに身を包み、赤く焦げた空の下を征く。
無残な姿を晒す骸たちの中で、信長は軍馬の手綱を握りしめる。
放った火は、燎原を焼き尽くした。
女も子供もいた。
根切りも撫で斬りも命じた。
戦国の習いなどと、言い訳はすまい。
やったことは殺戮であることに間違いないのだ。
自分に敵した者を殺した、自分に逆らった者を殺した。
自分に従った者も殺した、すべては天下布武の名のもとに。
おのれの所業を振り返れば、後世まで魔王と恐れられるのも不思議ではない。
――戦が終われば、我らを忘れるのか?
――泰平の世のために、斬って捨てのか?
――そのために生きながらに焼き殺したのか?
虚ろとなった眼窩が睨めつけ、責めるように問う。
いつぞや御首を箔濃にした浅井親子、朝倉義景のことを思わせる。
返す言葉など、無論持ってはおらぬ。
いかにもそのとおり、いかなる言葉も言い訳にならぬのも承知の上だ。
おのれが望むもののために多くを犠牲とした。
正しいと信じた、信じ切って戦った。
望まれれば英雄にもなった。
憎まれれば悪魔にもなった。
後の世には武名ばかりではなく悪名も轟くだろう。
それでも、やらねばならぬことがあった。
おのれがその時代に生まれ落ちてきた意味のために。
おのれが何者かであるのかのために。
賽の目のように善も悪も変わる、現し世のために――。




