第一話 試験
「……ら、…更、射更っ…!!」
少し強めに揺さぶられて、射更の意識は唐突に覚醒を始めた。
眼前に迫るは、見覚えのある少女。言うまでも無く、仄夏である。
彼女の格好は、射更が以前通っていた高校の制服そのままだ。射更の格好も、カジュアルな私服であり、昨日着替えた直後に電源が落ちたように眠ったのを思い出した。
急速に回転を始めた頭脳は、先程起きた不可解現象の存在を素早く蘇らせる。
「……此処は…」
「分からない」
「…そりゃそうか。逆に知ってたら怖いまであるが…」
ぐっ、と右手の力で上体を起こす。
視界に広がるのは、白一色で染め上げたような、巨大な空間。大理石だろうか、所々に皹や割れ目が存在し、黒々としたその存在が異彩を放つ。見た感じはボウル状に造られた闘技場のようで、そう思ってもう一度見返せば、客席に見えなくも無い場所も存在する。
射更、仄夏の両名は、丁度闘技場の中心らしき場所に居るのだ。
「……何が起きたのやら…」
「射更、メール読んでないの?」
「あ…? え、おい、お前んとこにも届いてたのか?」
そう言われれば。そんな言葉を匂わせる言動をしていた気もする。
こくり、と首肯する無口系幼馴染である仄夏を見て、なるほどな、と肩の力が抜けた。
「…私も、射更も、権利がある。だから、箱庭世界に行くことになった」
「あれは、スパムか何かじゃないのかよ…?」
「違う。現に、あのメールが届いてすぐに、私達は知らない場所に居る。確率的に考えて、ほぼ百パーセントあのメールが原因」
「…おいおい、こりゃまた、厄介な事になったな」
枯れた笑い声が思わず飛び出る。
その時。
「全く、これは一体なんなんだい?」
闘技場、その壁沿いに設置された檻の向こう側から、柔らかい男の声が聞こえた。
丁度、射更達と真逆の位置に現れた男は、怪訝そうに此方を見やり、ゆっくりと近づいてくる。顔立ちは整っており、優雅な気品を纏ったそれは、中世ヨーロッパの貴族に例えても見劣りしない。黒髪のミディアムヘアを、ワックスで遊ばせた髪型は、そんな男に良く似合っていた。
ただ。
━━━その男は、二次元の女の子が描かれたTシャツを着ていた。
「(……やっべ。何かすっげぇ関わりたくねえ)」
当然の感想だ。
あれだけお膳立てされたようなルックスを持ちながら、何故二次元に走ったのだろうか。上に羽織っている上着も、よく見れば後ろには何処かで見た事あるキャラクターが白黒で描かれている。ズボンにもそれはあり、兎に角、成金系オタク男子を代表する、と言われれば一も二も無く納得してしまいそうな出で立ちだ。溢れ出る変人臭は、仄夏や射更のそれとは全く違う、別種の危うさを持っている。
歩くたびに男のTシャツに描かれた女の子、その子の猫耳らしきものが見え隠れする。
「やぁ、君達もメールで呼ばれたのかい?」
ハハハ、と痛快に笑いながら、気さくに話しかけてくる。
射更は、嫌味の無い笑みを浮かべる相手を見て、少し気分を和らげた。
━━が、視線を下にスライドして、緩んだ緊張感をまた張り直す。
「あんたは?」
「僕かい? 僕は星乃夜聖一さ。あぁ、勘違いしないで欲しいけど、本名だ。年は十九、君達は?」
「俺は久遠射更だ。こっちが仁科仄夏。俺達は十八だから、あんたは先輩にあたるわけか」
「ノンノン。別に気にしなくて結構だよ。僕の事は聖一、もしくは聖ちゃん、と呼んでくれたまえ」
「…では、聖一と呼ぶ事にしよう」
「聖一さん」
「うーんッ! 女子からさん付けで呼ばれると、中々心擽られるね。仄夏さん、だったかい?」
そう問われて、仄夏はこくりと首肯した。
