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学園覇王の一堂君は、男になりたいっ!  作者: 小林歩夢
一章 ヒロイン(?)の一堂君は学園の覇王をしている。
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1-2 ”ここは法治国家日本。話し合いで解決する優しいホットな世界。だから素敵だよね、アイラブジャパン!”

 彼女の目は血色のようにおぞましく、しかしかち割ったルビーのようにきれいだった。


 そんな見下された紅い眼の先には――当然僕こと一堂龍馬がいる。そして名前を呼ばれた驚きのせいで僕は狼狽する。背中を氷水が流れたような感覚に陥った。


「はっはひ、ぼ……ううん、俺が一堂龍馬だけど……何か用で、ごほん! 何か用?」


 詰まりまくって短いセリフがとてつもなく長くなってしまった。「僕」って言いそうになったし、敬語使おうとしちゃったよ。危ない危ない。


「ああ、貴様に用がある。私についてこい。ちなみにこれは東皇四天とうおうしてんの命令だ。貴様に拒否権はない」


 彼女は機械のように瞬き一つもせず、抑揚のないぶつ切りのセリフを続けた。


 そしてもう一つ。気になるワードが出て来る。


 東皇四天。その名前はこの学園にいる者なら知っている名前だ。当然僕も知っている。決して銀行の支店の話ではない。


 そしてその名前を聞いた時、僕の目の前にいる女の子のことも思い出した。


 ――学園治安部『東皇四天』の一人。そして僕と同じ学年で主席の、

王華院純恋おうかいん すみれさ……だな」


 不意に小声が漏れる。「さん」づけで呼ぼうとしたり、声が裏返ってしまったのは情けなかったが。


「そうだが……それは着いてからにしよう」


 王華院さんはそう残しくるりとターンし僕に背を向けると、返事を待つ前に、下駄箱とは逆方向の――学園治安部の方へゆっくりと歩き出した。


 廊下の隅々では再度僕の噂話が催されていた。


「東皇四天直々にお出ましって……なにしたんだよあいつ。殺人?」

「こわー、でもしてそー」


 そんな悪口やそれと似とような物言いばかりだった。いやいや東皇四天ってそんなヤバい時にしか出てこないの? あと一応学友なんだから殺人犯扱いするのはやめて! 実を言うとまだFPSゲームもまともにできないビビりなんだから!


 聞いたところによると東皇四天は生徒会よりも上の組織らしい。誰から聞いたの、って当然盗み聞き。聴覚には自信があるんだ。


 メンバーは四名。しかもそれとは別に東皇四天をまとめるリーダー、『覇王』ってのが一人いるらしいんだ。だから実質学園での権力順は『覇王→東皇四天→生徒会』って感じだね。


 あと、情報によると去年まで覇王だった三年生が卒業してしまって、東皇四天は次期覇王を学園中から探しているんだとか。


 仕事内容はざっとまとめると生徒会だけでは片づけられない問題を解決していく、みたいな感じだったと思う。しかもたった四人でやってしまうからすごいんだと。一応覇王も含めれば五人か。しかしそんなに頭が切れる人たちなんだろうか、東皇四天と覇王っていうのは。


 まあ僕には遠い雲の上の世界のお話だ。それだけは確信できる。


 とりあえず、東皇四天の王華院さんの言うとおりにしましょうか。きっと『タバコ』の件なんだろうけど、「すみませーん。証拠を見せて下さーい」とでも言い残して帰ればいいだろう。だって吸ってないんだもん。発信源僕なんだもん。笑っちゃうね。


 ここは法治国家日本。話し合いで解決する優しいホットな世界。だから素敵だよね、アイラブジャパン!


「わかった」


 僕は寡黙な男設定も入っているので、それだけ残して王華院さんのあとをつけていく。それにしても綺麗な黒髪が目に飛び込んでくる。枝毛って知ってる? ってぜひとも言いたい。そしてもう一つはスレンダーな体形。流れるような曲線デザインは制服越しからでもよくわかる。


 あれで頭脳明晰なんだからさぞかしおモテになるんでしょうなあ。


 王華院純恋さんは名前はベリーキュートなのに、名前に似合わずとてもかっこいい。寡黙でクールなところもイケメンだ。僕は密かに憧れている。ラブの方ではなく、リスペクトの方で。


 王華院さんの後姿を見学しながら歩いていたら、いつの間にか目的の場所へ到着した。


 ドア付近の壁には『学園治安部』というなんとも大層で恐々するネームプレートが張り付けてある。王華院さんはポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んでクルリと回す。


 室内は少し変わっていた。中心には五つの机が連結している。それだけなら何の驚きもなかったが、見渡してみるとソファーやテレビやゲーム機やマンガやらが置いてある。東皇四天と覇王ってちゃんとお仕事しているの?


 覇王の机はリーダーなだけあってか、一番奥にあり、給食の四人班であぶれた席の子みたいな付き方だった。そしてそこにはやはりきれいに何も置かれていない。


 他の四人の各机には国会とかでよく見るネームプレートが立ててある。真上から見ると、左下が『一年:空宮綾芽そらみや あやめ』、右下が『二年:白峰鈴蘭しらみね すずらん』、左上が『二年:都城杏みやこのじょう あんず』、右上が『一年:王華院純恋』、そして一番奥に『覇王:』だった。


「おい、そこに立て」


 僕が関心のあまり目を輝かせていると、王華院さんに促された。


 そして僕は忠犬のように言われるがまま、何もない場所に立たされる。


「あの……じゃないや、王華院。俺に何か用があるんだろ?」


 ごめんなさい王華院さん! これから心の中で「さん」づけしまくるので、今ひとたびの不敬をお許しください!


「ああそうだ。ではすぐに済ましてしまおう。準備しておけ」


 ん? 何を言っているんだ王華院さんは。準備って僕は何をすればいいの? このまま直立不動していればいいのかな……って、え? え! ちょっとだんだん王華院さんの体が近くなってきてる? 嘘? 王華院さんってまさか僕のことを……?


 僕はもう『王華院さんが僕にソレをしようとしている』と決めつける。



 恐る恐る目を閉じて…………僕は、みぞおちにボディーブローを食らった。


「ぐほぁっ……! ……?」


 視界を自ら奪っていたのでそれしかわからなかった。


 でも。食らった瞬間、微かに目を開けると明らかに殴った後の態勢に、王華院さんはなっていた。さらさらの黒髪はふわっと舞って動いているが、顔のパーツは何一つ動いていない。

 僕は王華院さんに唇にキッスされたのではなく、みぞおちに拳のキッスをもらったんだ。


 僕は痛み、苦しみ、疑問など、様々な感情を持って地に落ち、伏した。


「ふぅ……ぅぁっ……はぁ……ふぅ」


 そのまま僕は床に這いつくばって静止する。


 痛い。苦しい。呼吸もままならない。


 恐怖か焦燥か、どっちかは知らないが全身からどわっと汗が噴き出す。


「ここまで弱いとは……。少しは期待したのだがな。残念だ」


 王華院さんは冷酷な声色で僕を蔑んだ。


 わけがわからないよ。なんで王華院さんが僕を殴ったんだ? 恨みでもあるのか? いやいやそんなわけがない。恨まれるようなことをしたなんて身に覚えがない。


 僕は徐々に呼吸が回復し、立ち上がろうとする……が、今度は頭に重いものが乗った。


「うぐっ……」


 それが何なのか、僕にはすぐに理解できた。


 足だった。生物の温かみのあるような足。王華院さんの足。



 ――前言撤回。僕は日本が大嫌いだ。

腹殴られた日本死ね(暴論)

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