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厳しい現実を異世界で!! ー『詰み』から始まる転生劇ー  作者: G-pro
第1章 幼少期 ー神才編ー
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第12話 遠い過去の記憶


ーーー


夢を、見ている。

前世の頃の淡い記憶。懐かしく、優しい夢。

「ねぇ、お父さん!」

ソファに寝転がって日向ぼっこ紛いなことをした私の頭の上の方で少し大人びた、いや大人びたいような可愛らしい声が聞こえた。

「……どうした、優衣(ゆい)

それは、私の娘だ。

(よわい)15になる中学3年生。私の1人娘。

大切な、子だ。

推薦受験も無事合格で終わり、第1志望に向かおうとしている。

「今度の日曜日お母さんと出かけるつもりです」

「そうだな。聞いているよ」

「……何かありますか?」

「何かあるか、とは?」

「買ってきて欲しいもの」

珍しくそんなことを口にした。

優衣からそんな言葉を聞くなんて、久しぶりな気がする。


「どうしたんだ?急に」

「……自分の誕生日を忘れるくらい今の企画が大変なんですかー?」

……ん?誕生日、か。

今日は2月18日。

そうか、来週は私の誕生日だ。

2月25日だったな、自分の誕生日なんて忘れていた。

私も、レオノーラとして慣れてしまっているからか。

8月1日が誕生日になっているように思える。


欲しいもの……か。

「……美味しい夕食が欲しいな」

「それは、お母さんと私の料理が美味しくないってことかな?」

「それは違う、おい、拳を下ろせ、怖いから」

「……それくらい、いつでもやるよ」

「そういう意味じゃない」

「じゃあ何?」


「いつも通り出迎えてくれて、おめでとうと言ってくれて、美味しい夕食が並んでいる。それが私にとっては何よりのプレゼントだよ」

私はそう言う。

生前の私が何よりも幸せに思っていた、その瞬間。

それさえあれば、前を向いていられる気がした。

「……お母さーん!お父さんが臭い言葉を言ってるよー!」

「別にいいだろう」

「どうしたの?『ーーー』」

妻が私の名前を呼んでこちらにきた。


………、その時、ノイズが入った。

瞬間、もっと懐かしい色の記憶を見る。

これは……いつだろうか、もっと昔、私が子供だった頃。

1人で家で遊んでいた、無愛想な顔をした子供。

私だ。そう、この記憶は残っている。

だが、不自然だった。


そこに、1人の女性の姿があったからだ。

両親は共働きで家にいない。ほとんど帰ってこなかった。

だが、誰か家にいた記憶はない。少なくとも、あったとしても私の記憶からは抜けている。

黒い髪が胸くらいまで伸びていて、それをまとめたりはしておらず、大和撫子。そんな言葉がよく似合う女性だ。

身長は、どれくらいだろう。小さい私から見て相当大きく見えるが……165くらいだろうか。

少しつり目をしている顔を優しげな笑みを浮かべ、私と話したりしている。


………だが、そんな顔のことよりも、私の印象に残ったのは、『手』だった。

なぜか、その綺麗な手だけは記憶に残っている。

理由はわからなかった。


「ねぇ、『ーーー』。君にとって、その手はなんの為にあると思う?」

その言葉は、よく響き、透き通る声で放たれた。

当時の私は首を傾げて、

「勉強……するため?」

そう答えた。

昔から、自分の好きなことを知ることが勉強だと思っていた私はそう答えるしかなかった。

だが、女性は首を振った。

「違うわ、答えはね」

そういうと私に握りこぶしを突き出して、笑いながらこう言った。


「人を、生かす為にあるのよ」


その言葉は、やけに重く、しかし心に打ち響くように頭に残った。

そして、周りが明るくなって夢は途切れた。


ーーー


日が差す、朝の合図だ。

「………懐かしい、夢だった」

私はあのシャルルの会話の後、一度考える為に寝ることにした。

ちなみにシャルルは私の冒険家学園についての入学の件も手伝ってくれる。それだけで素晴らしい成果なのだ。なのだが、


『勇敢』の神才の才能書を私が書く、か。

想像もしていなかった。

確かに作者名も書いてなく、中身もすっからかん。

才能書を書いた人間がその神才の原初、神になれるなら理論上でそれは可能だ。

驚き、なんて言葉で表すにはあまりに浅はか。

そんな小さなものではなかった。

言葉で説明するにはあまりにも難しすぎる。

しかし、それで私の夢を叶える為のルートができてしまった。

案外、近くにあるものだ。


しかし、才能書を作ると言ってもどうすればいい?