何だかんだ、こういった得体の知れない連中と上手く渡り合うスキルを彼女は持っている。
「なるほど……これはこれは、ベリーキュートな娘さんだ! 僕の秘蔵フォルダで安眠している子達とまるで遜色ない…。素晴らしいね!!」
「お褒めに与り、光栄」
「……なぁ、取り敢えず話進めてもいいか」
これでは聖一による二次元談義が幕を開きそうである。
その上、きっとそれは第二幕・第三幕と、延々続くような最悪の代物だ。
早々に流れを断ち切る為、半ば強引に話題の路線を元に戻す。
「おーっと、すまない射更。僕とした事が、取り乱してしまった」
「あんたも、呼ばれたんだろ?」
「ザッツライト! その通りさ。君達もそうだろう? あの、アルカナとか言う、インチキくさい輩に送られた謎メール。あれが事の発端だろうさ」
「それにしちゃ、落ち着いているな」
「そうかい? 僕は僕なりに動揺しているんだけどね。何より、ここには僕の愛機たるゲーム機の数々も、高性能PCも、DVD鑑賞専用の特別室も無い。悲劇だよ、オーマイガッ!!」
何だろう、この普通に苛立つ応答は。
射更はこめかみをピクピクと痙攣させながらも、目の前のアメリカかぶれな日本人に問う。
「あんたも、権利が与えられたのか?」
「らしいね。まぁ、僕は天才だから、仕方ないけど」
「天才…? そうは見えないが」
「まー、君達は知らないかもね。僕、これでも頭良いんだよ? オックスフォード大学に在住しててね、五ヶ国語ぐらいならペラペラさ。後、僕記憶力高くてね、一度聞いたり見た事は絶対忘れないんだ。まー、後は今、色々違う事やってるけど、経歴はざっとこんなもん。ただの二次ヲタと思われちゃあ、僕としては些か心外、というわけさ」
射更は驚愕した。
圧倒的な情報量を、その身一つで、それも一度見たり聞いただけで覚えられる技量。また、グローバルな世界観を呈する今の世界情勢において、五ヶ国語も喋られる人材は実に重宝されるだろう。聖一は、文系タイプの天才肌なのだろうか。
なはは、と痛快に笑い飛ばす聖一に、少しばかり背筋がゾクリとした。
やはり居るのだ。射更と同格、もしくはそれ以上の天才という人材は。
「そんな僕からすると、君達も到底天才か、それに準ずる何かには見えないんだけどね?」
「…まぁ、聖一のそれと比べると見劣りするな。俺は、まぁ、IQ180で、一度見た技とか動きは二・三回で完璧に真似出来る。その程度さ」
「私は、射更よりも悪い。射更のような万能型じゃなくて、頭脳派。景色を空撮するように見れたり、物体の構造を概観から判断出来たり、IQは同じくらいだけど」
「ビューテフォー!! IQ180!? グレイトだね!! 僕は120程度さ。あまり頭脳の回転数は早くないんだよね。じっくり考えて、何度も試行錯誤するってのが僕のポテンシャルだからさ」
同じ穴の狢━━言い方は悪いが、聖一と射更・仄夏はまさにそれに近い。
他を圧倒・凌駕する唯一無二のオーバースペック。タイプや得手不得手こそあるが、それでも苦手な分野でさえ、得意を自称する連中の一つ上を行く。才能、センス、本来なら努力によって越えられる壁は、彼らの前では覆る。それ程までに、強大な能力なのである。
ふと、射更の思考を遮る疑問があった。
聖一、仄夏、射更、この全てが別種に近い天才肌である。
つまり、あの怪文書的な電子メールの話が本当であれば、残り四名もの天才が居る事になる。
一体誰なんだ━━━。
そう思って振り返ると、仄夏でも聖一でもない、第三者━━否、この場合は第四者だろうか。
兎に角、射更が知りえない人物が、真後ろに肉薄していたのである。
「うおわ!?」
「…ふふん、拙者の隠遁スキルも高まってきたでござるな」
