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厳しい現実を異世界で!! ー『詰み』から始まる転生劇ー  作者: G-pro
第1章 幼少期 ー神才編ー
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第9話 修行「虚実拳」


ーーー


また朝日が無情にも登る。

昨日は少し本を読み過ぎてまだ寝ていたいとも思うが、ランニングもあるので無理やり体を起こすことにした。

「………んくぅ……」

伸びをすると体の血の巡りが良くなるのを感じる。

さて、今日も1日頑張りますかね〜。


にしても、筋肉や体力の付きが大分よくなったな。

最近は持久力も伸びてきてイヴリンとの鍛錬でも休憩が少なくなってきた。

いやはや、自らの努力を身を以て体験するとはこんなにも気持ちいいのか。

そう改めて実感した。


だが、あまり無理をするとイヴリンが心配するのでやはり適度な休憩は取るようにしている。

体調を崩してイヴリンに鍛錬禁止令を受けてしまったら私は正直どうしようもない。

それをされてしまうと、本を読むか花を愛でる他にすることがない。

……もう少し、他の趣味を作ろうかな。


あ、そうそう。育ててた花が咲いた。

赤い綺麗な花で、形状は彼岸花(ヒガンバナ)に近い。

花を愛でるのはまたそれも楽しい。

やはり、そういう感性は女性向きになってきているかもしれないな。

なんか嫌だけど。


しかし、男に恋をすることはない。

ときめきもしない。

いや、思春期に入っていないというのもあるかもしれないが。

……それでも、もし恋をするようになったら嫌だな。

想像するだけで寒気がする、嫌だ、断じて嫌だ。


「……っと、早くランニングに行かないと朝食を取る時間が少なくなるな」

そんなことを考えながら私はいつも通りのランニングを始めるのだった。


ーーー


「お父様、今日は何をするのですか?」

ランニングを終えて朝食を食べた私はイヴリンのもとに行き今日の修行の内容を聞きに行っていた。


イヴリンの部屋は意外にも書斎チックな所だ。

六畳くらいの広さで左奥にベットがあり、その右側は机がある。

そして、壁沿いに本棚が並んでいて開いている空間はなく几帳面に並んでいた。

(……なんか、すごいお堅い部屋だな)

まっさきに思った感想はそんな感じだった。


とても静かな空間で、イヴリンは机に向かい本を読んでいる。

私には気づいていないようだ。

「あ、あの。お父様」

私はそう聞きながらイヴリンの背中をトントンと叩いた。

するとイヴリンはビクッと驚いたように私の方を勢いよく向く。

「な、なんだ、レーラか」

こちらを向いたイヴリンはメガネをしている。


(………ん?メガネ?)

私はそこが引っかかった。

この世界の文明にメガネがあるのか?

