第5話 詰んだ人生
話をしよう。
今日私は7歳になった。
そして、洗礼を受けることになる。
そこで私は神才を提示された。
だが、それは、
下位の神才だった。
ーーー
意識が戻った時には洗礼は終わっていた。
笑い泣きしてしまったことで目は少し腫れている。
……本当に、どうしたいいんだ?
私は女で、男尊女卑の世界で、生きるために必要な神才は、下位。
先の人生は確実に真っ暗だろう。
………いや、まだ希望はある。
神才の個々の能力、神技だ。
神技はそれぞれの神才にある他にはない特筆した能力、もしくはその神才でしか使えない力のことを指すものだ。
私は確か、『勇敢』という神才だったはずだ。
私にはそう聞こえた。
『勇敢』………か。
ラスタには解説は書いてなかったな。
ということは、あまりメジャーではないということだな。
さっきの貴族のハリエルは『破壊』の神才をもらっていた。
あれの能力は知っている。
確か、右手で触れた物を砕き、左手で触れた物を分解するってやつだったはずだ。
破壊の文字になぞらえてその能力は存在している。
破は砕く、解は解く。
それで砕くと分解に能力がわけられたって載っていた。
……ということは、
私の『勇敢』はメジャーではないというなら。
あまり能力に期待は出来ないのでは……?
……いや、大丈夫!
絶対に大丈夫だよ!!
きっとどうにかなるさ!!
なんて空元気にしてないと死んでしまう。
ちなみにこのあと、全員の洗礼が終わると一人一人に才能書が渡される。
それにはその神才の能力や人体機能の限界。魔法の向きや不向きが載っているらしい。
それに賭けるしか、もう手はない。
どうか、どうにかなってくれぇ!!
ーーー
「……これにて洗礼を終了します。そして、これより才能書を配布いたします。名前順に書斎前に整列してください」
そうして私達は列になりシドウの前に並んだ。
一人一人が才能書を貰い自分の能力を自慢し合っている。
ちなみに、冠位の神才に導かれたのは2人。下位の神才に導かれたのは1人だ。
私だけ、か。
ちなみにもう1人の冠位はキザなナルシスト的な少年だった。
外見が嫌いだったせいか名前すら覚えていない。
確か、能力は『砂漠』だったはずだ。
神技の内容はわからないが、あまり脅威ではないだろう。
さて、早く私の番にならないものか……。
だがそれも怖くはある。
もし……、私の能力『勇敢』の神技がロクなものではなければどうしようもない人生を送ることになる。
私のエリート街道が……。
約束された勝利の道が………。
……恐れるな、
大丈夫。いつだってそうだったではないか。
いつも乗り越えてきたではないか。
しかも、運任せとあれば私は百戦錬磨だ。
……今までのことは置いとけ。
さぁ!来い!!どんな未来でも!
……いや、エリート街道真っ暗は嫌だけども、
きっと希望への道になるさ!!
私の神才よ!!きっと希望であれ!!
「……レオノーラ・リームレット」
「はい」
シドウは私の名前を呼ぶ。
その声はやけに静かで何か不安気な感情を持つような声だった。
「……(『勇敢』の神才って……何?)」
「……(俺も初めて聞く名前だよ、家の周りじゃ誰も『勇敢』なんて神才もってないからな)」
周りからの野次が聞こえる。
……『勇敢』は、あまりメジャーな能力ではないのは確からしい。
あれだけ周りの奴が言っているんだ。きっと珍しい能力なのだろう。
……これは、期待していいのだろうか?
「これは、『勇敢』の才能書です。才能書は自分を表すもの。大切にしてくださいね」
手に取った才能書は少し厚く、私の小さな手には収まりきらないものだった。
それを私は両手で受け取り一礼をする。
「ありがとうございました。シドウ神徒殿」
私は列から外れ、1人の場所に行った。
本の表紙に手をかける。
その手を上げる力は、生半可なものではない。
だが、開かなければ前には進めない。
それも理解しきっている。
重い手を無理やり押し上げるようにして、
私はページを勢いよく開いた。
そこには、
『勇敢』
その他、不明。
白紙のページに、ただそれだけの質素な文が綴られたいた。
「………」
「……………はっ、」
「くっはっはははははははははははっははは!!!」
私は沈黙の後に、声を荒げて笑った。
そうか、そうかそうかそうか!!
これが!!これが私の第2の人生か!!
