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学園覇王の一堂君は、男になりたいっ!  作者: 小林歩夢
一章 ヒロイン(?)の一堂君は学園の覇王をしている。
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1-5 ”ダメだ! しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!”

 まずいやばいどうしよう超どうしよう。これってあれじゃん。『筆跡鑑定』ってやつだよ。普通の人だったらまずありえないけど、この人たちだったらあり得る。


「入学試験の一堂君の回答用紙を見せてほしい、と先生に言ったら見せてくれたんです。下の方は生徒会からのものです」

「実際初回は皆で行って断られたんだけどね。でも翌日鈴ちん一人で行ったらすぐにもらえてたよね」

「本当に、鈴蘭先輩は頼りになります!」

「いえいえ、私は少しばかりお口添えをしただけですよ」


 怖いよ! 鈴ちん――白峰先輩は一体先生に何をしたんだ! 


「それにしても驚いたよ」


 空宮さんはプリントを覗き見ると、何かを思い出したように僕に話しかける。


「何が?」

「龍馬君、学年次席なんだってね!」

「そうだオレもそれ言おうとしたんだった」


 空宮さんの顔が近い。天然モンスターさんだこの子。

 僕は動揺して空宮さんから即座に離れる。

 それにしても都城先輩の一人称は『オレ』なのか……あのかっちょよさからして薄々そうだろうな、とは思っていたけど。


「普通『東皇四天』って二年一年の学年首席と次席がなるんだけどね。私三番目なのにどうして選ばれたんだろう、ってずっと思ってたの。そしたらそういう事だったんだね。まさかあの龍馬君が次席だったなんて」


 東皇四天加入にはそんな条件があったのか。どうりで学園内で神格化されているわけだ。

 空宮さんの言っているそういう事、というのは『僕が悪い子』だと思われていたということだろう。なんだ先生、見る目あるじゃん! 僕は少しうれしくなった。


「そうだぞ。龍馬ちんが次席だって判明した瞬間、オレも含めて皆おどろいてたぜ? あの時の純恋ちんの顔、すごかったなー」


 王華院さんが驚いてしまうほどの、という文が付け加えられるだけで、その時のまわりの様子まで思い浮かべられる。やっぱすごいや王華院さん。


「あ、ありがとうございます……ってあ、ごほんごほん!」


 対して僕はと言うと、つい褒められて素直に感謝の気持ちを述べてしまった。

 周りは少し間の抜けた表情をしていたが、それもすぐに直る。ああ、なんとかぎりぎりセーフだったみたいだ。


「それで、どうですか?」


 白峰先輩は話をもとに戻して僕を見て微笑む。くそう、このまま話を変な方向にフライアウェイして、隙を見て帰ろうとしたのに……! 流石成績最上位軍団。そう簡単にはいかないよね。


 しかし、白峰先輩のマスクの下にはどんな感情があるのだろう。さっきのやりとりで白峰先輩のイメージが変わってしまったからなあ。


「どうと言われても……」

「私たちは、一堂君はタバコを吸っていないと考えています。つまり、一堂君がこの投書を自分で書いた、ということです」


 白峰先輩は笑っていない笑顔を、都城先輩はにやりと、空宮さんは純朴な笑みを浮かべている。皆笑っていた。


 でも、誰一人『幸せ』という感情で笑っている訳じゃない。しかし何の感情かは本人たちの心に侵入してみないとわからない。


 僕はそれに恐怖を感じて、そして明らかに焦りを感じて、プリントで顔を覆い隠す。


 ついでに言うと、僕は笑っていない。いや、笑っているかもしれない。それは百パーセント焦りだけれど。どうしよう、制服が汗まみれに……。


 とりあえず考える時間を稼げ、僕! 何かいい回避方法はないか……?


 あ。


「……これを俺が書いたという証明は?」


 それしか言い訳できなかった。声帯がプルプル震えているのがわかる。


 しかもこれ『犯人が取り調べ室で言い訳する』時の捨て台詞じゃないか! そして最終的には容疑黙認しちゃう、警察版の勝利の方程式だよね!


 諦めなかったのに試合終了しちゃったよ。どうしてくれるの、詐欺じゃないですか。


 でもいくらすごいコンピューターで筆跡鑑定をしたからって、それが絶対とは言えないはずだ。


「確かに、こればかりは実際に書いたのを見た人がいないと証明できません」


 流石は東皇四天。無理やり罪を認めさせるやり方ではなかった。


 ここで僕の作戦が功を奏した。そんな人は絶対にいない。なんて言ったって家で書いてきたんだから。用意周到準備万端万歳! 


「そうだな。じゃあ俺はここらで失礼――」


 僕は隙を見て、そんな負け台詞を吐いて、学校かばんを持ってソファーを立つ。

 そして扉へ向かうためターンすると――、女の子がいた。


「うわぁっ⁉」

「どうした龍馬ちん。まだ話は終わってねえぞ?」


 僕を下から覗く学帽学ランさらしの小っちゃい女の子が、外見には到底そぐわない重低音を囁いた。ポケット両手を突っ込んで、奥歯が見えるくらいに口角筋を働かせている。


 都城先輩だった。でも彼女は白峰先輩の隣に座っていたはずじゃ……。


 振り向いて対岸のソファーを横目で見る。しかし居たのは白峰先輩だけだった。まさか一瞬で? その小柄な体にどんな馬力が隠されてるというんだ。


「……ちょっと空気が吸いたくなって」


 丁度敬語が付かなくても問題のないセリフでよかった、と僕は安堵する。


「なんだそういうことか。てっきり龍馬ちんがここから逃げるのかと思っちまったよ。もし逃げたら……わかるよな?」


 都城先輩はそう言い残すと、自分のいたところへゆっくり戻っていく。


 ……ダメだ! しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!


 僕は一応深呼吸をしてかばんを下ろし、またソファーに座った。


「学園治安部の空気はおいしいですか?」

「ああ。とっても」

「それはなによりです」


 白峰先輩の冷静で的確な皮肉のツッコミが、僕のライフゲージをそれはもうゴリゴリに削っていった。まずいに決まっているじゃないですかこんな空気。


「それでは、否認する。ということでよろしいですね?」

「ああ。そういうことだ」

「……残念です」


 白峰先輩はただそれだけ言った。意味が理解できない。


「何が?」


 僕もそう答える他に選択肢はない。


「一堂君が東皇四天を甘く見ていることと――プラス、新たに犠牲が増えてしまう事です」


 白峰先輩は貴族のお嬢様みたいに右手を頬に添えて、「うふふ」と陽気に微笑んだ。


 他の二人は相変わらずにやりと笑っていたり、紅茶をすすっていたり。



 この目まぐるしくおかしい部屋の中で、僕だけが圧力に押しつぶされていった。

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