其処に居たのは、迷彩柄の服を着て、謎の古語系日本語を喋る男。
自衛隊なんかが着るような迷彩柄の上下に、同じ柄の帽子。やや浅黒く焼けた肌に、雪のような真っ白な歯。出で立ち、格好、全てがアメリカンアーミーなのだが、口調が超絶的に江戸時代である。というか、そもそも江戸時代にさえこんな流暢に「拙者」とか「ござる」なんて言葉を言う人間は居ないだろう。ミスマッチも度が過ぎると、何となく似合って見えるから驚きだ。
肩にアサルトライフルの模擬銃、所謂エアガンを背負った男は、
「拙者、伊呂波譲二と申す。気軽にジョー、あるいはジョージと呼んでくれ候」
「くれ候ってどんな日本語だよ……」
「バカにしているようにしか見えない」
「うーん…! ナンセンスなんだが、なんだろう、彼は何故かそれを通り越してカリスマ性さえ感じる。もしやこれは……共鳴!?」
「誰と、何が、共鳴してんだよ!?」
「いや、それっぽいかな、とそう思っただけさ。特に意味は無い」
何だろう、この無駄に濃いキャラクターは。
まさかの超ド変人登場に、射更は少なからず戦々恐々としている。
「(……変人オンパレードかよ…)」
「射更、今失礼な事考えてた」
「いや、そんな事はないぞ」
無論、仄夏を含めての意味合いだ。
彼女の勘は鋭い。取り敢えず口早に否定の意を述べるのは鉄則だ。
「拙者、某らの愉快な談義を小耳に挟ませてもらったで候。射更殿、仄夏殿、聖一殿、拙者もお三方同様に、『でんしめぇる』なるものにて、この場に馳せ参じた」
「……キャラ作りなのか知らんけど、わざと平仮名で電子メールを言わなくていいから」
「そうでござったか……。しかし、拙者の生きる時代に、そのような未知の言語は存在せぬが故、致し方あるまいと、そう割り切ってはもらえぬであろうか」
「…要は、キャラ崩壊させんじゃねーよって事な」
「理解が早くて助かるで候」
「………」
やっべぇ、超殴り飛ばしたいんですけど。
聖一のぶっ飛んだキャラクター性にさえブチ切れそうだった射更の心中は、荒波に揺れる。
だがしかし、相手の体格は思った以上にインパクトがある。
身長は190近くあるだろうし、何より肩幅が広く、鈍重なイメージを彷彿とさせる。
「(……もう、こいつら勇者じゃねーだろ。ある意味勇者かも知れねえけど、きっと現世なら2○hとかで「マジ勇者ww」とか言われるに違いないな)」
アルカナ、お前どんな連中集めてんだよ。
思わず顔も知らないメールの送り主をディスり始める射更。
状況を飲み込めていない様子の仄夏は、ほえ、とした顔で聖一と射更を交互に見やる。
「……取り敢えず、ジョージ、でいいのか?」
「年齢は20、お三方より年上に候。しかしながら、拙者は武士……使われる側の人間が、使う側たるお三方に偉そうな態度は振舞えません故。どうか、拙者の事は名前でお呼び下さい」
「よろしくな、ジョージ」
「侍さん、よろしく」
「ミスタージョージッ!! ジャパニーズサムライソウルが、熱く『萌』えてるね!! ソゥグーッド!! 素晴らしいよ、ここまで侍を演じきれる人間が居るなんて……。いや、違う、彼はもう、本物の侍なのかも知れない……!! 恐るべし、ジャパニーズサムラァァァァイ!!」
「お前も日本人だろうが!! 後! 仄夏はヘンテコなあだ名付けんな!!」
伊呂波譲二の提案は射更以外まともに呑んでいない気がする。
何だろう、何なんだろう。もう、とにかく寝たい。
ツッコミを放棄しそうになるシュチュエーション、射更は深く息を吐き出した。
その時。
