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学園覇王の一堂君は、男になりたいっ!  作者: 小林歩夢
四章 僕がオトコになるための、歓迎(?)合宿を開いてくれている。
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4-3 ”過呼吸で僕の肺胞が大活躍している”

「あら、一堂君と杏。もう出るの?」

「はい、どうやら今から出ないと間に合わないらしいです。鈴蘭先輩と綾芽さんはどうしたんですか?」


 鍵を預けるため一度フロントへ行くと、そこには鈴蘭先輩と綾芽さんがいた。何やら外へ出かける準備をしている。


「今から『美肌の湯』に行くんだよ。そこにおいしい温泉まんじゅうが売っててね――」


 見事両者で結託したようだ。二人とも笑顔で見つめあっては『にへへ』と笑う。完全に旅行モードだ。いや、いいんですけどね。


 しかしお二人とも美肌なのにこれ以上美肌になってどうするの、とは思ってしまう。……言うべきか、と一度は考えたがどうせ師匠に「あざとい」と吐かれてしまうのでやめておいた。


「王華院さんはどうしたんです?」

「純恋ちゃんならさっき『世界遺産を見てくる』って言ってもう行っちゃった」


 綾芽さんが王華院さんの物まねを試みるが、実音声があまりに低かったせいかあまりにも似てなさすぎる。


 王華院さんも美肌だから、そっちに行って正解だと思うけどね。


「では、私たちも行きましょうか」

「はい! 行きましょう行きましょう!」


 そう言って二人はフロントを出ていき、僕と師匠だけが残った。


「よし龍馬ちん。持ち物確認だ」


 早速、師匠が僕の小さいリュックサックを指さす。


「持ち物、ですか?」

「ああそうだ。オレが今から言うものが全部入ってるか確認しろよ?」


 僕はリュックサックを床に置くと、それを開く。一応必要そうなものは全部持ってきたつもりだけど……。


「まずは水。ペットボトル五本だ。これなら遭難しても二日くらいなら生きられる。しかもトイレの代わりにもなるから安心だな」

「ペットボトルは二本しか持ってきてないです」

「それじゃあ一日一本で我慢しろ。忍耐も男にとって重要だぞ?」

「は、はあ」


 なぜ遭難したときのことを考えるのだろう。いやだなあー、「んなもんいらねーよ(笑)」とか言って適当に話し進めてくれればいいのに……。あと女の子がトイレの話とかしないでくださいよ。あれ、女の子だよね?


「次。ライターは持ってるか?」

「持ってるわけないじゃないですか」

「……じゃあオレが貸してやるよ」


 ライターといえばタバコでしか使う用途が見つからない。……あ、今度の持ち物検査でライターを持っていったら……よし。僕はすぐに脳内メモに書き込んだ。


「ライターは遭難したときに明りとして役立つぞ。焚火とかもできるから夜何も見えない時はこれさえあれば安心だな」

「う、うん?」

「で、最後にねぶくろ――」

「なんで師匠は遭難したときの荷物しか持ってないんですか!」

「いやいやそれ以外に何がいるんだよ。何もいらねーだろ?」


「……そうですね。けがをした時のための『絆創膏』と汗をかいた時の『ハンカチ』と『制汗スプレー(フローラルな香り)』と雨が降った時の『レインポンチョ』とお肌を傷つけないように『日焼け止め』と休憩用のスナック菓子と、あとは――」


「ストップ! 龍馬ちんがいかに女子かがわかったよ。……そもそも絆創膏とかいらねーだろ! 唾つけときゃ直んだよ! 絆創膏なんて男が持つべきもんじゃねえ!」


 僕がリュックサックの中から色々取り出していると、師匠に制止された。


 最後のはもう暴論じゃないですか。絆創膏がなかったらこの世の中の男性はみんな傷だらけですよ。血がぴゅーぴゅーですよ。


「とりあえず、行きませんか?」

「……そうだな」


 僕たちは旅館から道路に出ると、特訓のため走り始めた。


 *


 ジョギングの序盤は話しながら走っていた。


「僕、意外といけるかもしれません」

「そうか。余裕こいてられるのも今のうちだぜ?」

「またまたー、挑発しないでくださいよ」


 *


 ジョギング中盤。


「ちょ、ちょっとペース早くないですか。もう少しゆっくり……」

「どうした、さっきはあんなに意気揚々としてたのに」

「ま、まだ大丈夫ですから!」



 ジョギング終盤。


「……」

「生きてるかー龍馬ちん?」

「……」

「おいっ、顔がゾンビみたいになってるぞ⁉」

「……はひー……」

「ほらそろそろだ! ゴンドラ乗り場が見えてきたぞ!」



「ゴール!」

「はひーはひーはひーはひー」


 めちゃくちゃ元気な師匠の横で僕はうずくまっていた。過呼吸で僕の肺胞が大活躍している。


「にしても龍馬ちん体力ないなー」


 師匠が手で汗を拭う。


「し、師匠がおがじいだけですよぉぅ……」


 僕は糸が切れそうなほどの情けない声をだす。言葉もままならない。


「うーん。でも走ったの五キロくらいだぜ?」


 師匠はストップウォッチを止めると、いつもの自分のペースから距離を導き出した。でも僕に合わせて走っているのだから実際にはもう少し短いはず。


「僕にとっては苦しさしかないです」

「それが特訓だ!」


 師匠が天に向かってガッツポーズ。僕は地に向かって嗚咽。雲泥の差というか天地の差というか、悲しいなあ。やめとけばよかった。あるかないかわからない一枚の紙切れに執念して特訓を申し込んだ僕がいけないんだけどね。


 僕らはゴンドラに乗って頂上へ向かった。ちなみにその時間は師匠と男談義をしていたため、とても有意義な時間となった。



 その後の山下りの結果は――察してほしい。


 師匠は先行っちゃうし道なき道を進みまくったせいであちこちに傷ができるしクマさんにも遭遇したし幽霊でそうで怖かったし。最終的には師匠と肩を組みあって「奇跡の生還」みたいな感じでゴール(?)へたどり着いた。


 森を抜けると空は紅かった。目の前には旅館がある。ぎりぎり間に合ったようだ。よかったあ……。もし日が暮れてしまったら身動きなんてできないし、翌日には捜索隊が派遣されてしまうところだったからね。


「どうだ、特訓の成果は?」

「ええ。今なら鈴蘭先輩と互角に張り合えると思います!」

「張り合うレベルが低すぎるけど……まあいいか」

「この後はどうするんですか?」

「そうだな、とりあえず風呂だ。このままご飯ってものばっちいからな」


 森に入ったんだ。当然のことながら僕たちの服は探検隊みたいに泥だらけで汗臭い。僕なんて、「すいません。雨降ってましたっけ」と言われてもおかしくないほどの水分量がシャツにしみこんでいる。


「わかりました」


 僕たちは進入禁止のフェンスを跨ぐと、旅館へと戻った。


だんだん雑になってるような気がする。

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