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死神その二


 どこまでも遠くどこまでも白い月の下。


 荒れ狂うように吹き荒れる大気の奔流。

 強風どころか凶風。街のすべてを飲み込みながら風は駆け抜ける。


 風は山から下り川を越え道路へ届き路地を抜け、彼女の髪をなでる。

 繁華街と呼ぶには盛り上がりに欠け、

 夜の街と呼ぶには華やかさのの足りない

 そんなはずだった街並が恐ろしいまでに変容する。

 人、ひと、ヒト。どこからか湧いてきた生物群体。

 黒、茶、赤、金、人々の髪の色が織りなす色彩。

 いつもよりも華やかに飾りつけられる通りを……、

 一人の彼女が観察していた。

 襟や袖が緑に染められたセーラー服。もちろん水兵さん御用達の品などでなく純然女子高校生用の衣服。原色の赤と緑のチェックのスカート。膝上まである黒のハイソックスに使い込んだ感のスニーカー。非常に前髪が長く顔面の左半分が隠される。そのくせ後ろ髪はほぼ無いに等しい、前後のバランスの取れてない髪型。それでもどこにでもいそうではないがどこかにはいそうな彼女の外見を、大きく奇妙な方向に振り切らせる黒い半纏。そして右手にしっかりと握られる五寸釘。


 奇怪な彼女は電燈の上という奇妙な場所から人々を見下ろしていた。


 台風の近づく季節。本来なら最も人が見えなくなるはずの街路にさらに増えてゆく頭の数。


「九派警視」

 誰かの声が聞こえた。

 まず辺りを見回す。しかし彼女はいま地上八メートルの位置にいる。誰かがいるはずない。次いで下を見る。


 いた。


 真下に、いた。シルクハットに下駄。その背に大鎌を背負い、そして彼女と同じ黒い半纏。彼女は彼を知っている。

「ん、ひさしぶりだな。遠谷」

そして、膝を少し曲げ、


 ぴょんと、前にとんだ。


 

 慣性の法則に則らず、彼女はゆっくりと彼の目の前に降りた。

「ん、まさか女子高生のスカートの中を覗くようになっていたとはな」

 ひとり肯く。

「……意地悪しないでくださいよ」


 風が流れ人々が流れる横で。二人の、死神が、再会した。


「お久しぶりです。九派警視」

「ん。うん。国軋の、三回忌以来だな」

「はい………」

「ん、そういえばこの前私の追っていたマッハじじいを検挙したらしいな、おめでとう」

「ありがとうございます……ってなんだかこのごろほめられてばかりです」

「ん、安心しろ、今だけだ」

「……いまなにかすごく不吉なこと言いませんでしたか?」

「ん。ああ、なんでもこの先のホールでロックバンドグループのコンサートがあってな」

「話そらさないでくださいよ。…会場でパニックが起こらないように警備とかですか?それってすくなくとも人間の管轄ですよね、なんで九派警視がいらっしゃってるんですか」

「ん。それは私の科白だ。君こそなぜここにいる?」

「ええ、なんでも若者に人気のグループらしいのですが此所らへんの学校は七時以降の外出が禁止されていまして、違反する妖怪の高校生の補導に狩り出されているんです」

「ん。ほう、大変だな、いまどきの高校生は」

「九派警視自分の格好を見てからそういうことは言って下さい」

「ん、私のはコスプレだ」

「せめて潜入葬査と言いましょうよ」


 どこまでも遠くどこまでも白い月の下


 たなびく二枚の黒い布。


 名は死神遠谷希生、階級は巡査。

 名は死神宗我部九派そかべここのは、階級は警視。


 世界は、少なくともこの二人の死神のいる街は、平和だった。


「で、警視はなんでここにいるんですか?」

「ん、……わたしもファンなのでね」

「……警視が潜り込んでる高校も、夜間外出禁止では…?」

「ん。遠谷。法は破られるためにあるのだよ」

「それ国家公務員の言の葉じゃありませんね」


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