「クックック……。日々の退屈から、わざわざ≪次元移動扉≫を潜ってやって来てみれば……なんてことはない、ただの異世界じゃないか…!! ぐぅ…!? 何!? まさか、このタイミングで…!? 止めろ、止めるんだ!! 今暴れたら、この場にいる全員諸共滅んでしまうぞ!! く、くそ…!! 鎮まれ、我が右手…!!!」
変なのが現れた。
漆黒のロングドレスに身を包み、足元や手首の装飾で白色を取り入れてアクセントを付けた格好は、言動との差異が激しすぎて、全く興味を惹かれない。何故か猫耳カチューシャを装着し、愛くるしい顔面に脂汗を浮かべて、必死に右手を押さえ込んでいる。腰まで伸びる白銀のロングヘアを振り撒きながら、右目には謎の眼帯、首には銀のロザリオを模したアクセサリが付いたネックレス、右手には指輪を装備していた。
一つ言おう。女性である。決して男ではない。
「僕っ娘」ならぬ「我っ娘」なのだろう。なんだそれは。
そして何より━━━超テンプレートな中二病罹患者である。
故に、もう呆れ果てた射更は、「変なのが現れた」と形容した。
「……く…!! 貴様ら、早く逃げるんだ! さもなくば、我が右手に隠された≪邪炎龍≫が目覚め、我が肉体を蝕み、問答無用で襲い掛かるぞ…!?」
「ファァァァァァンタスティィィック!! なんて事だ、今日はツイてるね!! サムライにチューニビョウ!! 最早、生けるジャパニーズ伝説だよ!! 素晴らしい事さ!!」
「…ならば、拙者がお相手致そう。拙者が数年の歳月を掛けて手にした秘奥義にて、貴殿のその≪邪炎龍≫、貴殿ごと綺麗さっぱり葬ってくれる!!」
「あーもー、ややこしいから相手すんな!! おいそこのアメリカかぶれ!! てめぇはもう黙れ! 後そこの侍もどき! 秘奥義とか言って肩のアサルトライフル構えてんじゃねえよ!!」
「射更、逃げよ?」
「……仄夏。お前まで感化されてどうすんだ、アホ」
射更は一気に脱力した。何だ、このくっそ下らない茶番は、と。
現れた少女は、仄夏と遜色ない見目麗しさを誇っている。仄夏を静の美とするなら、彼女は動の美だ。一枚の絵画を切り取ったような完成度を誇る仄夏、アニメーションのように立体的な動きをしながらも愛くるしさを惜しげもなく見せ付ける少女。
イケメンとは言え、男むさい所にやってきてくれたのは非常に有り難い。
しかしながら、もう帰っていただけないだろうか。
射更はもう嫌だ、と言わんばかりにその場で「orz」の体勢になった。
「……ふぅ…。どうやら鎮まったようだな。全く、こいつの扱いには苦労する」
意味ありげに包帯でぐるぐる巻きされた右手を開放する。
「我が名はセシリア。北欧に舞い降りた、堕天使が一人だ」
「……ヨーロッパ諸国の事な。んで、外人さんなわけか?」
「一応日本人の血は通っている。祖母が日本人なのだ。一応、クォーターという事らしいが、髪色にはどうやら根強く母親の影響が出てしまったようでな。白髪ではないぞ? 銀髪だ」
「あーはいはい。セシリアね、俺は射更、こいつは仄夏、こっちのアメリカかぶれが聖一、あっちの侍かぶれが譲二だ。よろしくな」
「侍かぶれとは一体なんで候…?」
「取り敢えず無視して……。まぁ、決まり文句だけど、アンタもか?」
「ふっ、愚問だな。我は別にあのメールによって呼ばれたわけではない。元より、我は次元を越える術を持っておるからな」
「あ、そう」
聞いて損した気分になるのは、いつ以来だろう。
兎にも角にも、天才(一部を除いて)が五人も集結したのは間違い無い。
まだ話を聞いていないが、きっと譲二や目の前のセシリアも、何か特別な才能を秘めているのだろう。
残るは二人……これ以上変なのは出てくるんじゃねえぞ。
射更はそう願わずにはいられない。フラグ建築? なにそれ美味しいの?
