ショートショート023 すれちがい
010『願い』の続きです。ためしに続けてみます。
そいつも突然現れた。
「ま、またか。今度はなんだ、なんだお前は。人の家に勝手に現れやがって」
「相談したいことがあるんです」
「いったい、俺はどうしてしまったんだ。つい昨日、変な幻覚を見たばかりだってのに。本当にどこか、いかれたんじゃないだろうな」
「実はすごく困ってまして」
「知るか。帰れって言ってんだ、人の話を聞けよ。だいたいなんだ、その格好。背中には旗、額にはハチマキ、腰には団子でも入っていそうな袋、おまけにそのへんてこな髪形。わけがわからん。もういい、さっさと消えてくれ」
「ちょっと鬼退治に行きたいんですけどね」
「勝手に進めやがる」
「いよいよ鬼ヶ島だというときに、犬にも猿にもキジにも逃げられてしまって」
「帰れって言ってんだ」
「まあ何とかなるだろう、軽くひねってやるさと思って一人で乗り込んだんですが、あっさり殺されそうになってしまって」
「話を聞いてるのか」
「やっぱり私には、あいつらが必要なんですよ」
「話を聞けよ」
「だから、あいつらと仲直りしたいんですけど、なんであいつらは逃げてっちゃったんでしょう」
「頼むから聞いてくれよ」
「だから聞いてるじゃないですか。あなたならきっと解決してくださるはずだ」
「そうじゃねえ。人の話を聞けって言ってんだ」
一瞬、そいつはぽかんとした顔になったが、すぐに満面の笑みに変わった。
「ああ、なるほど。そういうことでしたか。ずっとあなたは、私に答えを教えてくださっていたんですね。とりあえずあいつらに話を聞いてみろと。なるほどなるほど、まさかそういうこととは、夢にも思いませんでした。やはり、あなたは頼りになる方だった。ありがとうございます、助かりました、それでは」
そうしてそいつは桃に乗って消えた。
「やっと消えてくれたか。わけがわからん。俺は、本当にどうかしてるのかもしれん。明日、病院にでも行くか」
疲れ切った男はぐったりと横になり、天井を見上げながら思い返した。
「本当に人の話を聞かねえやつだった。あんなんだから、逃げられたんじゃないのか。しかも、俺が答えを教えてやったと、そんな誤解をしていった。むちゃくちゃな幻覚もあるもんだ」
そして、ふと気づいた。
「そういや、あの幻覚、最後に何か言ってやがったな。やはり、って何のことだ」
少し考えて、苦々しげに顔をしかめる。
「嫌な予感がしやがる」
続く?