第8話 修行「魔法」
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そんな雑談もほどほどに今日も修行の始まりだ。
「さぁ、レーラ。今日も頑張りましょうね!」
「はい。お母様」
午前中の魔法の授業は前回も言ったようにクレアから教えてもらっている。
場所は基本的には家の地下にある書斎。実戦形式でやる場合は庭という感じになっている。
今は座学であるため書斎でやることになった。
「じゃあ、今日は明日の実践のためにザッと魔法の紹介をします」
「はい」
そして、どうやら明日から実践になるらしい。
「じゃあ、座学は最後だから最初からもう一回説明するわね」
私が頷くのを見ると、クレアは説明を始めた。
「まず、魔法と言うのには位があります。それは何かわかる?」
「えー、と。確か下から順に『魔法』『魔術』『魔導』でしたよね」
「そうよ」
この世界では魔法には位づけがあって先に言ったようになっている。
『魔法』と『魔術』の意味の違いってなんかあったか?なんて考えてもよくわからないのでそこは考えないでおいた方がいいだろう。
ただの位づけ。そう思っておこう。
「それで、魔法には主体の五色の属性が存在します。それは答えられる?」
「はい。『火』『水』『草』『聖』『邪』そして中心に『無』があります」
「そうよ。よく覚えていたわね」
クレアはそう言って頭を撫でてくれる。
この世界での魔法は7つの属性に分けられる。
それはさっき言ったように『火』『水』『草』『聖』『邪』。中心に『無』が置かれる。
ちなみに主属性では『無』を抜いたこの5つだが、『無』には反転属性としてその主属性ではなく、別に『新』が存在する。
だが、神才的なところがない限り『無』、『新』の魔法は使えないらしい。
すなわち基本的にはその5属性しか使えないわけだ。
まぁ、言わなくてもわかるだろうが、火は草に、草は水に、水は火に強い。聖と邪はお互いに強く、共に弱い。
『無』は何にも特攻はない。『新』は基本属性に対して特攻がある代わりに『無』に対しては何も効果を持たない。
それ以外については中立である。
効果がないわけではない。
「よくできたわねぇ」
クレアの授業方針は『楽しく教え、よく褒め、ゆっくり進める』。
こんな感じだろう。
なんだか、ゆとり世代の教師はこんなんなのかもしれないな。
「じゃあ、レーラ。そろそろ実技の方の授業に入ろうか」
「……でも、私は魔法の適性がわかりません」
「そうね。だから、今日はそれをはっきりさせるのよ」
クレアは笑みを浮かべながら手をパンと叩いた。
「……と、いいますと?」
「レーラは、自分がなんの魔法に優れているのかわからないでしょう?それは、はっきりさせておきたいじゃない」
「はい、それができるととても嬉しいです」
「だから、調べたの!魔法の適性を調べる方法をね!」
「あるんですか?」
「あったのよ!びっくりよね」
クレアは楽しそうに話している。
でも、確かにそれは実にありがたい。
自分の適性能力を知れれば鍛える場所がピンポイントにわかる。
そこを重点的に鍛えれば鍛えた場所は誰にも抑えられない力になるはずだ。
しかも、向きがわかれば不向きもなんとなくわかるはずだ。
神才の力がない限りは反転属性は基本的には使えない。
それを考えればなんとなくわかるはずだ。
「……では、お願いします」
「もちろん。やりましょう!」
クレアは満面の笑みを私に向けた。
ーーー
やってきたのは外だ。
外といっても庭である。
私の家の庭は大きく、ある意味草原とも呼べるほどに緑で草っ原だ。
寝転がり空を見ればあのアルプスの少女になった感覚すら味わえるだろう。
羊などはいないけども。
「さて、レーラ。やり方を説明するわね」
「はい。お願いします」
そうすると、黒の線で書かれた五芒星が中心に描かれていて、それ以外は真っ白な紙を出した。
それを緑に染まる庭にそっと置く。
「まずはこの五芒星の端に1つずつ属性にあった物を置いていきます」
説明口調でクレアは五芒星の端に物を置き始めた。
「まずは『火』。火はこの蝋燭を使うのよ」
まずは、上の端に蝋燭を置いた。
「次は『水』。水はそのままカップに入れた水でいいらしいわ」
左の端に水の入ったガラスのカップを置いた。
「水の次は『草』。草は種を使うのよ。今回はレーラの育ててる花を使わせてもらうわね」
右の端に私の大切に育てている彼岸花みたいな花の種を置いた。
「そして、『聖』ね。聖は、昔から神の使いと言われている神示鳥ポグリフの卵を使うわよ」
左下に真っ白で綺麗にまん丸な卵を置いた。
ここで少し説明だが、