こんなにも人生とは非情な物なのか!!
嗚呼!!なんと!!なんとも!!!
「悲劇的なんだ!!!」
叫んだ。
私は只ひたすらに笑い、叫んでいた。
理性などなく、平凡などとは程遠い状態で、
意味など知らず、叫んだ。
ーーー
一頻り叫び終わると、どっと疲れが襲う。
いつの間にか夕立が降っていた。
気分が天気と比例すると、こうも感傷的になるものなのかとあらぬ心に問う。
……返答などない。
「……帰ろう」
教会を後にして、私は帰ることにした。
傘などは無く、濡れて帰るしかない。
電話なんてものはないから連絡すら取れない。
私は酷い夕立の中を帰ろうとした。
「……ねぇ」
ふと、後ろから声が掛かる。
疲れ切っていた私は、首を無理やり声の方に向けた。
「初めまして。僕はハリエル・エヴァン。先ほどの洗礼に同席していたものです」
そこに立っていたのは、あの『破壊』の神才を受け取ったハリエルだった。
傘を持っていた彼は私にそっと傘を差し出して、こう言った。
「よければ、いっしょに帰りませんか?」
「……それは、貴族様のご命令ですか?」
「いえ、命令などではありません。ですが、あの、雨に濡れたままでは風邪を引くと思いまして。……いらぬ気遣いですか……?」
少し不安気に笑いながらハリエルは私にそう聞く。
そう申し訳なさそうに言われると、断りにくいのが日本人の特色。
「……では、お言葉に甘えさせていただきますね」
私はハリエルの傘に入った。
ーーー
「………」
「………」
お互い、無言であった。
話すことなどなく、話す理由もない。
それにより、静かに帰り道を辿るだけだった。
だが、私は沈黙が苦手だ。
だから私は思い切って会話をすることにした。
「……そういえば、『破壊』の冠位。素晴らしい能力ですね」
「………そんな、僕は中位の能力程度でよかったのに大層なものが宿ってしまっただけですよ」
………こいつ、イラつくな。
これは私を小馬鹿にでもしているのか?
大層な能力なんて欲しくはなかったが僕はどうやら神に恵まれていたみたいだね?……おや?君は確か下位の神才だったのですよね?あら、ざんねん。
とでも言いたいのか?
……ったく、これだから嫌なんだ。
上に立つ人間は。
………?いや、待てよ。
もしかしたら、私も部下達からそんなことを思われていたのか?
……これが、下の奴らの観点なのか?
私は、しっかりと部下達のことを考えられていたのだろうか……?
果たして、あの企業は正解だったと言えるのだろうか……?
「……でも、僕にはこんな能力勿体無いですよ。操れる気がしないので」
……(ピキッ。
「そうですか。なら、もっと有能な人が持った方が良かったのかもしれませんね」
……っあ、しまった。
つい苛立って心にも無いことを言ってしまった……。
だが、ハリエルは苛立つ様子もなくむしろ笑いながらこう言った。
「ええ。例えば貴方とかにでも、宿ってくれた方が良かったというのに」
………(ぶちっ。
私の中で、何かが切れる音が聞こえた。
それと共に私は決壊したダムのように言葉を並べ始めた。
「あぁ、そうかよ!!ならあんたのその素晴らしい生涯を私に譲ってくれよ!!そんなに恵まれた人生なら私にだってもっと優れた環境を配備してくれたって良いというのに!!神は理不尽だ!!どうせ君も心では『下位の神才と冠位の神才。この差がわかるか?』とでも思っているのだろう!?ならば帰ってくれ!!邪魔だ目障りだ耳障りだ!!君のことなど!!君の声など!!2度と見たく無い聞きたく無い!!頼むから今すぐにでも消えてくれ!!」
息切れするほど私はハリエルに対して暴言を放った。
「……そう、ですよね。僕など目障りですよね」
ハリエルはなんの抵抗もなく帰る。
その場に傘を1つ置いて走り去って行った。
……わかったよ。
これが私の第2の人生なんだろ?
ならば、その恵まれない優れないつまらないロクでもない人生だって、
幸福に!!エリートになってやろうじゃないか!!
舐めるなよ糞神ぃ!!私は!!今日ここに誓う!!
お前のふざけた生涯を!!ぶっ壊してやる!!
雨の中に1人、少女の私は誓った。
そして、この日から。
この瞬間から。
私の逆光人生が、始まったのである。