私の才能書は先程も言ったとおり中身がない。

どういう項目があり、それをどう書けばいいのか。

それは私にはわからない。

しかも文才は小説家レベルにあるわけでもない。

私は顎に手を当ててしばし考える。


………まぁ、それはシャルルに聞けばいいのか。

だが、宗教的には自分の才能書は人に見せてはいけないらしい。

しかも、旅などをする際はしっかり持ち歩いていけない。それは新生教を信仰するために必要らしい。

あれだ、ヒンドゥー教が牛を食べてはいけないみたいな感じだ。

共に才能書は自らの信仰対象。

この宗教の信仰対象は自らが神才の原初。

その人の人生を記したような才能書はもはや聖地を持ち歩いているのと同じ。

祈りの時間帯とかはないらしい。

まぁ、そこら辺はあまり指定はないみたいだ。


うーん……、シャルルは教えてくれるだろうか。

正直不安だが、まぁ、ダメならその時だ。

ひとまずは聞いてみよう。

「……というか、起きなくちゃ」

私はそう思い布団から体を出す。

ベッドから立ち上がるとぐーっと伸びをした。

伸びをすると血流が良くなるのを感じる。

さて、今日は何をしようか。


なんて、考える余裕はない。

昨日あんなことを言われたらそれについて調べたら冒険家学園の説得をするしかないだらう。

まぁ、どうせ入学できるのは10歳からなのだが。

あと3ヶ月くらいすれば私は8歳。

時が経つのは早いものだ。

もうそろそろ1年経つのか。あの時から。

1年で道を外す方法をつかめたのは奇跡だ。

本当にシャルルに感謝だな。


「おはよう」

そしてそんな無防備な私がいる自室に入ってきたのはもちろん、シャルルだった。

「おはようございます」

「……随分と眠そうだね。いつもならこれくらいに起きていると話を聞いているんだけど」

「昨日あんな話をされたら、それは眠れないでしょう」

私はそう言いながら彼を睨む。

寝不足だ、正直少し頭痛い。これは本当だ。


「それはごめんね。ただ、無益な情報ではなかっただろう?」

「確かにそうですけどね」

彼はそう言いながら笑うから言い返す気はあまり起きない。

まぁ、実際に彼は人当たりの良さそうな人間だ。

「そういえば、昨日は父達とゆっくり話せたんですか?」

「ああ。それはもう楽しく話したともさ」

彼はニコリと笑いながらそんなこと言う。

そうすると彼は右手を手の無い左肩に当てる。

「これの話を思いっきり言及されたけどね」

少し困った顔をした。

「……それは、冒険家をしてる時に怪我をしたんですよね?」

「そうだね」

「でも、魔導のレベルのものを使えば治るはずではないんですか?」

イヴリンの左手は確か治癒魔導で助かったはずだ。

もし理由があるならば、呪い的なものを付与されているしか通常の場合はあるまい。


「……実はね、私の左手は行方不明なんだ」

「……左手が、行方不明?」

なんだその案件は。

日本にしてみればとんだ大事件だろ、左手だけないとか。

なんだその猟奇的すぎる事件。

「見つかってないってことですか?」

「そう。敵にやられてから意識失っちゃってね、左手の行方がわからないんだ」

「敵って、人ですか?」

「えー、と。人といえば人。だけど、人外ではあるような……何か?」

なんだよ、すごい曖昧だな。

まぁ、あれか。天使とかそういう外見人間だけど人外みたいな感じか。

「そうなんですか」

「まぁ、今更どうしようもないだろう」

シャルルはそう言いながら諦めたように手を振る。


「……そういえば、私の冒険家になるための話。協力してると言ってましたが」

私は思い出したようにそれを聞いた。

正直、それが今一番重要である。

シャルルの助けがあることが大切なのだ。

「あぁ、勿論。できる限り力になるつもりだよ」

シャルルは笑う。

「なら、早速今日にでも説得をしたいんですが」

「うーん……、でもレーラちゃん」

「はい?」

シャルルは困った顔をした。

何か問題や障害があるのか?