なんか、異世界なのにメガネをかけている光景がとても驚きでならなかった。


「あ、あの。お父様の目にかけているのはなんですか?」

私はなるべく知っていると悟られないように聞いた。


「ああ。これは遠近調節鏡えんきんちょうせつきょうというもので、目の悪さをサポートするためのものなんだ」

「……(メガネではないんだ」

「ん?何か言ったか?」

「いえ。なんでもないですよ」

なんか、やけに堅苦しい名前なんだな。こっちのメガネってのは。

形は現実のメガネそっくりだ。

黒い縁取りに透明なレンズがはめ込まれている。

……なんか、割と似合ってるな。


「レーラは目がいいからな。まだ必要はないよ」

「そうですね。でも、若い頃にそういうのを掛けていると目が良くなるって言いますよね」

生前にそんな話を聞いたことがある。


「そうなのか?」

……あ、そうだ。

私は今このメガネを知らない設定なのか。

「……そんなことを読んだことがありました」

「なのに遠近調節鏡は知らないのか?」

……痛いところをつくな。

流石はイヴリン。本当に口と頭が回るな。

さて……どう言い訳しようか……。

私は必死に考える。


「……具体名は知らなかったのです」

苦し紛れの言葉だったが、こんなものしか浮かばない。


「……まぁいい」

そう言うとイヴリンは本を閉じた。

……ふぅ、よかった。

「じゃあ、虚実拳についての説明を始めるか」

「はい。お願いします」

「先に外出ててくれ」

そう言うとイヴリンは私服からトレーニング用のシャツを着るために着替え始めた。

それを見ると私は先に外に出ることにした。


ーーー


一足先に外に出た私は庭の芝生に寝転がっていた。

今日は快晴だ。

深い青が気持ちいい。

このままぼーっとしているのもありかもしれない。

昨日も今日も晴天で〜……。

……夏でもないのに歌うのはおかしいかもな。


「おーい!レーラ!始めるぞー!」

「……よいしょっと。今行きます!」

さて、今日も楽しい努力のお時間だ。

私は立ち上がると走ってイヴリンの方へと向かう。

イヴリンは軽い準備運動をしている。

私も近くに行くと軽く飛んだりした。

多少体を動かしておかないとなんか体の自由が利かなくなりそうで怖い。私も年だからな。

……あ、そうか。体は7歳の少女か。


「じゃあ、始めるか」

「はい。お願いします」

いつも通り挨拶をするとイヴリンは伸びをして足首を念入りに回しだした。

何か足を使うのか?虚実拳というのは。

「なんでそんなに足を回しているのですか?」

「虚実拳にはな、基本的なステップみたいなのがあるんだ」

へぇ。そうなのか。

てか、ダンスみたいだな。タンゴか?ワルツくらいなら少しはわかるけども。


「で、それはどういうものなんですか?」

さて、私にもできるものなのか。

剣術の方の足運びはなんか適当な理由でやめさせられてしまったが、教えてくれるということは私にも苦がないということと考えるべき……だと信じている。


「まぁ、見ててくれ」

そういうとイヴリンはゆっくりと歩き出した。

私はイヴリンのことを横から見ている。

歩き出したところで私は面白いものを見た。


なんと、イヴリンが軽く分身したのだ。

というよりかは、彼の残滓を見ているような感じだ。

残像を残しながらイヴリンは前に歩いて行っている。

そして、その残像は少しずつ数を増して行く。

最後には4人くらいの残像がイヴリンの後を追っているようになった。


「……凄い、ですね」

私は素で感心してしまった。

だって、残像を残して歩けるって忍者でもこんな技出来ないだろう。

とても面白い。というか、これができるようになるというのか。

あ、凄いテンションが上がってきた。


「凄いと言っても、俺はあまり得意な方ではないんだよ」

イヴリンはそういうと歩くのをやめた。

そうするとパッと全ての残滓が消える。

ほう、止まると残像も消えるのか。

てことは、何か魔法というよりかは足運びの問題なのか。

そんなものでこんな忍法もどきができるんだな。

絶対にできたらかっこいいじゃないか。


「で、で!一体どうやるんですか!」

結構食い気味に聞いてみる。

多分キラキラなエヘェクトが入るくらいには可愛らしく聞いてみた。

すると、イヴリンは意外そうな顔をしたが楽しいものを見るような笑みをして私の頭をそっと撫でた。

「よし、やってみるか」

やはりイケメンだな、イヴリン。

私もこれくらい渋くてかっこいい男の顔をしていたらよかったのにと心の奥で嫉妬する。


ご生憎様、私は顔のシワがしっかりと刻まれているせいで怖がられることが多かった前世だ。

こんなイケメンが目の前で笑っていたら私は満面の笑みでこいつの顔を顔面と認識できないくらいに殴り潰してやりたいと思ってしまう。


だが、この状態の私は心の奥底からそんなことは思わない。

多分父親だからなのかもしれないが、まぁ、私が女というのもあるのかもしれない。

……あー、やめよう!こんなこと考えたくない!

私は男!私は大人!女ではなく子供じゃない!

これを忘れたらいけない。


そんな私の思考をさておくようにイヴリンは説明を始めた。

「まず、足の運び方を説明しよう」

イヴリンは足を一歩前に出した。

私はその出した足に注目すると、イヴリンは説明を続ける。

「まず、どちらかの足を一歩前に出す。そして、次にもう片方の足を前に出しながら最初に出した足を半歩後ろに下げるんだ」

イヴリンは言った通りに足を運ぶ。

なんともおかしなステップだが、これがあの残像を残すための手法なのか?

「で、前に出ている足を半歩下げた足よりも少し後ろに下げて、前に蹴り出すようにして半歩下げていた足を前に出す。これを不定期リズムで繰り返すんだ」


……はぁ?

なんだよそれ、簡単すぎるだろ。

絶対他に種がある。だって精神拳だってそうだったろう?

………いや、でも従った方がいいのか。

あんなものを見せられて嘘を教えるほどイヴリンは悪いやつではない。

むしろ父親はそんなことしないだろう。

まぁ、やってみるか。


「えー、と。不定期リズムでやるっていうのはその言葉どおりですか?」

「そうだな。だけど、なるべく相手には一定リズムで見せるようにしないといけないんだ。あと、体は一定のところで保たないといけないなら体感も使うんだぞ」

おおう、結構ハードだな。

なるべく一定リズムに見える不定期リズムで、体は一定の形を保ち続ける。

てか、それって足の力も使うよな?

