3章
七日もかからずに、最初の二十冊がきた。
連絡先が携帯と自宅だったが、自宅は留守だったので、携帯に連絡した。
夜になって、またあの挙動不審カヲル君が現れた。あまり見たくないが、万引きなのか、盗撮なのか、その辺りは判別つけておきたい。
おや。近づいてくる。
商品はもってないから、質問か?
以前、万引き犯が、疑われてるのに気づいて、カムフラージュのために、わざと何でもない質問をして、自分は怪しいものじゃないというアピールをしてきたことがある。
簡単に見破ったけど。
それなのか。
「あのー」
「はい、何でしょうか?」
「本が入ったってお電話いただいたのですが……」
と控えの伝票を差し出してきた。
みるとそれは…。
こち亀だった。
瞬時に、顔をみてしまった。
この人…。そうか。
沙希は一秒で理解した。あの時は注文しようとして、迷っていたっていう不審だったのか。そうかそうか。見抜けなかったな。
自分もまだまだだ。
カリン様に、百年早いとか言われそうだ。
沙希はすぐに客注棚から五冊だして、会計を終らせ、相手の控えの伝票に、一~五巻済と、今日の日付を入れた。
「ありがとうございました」
「あ……はい、これからもお願いします」
「ど、どうも。こちらこそ」
若い男性にしては、腰が低い。口調だけなら、シンジ君みたいだ。
以後、カヲル君は、その後不定期に、時間だけはきまって買いにくるようになった。
◇
「ねー。あのお客さん、吉村さん狙いじゃない?」
「……は?」
そんなことはないでしょ、と手を振ると、川西さんは笑っている。
「今までに、三十五巻分だから、七回くらいは買いにきてるやろ。それみんな、吉村さん
がレジ打ったんとちゃうか?」
「えー? ちょっと覚えてないけど、確かにほとんど打った気がするわ」
「そやろ。だってな、吉村さんが休憩に行ってたり、事務所に発注行ってたらな、あの人売り場にきてても買わないで、立ち読みして待ってるんよ」
「うそぉー……」
「いや、ほんと」
「うわー。じゃぁ、今度から川西さん、おねがいしますわ」
「無理やろ。だって、さっきも言ったけど、吉村さんを待ってるから」
「うーん。じゃぁ、私が休みの日に買いにきてくれないかなぁ」
「そんな。私が吉村さんは今日休みですから、私でどうぞーって?」
言うと、川西さんは、ラムちゃんのようにお茶目に自分の頬を指差した。
「あ、いや……。私の個人情報は伝えなくていいです……」
「まあ、買いに来るだけで、何も言わんやろ。何か言われてから考えればいいやろ。今んところは、気にしんとき」
「えー、だって、気になるようなこといったの川西さんなのに」
「私はほんまのこと言うてるだけやん。それよか、何も買わんと棚の隅から見てるあれは、ほんまに気持ち悪いなぁ」
「あぁ……あれこそ、何とかならんかなぁ」
って関西弁移ってるぞ。
「ほんま。あれって私が勤めだすよりも、ずっと前からいるんよね」
「そう。もう二年も経つかなぁ。気づいた時から今まで、かなり頻繁だわ。あの視線だけには慣れたくないし、話かけられるのはもっといやだわ。もし、レジに近づいてきたら、逃げるからね」
「えー。そんなん私も嫌やわ。一緒に逃げるわ」
「一緒にって。レジ無人君になるよ」
「そやな。まあ、近くのレジに行ってもらうか」
「って、そんなわけにはいかないでしょ」
「あ、いらっしゃいませぇ~」
長い会話を交わせるほど、昼間は暇だった。