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厳しい現実を異世界で!! ー『詰み』から始まる転生劇ー  作者: G-pro
第1章 幼少期 ー神才編ー
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第4話 誕生、そして洗礼

朝、いつもより少し早い目覚めだった。

陽の光がただ眩しく、やけにうざったらしい。

窓を開けても風はなく、唯ひたすらに私を光が照らすだけ。

強い風は、私に何かを伝えようとしているのか、

強い日差しは私に何かを訴えかけているのか、

それを知ることはなく、ただ騒がしい全てを受け入れた。


そんな詩的な感じで始めるいつもより本当に少し早く起きた朝のことだ。


今日、私は7歳になる。それ即ち、


やっと、私の潜在能力、『神才』を引き出して貰える日になった。


私が産まれたのは暦上で8月1日。

月の初めはその月に7歳になる子供が一斉に教会に集まり洗礼、つまり神才を引き出してもらう儀式に参加する日なのだ。


私は8月1日に産まれたから洗礼を受ける日が7歳のお誕生日なのだ。

いえい!やったぜ!



なぁんて言ってられないから困ったものだ。

私は女で、そして社会の風潮は男尊女卑。

そんな最悪の状況で転生してしまった私、レオノーラ・リームレットはそんなことで喜んでられないのだ。


くそ、頼む。どうか素晴らしい神才が私にあってくれ!本当に頼む!!


もはや出来るのは神頼みだけ。

だが、神はきっと私を見捨てたりなんてしない。


なぜなら、私は転生者だからだ。

転生系のお話ならば、きっと私には、

チート能力が宿っているに違いない。


そう。チート能力。

それがあれば女という不利な条件もカバー可能だ。

この世界で上位の神才を持っている人は大半の職に属することができる。

しかも神才の適正職の場合は企業であれば即重役確定、軍であれば大佐から就職可能。

エリート街道まっしぐらだ。


そうそう。これだよ。

これが私に約束された人生薔薇色エスカレーター。

きっとそうなる。いやそれしかない。

大丈夫だ。そうなるに決まっている。


「ほら、レーラ。早く着替えるんだ」

イヴリンはそう言って服を私に渡してきた。

今日の服も母のお下がりだ。

まだぶかぶかで肩が出てしまう。


「お父様。教会に行くのにこんな服でいいんですか?」

「なんで教会だからっておめかしなんてしなくちゃいけないんだよ。むしろ失礼にあたる」

「そうなんですか?」

「ああ。神に対する場で自らを飾り付けるなど無意味だとでも、言いたいんじゃないか?」

ほう。それは初めて聞いた。

覚えておこう。


「……ちなみにお父様はどう思いますか?」

「くだらんと思う」

きっぱりと言い切る。

やはりイヴリンとは考え方が似ているな。

もしかしたら、考え方が似ている人の子になるように神が設定しているのか?