なんかとんでもなく難しいかも。


「まぁ、慣れれば走りながらやる人もいるし」

「……走りながらできるんですか?この足運び」

「いや、少しずつ無駄を省いていける歩法だから走ることもできるんだ」

そういうものなのか。

なんか、そう聞くと少し先入観が少なくなるな。

よし、なんでも経験。無理なら努力。

そうしていこう。


……なんか、本当に変わったな。私。

昔は努力しなくてはできない一般人は人ではないんじゃないか?というのは言い過ぎかもしれないが、そんなことを思っていた私が、

まさか、ここまで変わるとは。

少々感慨深いな。


……いや、危機的状況だからこその変化、なのかもしれないな。

ここでは頑張らなくては自分の首を締めることになる。それを避けるために私は日々頑張っている。

多分、普通にチート能力とかを持っていたらこんな感覚は持ち得なかっただろう。

………まぁ、神に対しての苛立ちは消えないがな。



……少しは、感謝をすべきなのか?


…………いや、そうではないな。


ならば、この昔の記憶を消せばいい。

だがそれをしなかったのは何かしらの陰謀としか考えられまい。

ふざけやがって、まったく……。


「それじゃあ、やってみますね」

私はそういうとイヴリンの言った通りに不定期リズムで足を動かし始めた。

足を一歩前に出して、次の一歩を踏み出して、下がっている足をさらに半歩下げ、出ている足を後ろに持って行って蹴り出すように前に行く……っと。

多分こんな感じだ。


「……おおっ!レーラ!出来てるじゃないか!」

……え?出来てるの?

「……本当、ですか?」

私は集中が途切れないようにイヴリンに聞く。

「ああ!しっかりと出来てる!もしかしたらレーラは虚実拳の方が素質があるのかもしれないな」


おお、おお!それは嬉しい!

こんな忍法っぽいことに適性があると言われると結構気分が上がるな!

中二臭いのは嫌だが、忍術は別だ。

昔からの日本伝統の文化、忍者と侍。

これに適性があると言われるとなかなか照れくさいながらも気分が上がる。


「……よっと」

私はある程度歩くと足を止める。

「すごいな。俺は初日であんなには出来なかったな……」

イヴリンは思い出すようにしている。

私は少しイヴリンのいるところよりも先に行っていたので走って戻る。

「どれくらいすごいですか?」

私は無邪気にイヴリンにそんなことを聞いてみる。


「これは結構すごいな。多分だが、レーラは虚実拳の上達は早いと思うぞ」

イヴリンにそう褒められながら頭を撫でられる。

そうかそうか。それはよかった。

こういうのは早く覚えることに損はないからな。


……これは、神が私にとった救済処置か?

即効性はないが、努力次第でこの虚実拳はある意味私の切り札にもなりえるかもしれない。

努力あるのみ。頑張らなくてはな。


「イヴリン!レーラ!お昼出来たわよ!」

そんな声が家の方から聞こえてくる。

クレアの声だ。

「わかった!今いくよ!」

イヴリンはそう返事をすると歩いて家の方へと向かって行った。

「今行きます!」

私もそう言うと家に向かって走る。



さて、色々と私もできるようになってきたが。

少し問題がある。

冒険家育成学園ぼうけんかいくせいがくえん」のことである。

年齢はそこまで待つしかないが、話を早くするに越したことはない。


そう、イヴリン達が私の入学を認めてくれるかである。

クレアは多分色々言いながら、最終的には笑顔でOKしてくれるだろう。


問題はイヴリンである。

イヴリンはそう言うところについて凄い気にする。

彼は私がそういう危険なところに行くのに対してあまり良い印象を持っていないし、そして何より頑固なのだ。

クレアの手を借りて説得できればいいのだが……。

今回に関してはそうはいかない。


なぜなら入学金などのお金がかかるからである。

別にこの家はお金に困っているわけではない。

しかし、彼がそういう危険な仕事をするための準備にお金を出すことを良しとするだろうか?


……ほとんどの確率で否だろう。

イヴリンは私に冒険家や傭兵などにはなってほしくない。

そして、それを育成する学校になんて入って欲しくないだろう。

そんな仕事に就くための場所に入学させるためにお金を出せば、それは自分から娘にそういう未来を作ってしまっているのではないか?


とか、考えそうだもんな。イヴリン。

まぁ別に悪いとは言わない。親としてそういう職について欲しくないのは私も1人の親としてわかる。


だが、正直そうする他に私の欲を満たす術はないのだ。

権力を手に入れるためには地位と名誉が必要だ。

しかも、私が今回欲しいのはデスクワーク的なものではない。

もっとファンタジー的なもので欲しいのだ。


うーむ……、悩みどころだな。

まぁ、これからどうにかして行く他あるまい。

私にできることを精一杯にやるだけだ。


だから、そこだけは日を当ててくれよ、神様。

復讐するべき相手を信じてやるんだ。


絶対にどうにかしてくれ、本当に。

切実なお願いだ。



そんなことを考えながら日々はなんとなく過ぎ去って行く。

なんとも変わりない今日この頃である。


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