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裏山のバウワウ  作者: P男
1/4

薬草採取

 サクヤとナキは、手をつないで山道を上っていました。

 ふたりは七つ年の離れた姉妹です。

 サクヤは十二才で、ナキはもうすぐ五才になります。

 

「裏山に来たことは、村のみんなには内緒よ? いいわね、ナキ」


 大きなカゴを背負ったサクヤは、ナキに向かって言いました。


「何でしゃべっちゃダメなの?」


 ナキはきょとんとした顔で、サクヤを見上げます。


「本当は入っちゃいけないからよ」


「どうしてー?」


「裏山には、バウワウっていう危険な魔物がいるからよ」


「バウワウ?」


「鋭い爪を持った、白い毛の大きな魔物よ。でも安心して、本当はそんな生き物いないから。大人が子供を怖がらせて、いい子にさせるための空想なの」


 そういってサクヤが片目を閉じると、急にナキが立ち止まりました。


「バウワウいるよー」


「いないわよ。空想だ、って言ったじゃない」


「いるよ。ほら、あそこー」


 ナキが小さな指で、山道の先をさします。

 

 つられてサクヤがそちらを見ると、そこには一匹の獣が立っていました。

 鋭い爪を持った、白い毛の大きな魔物でした。尻尾がふたつあるところ以外は、犬にそっくりです。


「ね、いたでしょ?」

 

 ナキは得意そうに声を弾ませます。


 でもサクヤは聞いていませんでした。

 顔を青くして、ナキを背中に隠します。


「いい、ナキ。お姉ちゃんが合図したら、走って村に帰りなさい。絶対に振り返っちゃダメ」


 サクヤは震える声で、ナキにささやきました。

 

「何でー?」


「いい子だから、言うことを聞いて。じゃないと、二人とも食べられちゃうわよ」


 サクヤは必死に言い聞かせます。


 すると、それまでじっとふたりを見つめていた魔物が、不機嫌そうに口を開きました。

 

「何やねん、勝手に人を悪食みたいにゆうて。人間なんてまずいもん、誰が食うかいな。ほんま気分悪いわ」


 それを聞いたサクヤは目を見開きました。


 ナキも目をキラキラ輝かせます。


「ワンコ、しゃべったー!」


「誰がワンコやねん。わいはバウワウ様や」


「あなた、人間の言葉がわかるの?」


 サクヤが尋ねると、バウワウはふんっと鼻を鳴らしました。


「魔物と人間が話せないなんて、誰が決めたんや。頭の固い大人にでも言われたんか。それより、何でこんなとこにチビッコがふたりでおるん? 食われても文句は言えへんで?」


「薬草が欲しいの。お母さんが病気だから」


「いーっぱい、つむんだよ」


 ナキも両手を広げて言いました。


「ふーん、孝行娘っちゅうことか」


 バウワウは、サクヤの背中のカゴを見てうなずきました。


「あの、あなたの山に勝手に入ったことは謝ります。でも、少しだけでいいから薬草をとらせて、お願い。他のところも見たけど、もう摘み取られた後だったの」


 サクヤが頭を下げると、ナキも慌ててお辞儀しました。


 ふたりを見ていたバウワウは、小さくため息をつきます。


「山は誰のものでもなし、好きにすればええがな。けど遅くなる前に帰るんやで。ここには危ない生き物もおるさかい」


 そしてひらひらと尻尾を振って、茂みに分け入って行きました。

 

「よかった」


 サクヤはその背中を見送り、ホッと胸を撫で下ろします。


「ワンコいっちゃったー」


 ナキは名残惜しそうに呟きました。



               〇



「おい、起きろ」


 サクヤは若い男の声に起こされました。

 ゆさゆさと肩が揺すられています。


「あれ、シモン兄?」


 うっすら目を開けると、そこには幼い頃に良く遊んでもらった、同じ村の青年の顔がありました。


「ようやく起きたか、このねぼすけ」


 シモンは苦笑を浮かべます。


「何だって裏山のふもとなんかで昼寝してたんだ? 何かあったらどうするんだ?」


「あれ、夢だったのかな?」


 サクヤは辺りを見回して、ぼんやりと呟きました。


「何だ? まだ寝ぼけているのか?」


 シモンが呆れたように肩をすくめました。


 そこで、ふたりの話し声に目を覚ましたのか、ナキがもぞもぞと起き上がりました。ぐしぐしと寝ぼけ眼をこすります。


「ねえ、ワンコは?」


 その言葉にシモンは首をひねりました。

 隣のサクヤは、ハッとした顔でカゴを覗き込みました。


 するとそこには、いっぱいの薬草が入っていました。


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