うーむ……。まぁ、いつかわかるだろう。


「そういえばお父様。私に一言ないんですか?」

「……なんでそんな嫌味みたいに言うんだ?あとで存分に祝ってやるから。ほら、早く着替えてご飯食べるぞ」

「はい。わかったので早く部屋を出てください。着替えられません」

「……早くも反抗期か……」

そう言うとイヴリンは部屋の外へ出て行った。


今の時間は朝の5時半。

洗礼の時刻は朝の7時と早く、起きるのを少し早める必要があった。

それは両親である2人も同じことだ。


さて、着替えるとするか。

そう思い服を脱ぐ。


まだ7歳ということでさほど肉体に魅力はない。

いや、ロリコンにはドゥフフな肉体なのだろうか。

ぺったんこの胸を見ながらそう思う。

体に女らしさは見られない。

だが、男らしい黄金バットも見られない。


即ち、やはり私は女なのだ。

本当に今からチェンジできないものか。


ーーー


「レーラ、誕生日おめでとう!」

リビングに行くとクレアが私のことをぎゅーっと抱きしめた。

暖かく柔らかい豊満な風船的なものが顔に思いっきりあたる。

そうそう。これが女らしい肉体だ。

……いや、胸だけで判断はしないからね。


「ふぁい。おふぁあ様」

胸が当たっているせいで上手く喋れないが私はお礼をいった。

そうするとクレアは私を胸から離した。

「今日からレーラも神人になるのね」

「……?神人とはなんですか?」

そんな言葉は初耳だな。

「神人っていうのはね。新生教に入っている人のことを言うのよ。神徒さんから神才を引き出してもらったらもう新生教に入ったことと同じだからね」

「そうなんですか。教えてくれてありがとうございます」

私はできる限りの笑顔をクレアに向ける。

「……レーラは本当に可愛いわね」

そう言うとクレアはもう一回ぎゅーっとした。


「ほら、クレア。そろそろご飯を食べないとレーラが洗礼に遅れてしまうよ」

「あ、そうだったわね。ほらレーラ。朝食にしましょう」

「はい。いただきます」

そんな会話をして朝食を取り出した。


ここでの主食は基本的にパン。

どうやら私たちの家の周りの畑は小麦畑が主だったらしい。

米もあるらしいが、どうやら東の方だと本で読んだ。

こちらは世界全体にすると北西方向にある。

前世で言うとイギリスあたりだろう。

……米、食べたいな。


他はサラダ、タマネギのスープ、そしてスクランブルエッグだ。

ちなみに卵は魔物のオールドチキンというやつからとっている卵らしい。

オールドチキンは名前の通り年老いた鳥だ。見た目は鶯の色合いに近く、すごい髭を蓄えている。

さほど強くはないらしい。

卵の特徴としては鶏の卵よりも色が白いのが特徴で、味は薄い。

私的には鶏の卵の方が好みだ。



「ごちそうさまでした」

そんな全体的に薄味の朝食を私は食べ終える。

「少し外の空気を吸ってきていいですか?」

「ああ。わかった」

「レーラ、なるべく早く帰ってきてね」

「はい」

そう話して私は1人外に出た。


少し土臭い外の香り。

私はそこまで嫌いではない。

都会よりかは田舎の方が好きだったからな。

都会は、人口の光が眩しい。だが、田舎は、陽の光が眩しい。


同じ光でも、優しさと無機質さの違いは大きい。

太陽の光は暖かい。しかし人口の光は寒い。

その差は、確かなものだと私は思う。


だが、都会の眩しさも嫌いではない。

冷たさがあるのとは裏腹に、どこか憂いを帯びている。

そこが人口の光の魅力だ。


「すぅ………はぁ……」

深呼吸を1つ。

陽は私のことを暖め、そして勇気付けてくれる。

まるで勇気が湧き上がってくるようだ。


恐れるな、約束された未来に何を恐れる?

怖がるな、薔薇色人生に対して何を怖がる?

大丈夫。


安心しろ。決まった戦に変更はない。


「……よし」

空気を吸い終え、腹を決めると私は2人に声をかけに行った。

教会に向かうために。


ーーー


「……立派な教会ですね」

「いや、見たことあるだろ」

「リアクションって大切なんですよ?お父様」

「誰に対してのリアクションなんだ?」


そんな会話を挟みつつ、私はそこそこ大きい教会を見つめていた。


実際何回か見たことはあるが、風情のあるいい建物だというのが第一印象だ。

大きなステンドグラスが正面のドアの上にあり、そのステンドグラスには『最後の晩餐』みたいな絵が描かれている。

そして、周りは草が生えていて街の地上みたいに石レンガにはなっていないこともまた良い。

建物の素材は大理石のような、白の磨かれた石だ。


……うん。良い。好き。

この単語しか浮かばないくらい綺麗な教会だった。

私は納得した表情を浮かべる。


さて、時間より少し早く着いてしまった。

まぁ5分前集合は当然だからな。

いっしょに来てくれたイヴリンには申し訳ないが、私の方針に合わせてもらった。

「そんなに早く行く必要があるのか?」

と言われたが。


どうやらこちらの世界に5分前行動というものはないらしい。

ちなみに『ほうれんそう』も聞いてみたが、知らないの一言でバッサリと切られてしまった。


流石は異世界。

オフィス業よりも冒険家やら騎士魔道士が多い世界ではそんなものは必要ないのか。

……そうでもなくね?