ポグリフが神の使いと言われる理由は、この世界にまだ生きているとされる神霊、『新生八柱』の1人、創神イヴの使い魔だったからだと言われている。
『新生八柱』。
これは、さっきも言った通りこの世界にまだ存在をしている神霊の総称である。
正確には神霊になる条件である『才能書』を書き記してまだ生きている、神才の原初のことだ。
八柱という通り、八人の神が存在している。
創神 イヴ。
圧神 ダイオニシアス。
命神 ハル。
戦神 アイネ。
解神 メグ。
心神 ラディスラス。
統神 ヴァレリア。
刻神 アダム。
彼らが今を生きられる理由、それは2つある。
1つ目、神才の能力のため。
この理由が適用されるのは創神、命神、刻神である。
ちなみに、彼らが死なない限り彼らの持つ神才を使えるものは現れることはない。
これは、神霊(原初)が生き続ける限りそれを継ぐ者は生まれないからである。
2つ目、神才が発見されたのが遅かったため。
これは神才を見つけたタイミングが遅く、まだ寿命が来ていないというものだ。
今もなお、新たな神才は見つかり続けている。
まぁ、極たまになのだが。
それにより、今もなお生き続けているのだ。
さて、話を戻そう。
「それじゃあ、最後に『邪』。邪は『悪性の粉』っていう悪魔エメルの鱗を削ったものを使います」
五芒星の右下に、紫に近い黒をした粉状のものを紙に乗せて置いた。
「これで準備は完了よ」
クレアはふふんっ、と胸を張って言う。
「……あの、これから具体的にどうしたらいいんですか?」
私にはまったく見当もつかなかった。
「それは今から説明するわ」
そう言うとクレアは優しそうな口調で説明を始めた。
「この紙は魔粒子を直接流すことのできる特殊な紙なの」
クレアは私を紙の前に座らせて、後ろから私の手を握り紙の両端に手を置かせた。
「目をつぶって感じてみて。何かが流れるのを感じない?」
「……はい。わかります」
多分、これが魔粒子が流れる感覚なんだろう。
……あとで、イヴリンに文句を言っておこう。
血の流れなんかじゃないじゃねぇか。
「あとはそれを紙に流し込むの。手の中心からその流れを吐き出すような感じを想像してみて」
「………」
手の平から何かを吐き出す感じか。
ええ、と。
あれか?手に何かを溜め込んで放つ感覚。
精神拳とかの感覚をすればいいのか。
でも、集中する必要はない。
何かを吐き出す、ため息のような感じだ。
……そうか、深呼吸をしながらならわかりやすくできるはず。
「……すぅ……」
息を吸うと体の魔粒子の流れが変わる。
何か満たされたように流れを変え、そしてそれを外に出すように流れが変わる瞬間があった。
あとはそれに合わせて、
「はぁ……」
すると、
ミキキッ………、シリィィィイイン………。
流し込んだ魔粒子は、2つの反応を起こした。
右端と右下に置いた、『草』を表す種と、『邪』を表す『悪性の粉』。
種は芽を出し、花を咲かせて。
粉は散り、そして固まって小さな鱗を作り出した。
「……すごい」
私はただすごいと思った。
魔粒子を流し込むだけでこんなことが出来るのかと考えるとやはり魔法というのは面白いものだと改めて思ってしまう。
「……これで、レーラがなんの魔法が適正なのかわかったわよ」
「……もしかして、」
私は紙の上に起きた反応をみて、そっと魔粒子の流れを止めてクレアの方を向いた。
「私の魔法の適正は、『草』と『邪』なのですか?」
私は出来る限りの解答をした。
魔粒子を流し込んで、反応が起きたのはその2つ。
それ以外はまったく反応を示さなかった。
ならば、
「そうよ!レーラは『草』と『邪』が適正みたい!」
やはりそうか。
『草』と『邪』……か。
あまり、ゲームとかでその2つを使うキャラっていなかったよな。
私はそれなりにゲームやアニメなど日本の2次元文化を嗜んでいたが、あまりぱっと浮かばない。
ポケモンで例えるとダー◯ングあたりか?
あいつ、確か草悪だったはず。
他は………、思いつかないな。
まぁ、ダーテ◯グは好きだけど。
「ちなみにお母様はどの魔法が適正なのですか?」
私はふと気になったことを聞いてみる。
というか、2人の神才についてもあまり知らないからな。また今度聞いてみよう。
「私は『聖』と『水』よ」
おおう、なんて天使らしい2つなんだ。
そっちの方が良かったのに……。
魔法の適性までは遺伝しないのか。
……いや、神才の問題だからそもそも遺伝なんてしないのか。
「『草』と『邪』。これからはこの2つを重点的に鍛えていくわよ!」
クレアは張り切っている。
「はい!」
私も、クレアの期待に応えられるように頑張らなくてはな。
そうして、また1日が過ぎていった。