「なんで、わざわざ冒険家になる必要があるの?」


………、確かに。

側から見れば世界に名を残すと言うなら才能書を完成させるだけで充分。

即ち、冒険家である必要はないんだ。

でもなぁ、こういうファンタジー世界に来たなら冒険したいよな。

結構昔からゲームとかが好きだった俺にしてみればこれは絶好のチャンスなんだ。

娘の影響で死ぬ直前までゲームやアニメなどは見ていた。

深夜アニメも娘と一緒にチェックして見るもの見ないものを分けて録画。

1人で見るものと娘と見るもの。

そうやって分けて見て来た。

死ぬ直前までそういう2次元の物を見てたら、転生したならそういうのやりたいと思うだろう。

それは危険だろうさ、でもやりたいんだからしょうがないじゃないか。

……まぁ、怖くないと言ったら嘘になるが。


……なんて力説してる場合ではないな。

「……冒険家は、あくまでも踏み台なんです」

私はそう口にする。

「……?踏み台?」

「そうです。才能書を書くにも自分の限界を定めなくてはいけない。それなのに弱いまま上限を決めてしまっては次にこの才能を持つ人が可哀想ではないですか」

「……確かに」

シャルルは少し考えるような仕草をする。

「だからこそ、努力をして力をつけて、次にこの『勇敢』(ブレイヴ)の神才を持った人が強くいられる術を残したいのです」

私はピュアな瞳をシャルルに向けた。

なるべく純真な瞳を。


「……そうか。わかった。それなら協力するしかないね」

シャルルは納得したようにそう言った。

ふぅ、これで冒険家学園の話をしてもらえる。

「シャルルさんも、冒険家になるのは反対なんですか?」

一応そんなことを聞いてみる。

さっきの問いから考えるとやはりよく思っていないのだろうか。


「いや、反対ではないけど、お勧めもしないかな」

「というと?」

「やはり、夢とロマンはあるけど、その分の代償が大きいからね。下手したら死ぬかもしれないんだ」

シャルルは少し悲しそうに言う。

……あぁ、あの時の目だ。

黒い泥が溢れる、哀しい目だ。

「まぁ、あんなこと言われたら断りたくてもねぇ」

諦めたように笑いながらそんなことを口にする。

「覚悟はできてますから、今更引き下がる気はありませんよ」

「そうか」

シャルルは私を見て目を細めた。


「やはり、君はその歳にしては大人び過ぎてる」


……っ、

背中に冷たい汗が伝う。

「なんてね、大人びていることくらいあるさ。だってあの2人の子供なんだから」

そう言いながらシャルルは私の頭を撫でる。

彼は、一体どこまで私に探りを入れているのだろうか。

少し、人として読みにくい。

性格というよりかは、言動思想などのところ。

現実でこういう人間と対立したら厄介だったろうな。

「さて、どうするんですか?何かいい方法でもあるんですか?」

私は話を戻してそう言う。

「そんな作戦なんかはないよ。説得は策略立てて成功するものではない。事実を突きつけて信用させるものだ」

シャルルは得意げにそう口にする。


まぁ、真実を突きつけて理解させるのは手っ取り早い。

しかし、それでイヴリンが信用するだろうか。

そもそも信用させる素材などあるのか?

危険という事実以外に後はどうしようと言うんだ?


「……なら、私は貴方を信じればいいんですか?」

私の中での結論を彼にぶつける。

それしかない。彼は策略を立てずとも勝てると言った。

勝てるとは言ってないが、冒険家にさせてやるとは言った。

ならば、そう言っても変わらないだろう。


「勿論。有言実行が僕のやり方さ」


シャルルは笑いながらに言う。

書斎の中では日が射していて眩しい。

そしてそれが彼に被さり更に眩しさが増している。

やはり主人公というのはこういうのを言うんだな。

実に私に不釣り合いな言葉だ。


「では、よろしくお願いします」

「あぁ。こちらこそ」

シャルルは手を差し出した。

握手を交わす……ということだよな。

私はその手を取り握手を交わした。


そして、その日の夜。

私たちとイヴリンとの言葉の戦争が始まった。


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