まあ、いいんだが。

「お父様。先に中に入っていましょう」

そういわれたイヴリンの表情は少し曇っていた。

「……いや、それができないんだ」

「え?」

「洗礼を受けている時間帯は大人は入ってはいけないんだ」

「それはまた何故ですか?」

またとんでもなルールだな。

何か害でもあるのか?


「昔、教会で洗礼を受けている子供たちに対して奴隷会社の奴らが押し入って子供たちを攫ったっていう事件があってな。それにより大人は立ち入り禁止になったんだ」

「……そうだったんですか」

そうか。そんなことが。

確かにそれなら納得だな。


「わかりました。では中に入っています」

「おう。気をつけてな」

「はい」

そう話すと私は教会の中に入った。



やはり、中も綺麗だ。

東から差し込む太陽の光がステンドグラスに注がれていることによって、ステンドグラスの柄がカーペットに映し出されている。

椅子が綺麗に並べられていて、柱も均等に立っている。

まっすぐ伸びているカーペットの奥には小さな机、その上には本が一冊乗っている。


「……ほう。綺麗なもんだ」

つい素の状態で喋ってしまい、口を抑える。

おいおい、ここで男の口調を出してしまうと痛い目で見られることになるぞ。

そんなのは安定な未来の害になる。

やめよう。やめるんだ。


「……おや?君は洗礼を受けに?」

声をかけられるとともに、体がびくっと動く。

「は、はい」

「そうですか。私は今月の洗礼、および儀式を担当させてもらいます、神徒のシドウ・スーベルです。よろしくお願いします」

シドウという男はそういうとともに一礼した。

「私はレオノーラ・リームレットと言います。よろしくお願いします」

私もそれにつられ言葉を発し一礼する。


外見は白いフードつきの模様入り羽織を着ている。

背丈は170センチほど。私から見れば大男だが、はたからみれば少し小さいくらいだろう。

声はおとなしく、顔は見えないが黒い髪がフードの下から伸びている。

口元のシワが無いことから考えるとまだ若いだろう。


人は悪くなさそうだが……。

何故だが緊張してしまう。


「……綺麗な教会ですよね」

シドウは急にそんなことを言い出した。

「……そうですね」

「ここは、新生戦争当時からある由緒正しい教会なんですよ。数十年前に外壁の改築をして以来、何も変えてはいないから約数百年くらい前からありますね」

「とても古いものなんですね」

「ちなみにステンドグラスは作られた当時から手を加えていないということで今では国宝に指定されています」

「そうだったんですか。よくご存知ですね」

「ええ。私もこの街の出身なので」

そういうとシドウは笑いながらそう言った。


「……そういえば」

私はふと、気になったことを聞いてみることにした。

「神徒というのはどうやったらなれるものなのですか?」

それを聞くとシドウは少し考え込む。

「……えー、と。一応神徒になるためには『使徒』の神才を持っていることが最低条件になります」

「どうして『使徒』の神才を持っていなくてはいけないんですか?」

「……リームレットさんは神才には個々に神技があることをご存知ですか?」

「はい」

それは聞いたことがある。

例えば『剣聖』は剣術の技を最初から使うことができる。とかそんなものだった気がする。

だが、その特別な力。神技には潜在能力として与えられるのに個人差があるのだ。それによって位が分かれているらしい。

「『使徒』の神技は神からの言葉を聞くことができるというものなので、神才を引き出すためには『使徒』の神技が絶対に必要なのです」

……そういうものだったのか。

「……ですが、それを悪用する輩が現れるのでは?」

「それが……。『使徒』の神才を手にしているとわかると皆神徒になろうとするのでその心配がないのです。なりたい職業No.1ですからね」

