レイトショーの終わり
レイトショーの終わりに、ぐっとこの世界に
とても嫌いで綺麗なこの世界に引き戻されるその感じが
僕はどことなく好きだ
貴方にもう会えないことも、結局明日は同じようにやってくることも
現実は物語のようにはいかないということも、身にしみてわかるその瞬間
それでも映画館を踏み出す自分はきっと前とは違うと思える瞬間
人のいなくなった映画館のそんなひと時が僕はとても好きだ
その日見た映画はこの世界の終わりの話
宇宙人が空からやってきて、街と人々を壊し、僕らの世界を蹂躙し、最終的に人々は絶えてしまった
宇宙人がやってこなくても、僕らの日々は既に死にかけで、たとえ明日目を覚まさなくとも構わないと思ってしまうほどに僕は疲弊していた
或いは、疲弊していると思い込んでいたかった
それでもその映画のラスト、美人な女優が愛する人と最後を迎えるそのシーンで、僕は思わず泣いてしまった
ニコッと笑うその女優の笑顔は、いつかの誰かに少し似ているような気がしたが、それが誰だか思い出せずにただ胸の奥が少し痛んだ
そんな風に物語の端々にはいつも僕の記憶たちがちらほらと顔を出してこっちを見るのであった
いつかの彼女の顔、言葉、仕草、一緒に歩いた道、夜の時間、そんな僕の記憶にこびりついた悲しく変わってしまったものたちは、日常でもたまに顔を出して僕の胸をつついたが、物語を見ている時は尚更だった
年月の積み重ねで僕らの見る世界には薄暗い幕がかかり、小さい頃わくわくしてみていたあの世界はもう二度と見れないのかと思うと時々寂しくなるが、それが大人になるという事なのかも知れない
映画館を出て空を見ると、小学生の頃に習った星座が頭上に浮かんでいた
空はいつも変わらずそこにあるのに、見ているこっちはたった一年で身も心も大きく変わってしまう
今日見たあの映画も、少しは僕を変えたのだろうか
ふいに涙がこみ上げてきたが、街はこんな時間でもまだまだひとに溢れかえっていて、幸せそうに行き交う恋人たちに覆われていたので、僕の涙はすぐに姿を隠し、また心の底に潜っていった
もう帰らないといけない
目を閉じて夢を見て、明日を迎えなければならない
僕らがどこへ行くのか
僕らにはどんな明日が待っているのか
貴方は今どこで、何をしているのか...
前の恋人とは、2ヶ月前に別れた
遠距離も相まって、少しずつ離れていったお互いの心を引き戻す術は僕にはなかった
まだその傷は生々しく残っており、そんな夜には余計にその傷が痒くなり、僕をレイトショーへと引きずる一つの要因になっている
でもそれもいつか遠い日の記憶になってしまうのだろうか
いつかあの子みたいに控えめに、美しく笑う誰かを見て、僕の胸は少しずきずきするのだろうか
いつかこのすべても、僕の頭の中で物語になってしまうのだろうか
それはきっとすごく寂しくて、今の僕には受け入れられないほどに悲しいけれど、僕らはそうしないと前には進めないし、僕らの曇った目は朝日や夕日の、小さな美しささえも見えなくなってしまうだろう
僕は目を閉じながら君の事を考え、思った
明日目をさます僕は今とどう違っているのだろうと
あなたと出会って僕は、どのように変われたのだろうと
そんなことを真面目に考えていたら、いつの間にか僕は深い眠りに落ちていった
その日見た夢は、この世界の夢
これまでもこの先も長く続いていく、僕らが生きていく世界の夢
明日もきっと綺麗に日が昇る、このどうしようもなく美しい世界の夢