いっそ来るなら早く来い、そう思った瞬間だった。
「あ、お姉ちゃん。あれじゃない?」
「そうみたいね。あのーっ!!」
二人の姉妹が登場した。
その時点で、射更は咽び泣きそうになり、感涙という言葉の真義を始めて体感する。
手を繋いでやって来る二人の姿は、どちらもカジュアルな私服姿で、自分と同じ格好の人間が居る、という謎の安心感を覚えた。ペアルックなのか、同じTシャツを中に着込み、上にはパステルカラーを基調とした可愛らしいカーディガンを羽織っている。下は膝丈のスカートで、手を引く姉はミニスカ、引かれる妹はややロングスカート気味だ。
「私は、早蕨柚月と言います。こっちは妹の陽菜です」
「俺は久遠射更、こっちが仄夏、あっちに居る連中は、右から聖一、譲二、セシリアだ」
「ご丁寧にどうも……で、本題なんですけど、皆さんも、呼ばれたんですよね?」
「あぁ、遺憾ながらもな」
何だかやけに取っ付き難い。
射更は彼女達が少なくとも今は、自分達に向けて心を開いてくれてはいない事を感じ取った。
「(まぁ、それが普通の対応だよな。コイツらがおかしすぎるんだ)」
「柚月さんと陽菜ちゃん、でいいかい?」
「はい、構いません」
「女性に年齢を聞くのは野暮ってもんだが、取り敢えず教えあえる情報は提供しあうべきだろう? 我々の情報も教えるから、そちらの詳細な情報を提供して頂けないかな? 勿論、話したくない事は話さなくて結構。どう? 無理かな?」
此処にきて、唐突に仕切り始める聖一。
元々気さくな人柄だ。こういうやり方も慣れているのだろう。二面性、という言葉以上の意外性を見せた聖一に、先程の飄々とした態度は見受けられない。少なからず、人の機微には敏いのだ。きっと、彼女らが此方側に自分達から歩み寄ろうとしている感じを受けないのが原因か。
今この場に来たのは、単純に不安要素の抹消の為だ。
人間は群生する事を求める。一人では心細く、二人、三人と味方を増やす事で負の感情を比較的一人で背負わないようにするのだ。姉である柚月は、妹の陽菜の面倒を見る必要性もある。無論、見た感じからしてそこまで幼いわけでもないのだろうが、それでも、或いは━━━。
そう思っていると、それなりに快く了承した二人が年齢を明かした。
「私は十五歳で、陽菜は十二歳です」
「じゅう、ご…? マジか。すっげぇ、大人びてるな」
まさかのカミングアウトに、一同は騒然とした。(一部は除きます)
柚月、陽菜、両名共に整った顔立ちをしているが、柚月はやや背が高い。その上、可愛いよりは美人系のタイプだ、より一層大人びた印象を受ける。陽菜は真逆で、愛らしいという言葉がより似合う。十二歳ともなれば、姉妹での衝突は少なくないはずだが、陽菜は柚月を想い、柚月は陽菜を気に掛けていて、仲睦まじい姉妹愛を感じる。
柚月は右サイドのワンサイドポニーテール、陽菜は左サイドのワンサイドポニーテールだ。
ようやく、勇者(仮)の面々が一堂に会した。
これからの事やこれまでの事、色々と話そうと意気込んだその時だ。
『皆さん、どうやら順調に関係を深める事が出来たようですね』
唐突に、その声は響いた。
スピーカーやマイクなんてものは見当たらない。七名総出で周囲を見回す。
『見つかりませんよ。私━━アルカナは、その場に居ませんから』
「アルカナ、だと…?」
一同に戦慄が走る。
この事件の張本人。謎の仕掛け人にして、得体の知れない不可思議な存在。
『さて、時間を無駄にするのもアレですし、手っ取り早く行きましょうか』
パチン。
アルカナのフィンガースナップが、エコーを掛けて空間に響き渡る。
すると、閉じていた天井が開き、黒く巨大な影が飛来する。
強烈な砂埃を上げて、それは闘技場のど真ん中に舞い降りた。
『これから、勇者適正試験を開始します。不合格者は死あるのみ。では、健闘を祈ります』
暗黒を閉じ込めたような漆黒の片鱗、大きく開き、威嚇するような巨大な羽翼。剥き出しで鋭く尖った牙の端々から、獰猛な火炎が見え隠れする。二足歩行で立ち上がり、両手を広げる。
そして。
「GYAOOOOOO!!」
咆哮する。
それは、ドラゴン、そのものであった。