28章
二人とも丼ものを頼んで食事を終えると、すぐ近くのエスカレータへきた。
沢山のコスプレをした人がどんどん降りてきている。すぐ横から外に出ると、コスプレ広場
なのだ。
「もう、行きますか?」
雄二は、名残惜しいけれどそう声をかけた。
「いえ……まだいいですけど、お急ぎですか?」
「いや。じゃぁ、もうちょっと話を……あそこいいのかな」
エスカレータ横は、特に立ち入りが規制されてる様子はない。
「あ、はい……」
移動すると、雄二は紙袋からとある物を出した。
「これ、今日ゲットしたブツなんだけど。企業ブースって行きました?」
「いえ……企業にはいかないので……あ!」
沙希の表情がみるみる明るくなる。それを見て、雄二も嬉しくなった。
新作のタチコマストラップだ。
「これ……プレゼントします」
「え……いえ、自分のために買ったんでしょう?」
「二つ買いました。だから、これは沙希さんの分」
「じゃぁ、代金を……」
「いや、いいから」
雄二は、沙希が財布をだそうとするのを止め、ストラップを渡した。
その時。
「あら。沙希じゃない。オタクデートなのかしら?」
沙希の背中。雄二の正面から声をかける女性が近づいてきた。
沙希が振り返ると、口に手をやった。
「わー。麻央。なんでここに?」
「なんでって、これ見ればわかるでしょ。今から広場へ行くのよ」
「おお、格好いいですね。とても似合ってますよ」
雄二は、その女性が誰なのかわからないが、コスプレが何であるかはわかるし、非常に似合っているのでそう声をかけた。
「ありがとう。沙希の彼は褒めるタイミングを心得てるわね」
「えっ? いや、違うの。企業のグッズをいただいただけなの」
沙希が慌ててそう言う。なので、雄二も合わせる。
「そうです。いいブツが手に入ったので、お渡ししただけです」
「んー。そうなの? いい雰囲気よ。まあ、お邪魔虫はすぐ退散するわ。せいぜい頑張るのよ、沙希」
と言い捨てて、麻央と呼ばれる女性は二人に背を向け、右手を肩に上げて指三本でを格好よく振って、コスプレ広場へ向かった。
「……あ、ごめんなさい……その、いろいろと……」
沙希は脱力したようで、上手く言い訳ができていない。
そんな様子さえも、雄二は微笑ましかった。まあ、彼氏を否定されるのも無理はないので、そこは落ち込まないように努めよう。
「いいですよ。それにしても、そっくりでしたね……。あれ、アニメじゃないですけど、僕でもわかりましたよ。『ショムニ』の江角マキコさんの格好ですよね」
「そう。あの子は背格好があんな感じで、目元もつり上がってるから、江角マキコが一番似てるのよね。まあ、ホリックの侑子さんもやってくれるかもしれないけど」
「ああ……まあでも、あの別れの挨拶といい、かっこいいですから、あのキャラが一番似合ってるかもしれませんね」
「キャラね……。普段からあんな感じなのよね」
沙希は苦笑いを浮かべている。
「ずっと前からの知り合いですか?」
「そう。高校からの。でもね。お互い愛知から来てるけど、連れ立ってきたことはないわ。私もあちらも、一匹狼派みたいで……。会場につくと、知り合いのサークルさんに挨拶廻りはお互いしてるんだけどね。ジャンルも違うから、会場で会うのが珍しいわ」
「へえ。女性って、同じホテルに泊まったりして、つるんでるんだと思ってましたよ」
「んー。そっちのほうが多いかもね。特にサークル参加者さんは、売り子と一緒に泊まると思うから」
「あ、なるほど……。そうだ。時間は大丈夫ですか?」
今日は、一分でも自分の果たしたい用事が満載だろう。あんまり拘束してしまってもいけない。