「そうなんですか」


話している間に多くの人が教会の中に入ってきていた。

「……さて。そろそろ洗礼を始めますので失礼させてもらいますね」

「はい。お時間を割いていただいてありがとうございました」

「いえいえ」

そういって一礼すると、シドウは教会の奥に行ってしまった。


そろそろ、か。

個々に正面奥に向かい洗礼を受けた後、神徒から神才を言い渡されるとともに才能書が与えられる。

ちなみに7時集合の理由は太陽がステンドグラスから入る状態でないと神のお告げが聞かないからという理由らしい。

それにより全ての教会は自動的に統一された紋様の入ったステンドグラスがありどこの教会も東向きに作られている。

なんとも凝っているなぁ、なんて思ってしまう。


いや、凝ってるというかそうしなくてはいけないからしょうがないんだけどな。



そうして、洗礼が始まった。

名前順に並んだ私たちは一人一人正面奥に向かって行く。

私はラ行だから遅い。

待っている間は手前の奴らが一喜一憂する姿をのうのうと眺めていた。

上位の神才を手にして喜ぶ者。神才の種類について嘆く者。

見ていて飽きないものだ。人の反応というのは。


そんなある時、

「ハリエル・エヴァン」

「はい」


ハリエル・エヴァン。

エヴァン家は有名な貴族らしい。

外見は紺色のローブを着ており、髪は灰色。目は淡い青。美少年とは彼のための言葉だ、と言わんばかりに顔立ちがよく、しかしキザな感じがしないとてもナイスなガイだと言える。少し目付きが良くないのが玉に傷なのだが。背丈は130前半くらいだろう。きっと将来は美少女たちとキャッキャウフフしまくるのだろうな。


ハリエルは名前を呼ばれると正面奥に行った少年は洗礼を受け、儀式を始めた。


その時、

「…………ッ!!」

シドウは驚きの表情を浮かべ、声を漏らした。

それを聞くとともにあたりは沈黙。全ての子供は声を止めた。


そして、シドウはこう言い放った。


「彼の者、ハリエル・エヴァン。神は貴殿に『破壊』の神才冠位を授けた。それを誇りと思い、これからの生涯を精進せよ」


それを聞き、沈黙は溶けて大きな歓声が上がった。

あいつは美少年な上に冠位の神才保持者だって!?なんて優良物件なんだ!!


とかは言わず、単純に凄いという驚きの歓声だろう。

拍手まで送られている。


だが、一方のハリエルは、

「………」

その無愛想な感じを漂わせる目を喜びに緩めることはなく、ただ悲しそうに自分の手を見つめていた。


……あいつは、今何を思っているんだ?

大半の奴らの心理くらいはわかるはずだが、あいつは妙に読めない。



「レオノーラ・リームレット」

「はい」

そんなこんなで、やっと私の番だ。


私は正面奥のステンドグラスの手前に立つシドウのところへと向かった。

シドウはステンドグラスからの日の光で黒く影になっている。

そして、そこに着くと地に膝をつけ手を握りシドウに向かって祈りを捧げる。


「我、レオノーラ・リームレットはこの生涯を果たす時まで神への忠誠、共に信仰を誓います」


それを言うと、次にシドウは私の額に塩水をかけこう唱えた。


「神霊の加護の名の下に、彼の少女に永遠の希望を与えたまえ」


するとシドウの前に置いてあった本が宙に浮き、パラパラとページをめくれ出した。


そして、その音が止まる。


「………ッ!?」

そしてシドウはこう言い放った。



「彼の者、レオノーラ・リームレット。神は貴殿に『勇敢』の神才下位を授けた。それを誇りに思い、これからの生涯を精進せよ」



この結果を受けて、私はボソッと呟いた。



「……あ、これ『詰み』だわ」



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