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26章

        ◇


 週明けには、雄二は出勤したようだ。メールで、感謝との報告があった。

 気づけば、世間はもうクリスマス。

 店内BGMは十二月頭からクリスマスソングが多数流れているし、頭にもそれらしくものを被って仕事してるので、ずっとそんなテンションだが、本を買いに来るお客さんの品が、いよいよ佳境に入ってくる。


 プレゼント包装も多数。バイトの織田さん含めた三人でもは追いつかないことがしばしば発生する。

 隣に玩具売り場があり、そちらには店員が多数いるから応援を呼びたいところだが、玩具売り場こそ、大変な状況なのだ。遠くからみていても、クリスマス用包装紙が飛び回っているような状況。プレゼント品物に番号札をつけ、しばらくしてから再度売り場に来ていただく方式をとっている。目の前で待っていただいてても、すぐには渡せない現状だ。


 それでもいいからと、自分のが包装されるのをじーっと待ち、そして包装する様子をじっくり眺めるお客様もいる。

 正直、店員たちは見られると緊張して上手くできるものをできなくなるので、姿を消していてほしいと思うのだ。

 それは書店でも同じ。ただ、本はある程度形が決まっていて、何冊かまとめての包装でもそんなに難しくはない。


 沙希は以前、玩具売り場のこの時期の包装を手伝わされて、音を上げた。ボールだとか、六角形なものとか。それから、やわらかい縫いぐるみも曲者だ。ましてやそれを一つにまとめてとか、もう無理。全部袋につめて、リボンがけでいいじゃないかと思ったくらいだ。


 こんな時、包装が得意なキャラでもいたら、召喚したいと何度も思った。だけど……ラッピングの達人的なキャラっていたかな? と考えても思い浮かばない。いやまあ、思い出したところで、三次元に召喚できないしね。


 そうやっていつものレジ打ちよりも、包装に時間を割かれる日も最終日。

 二十五日にもなると、包装の数は減ってくる。

 やれやれと落ち着いてきた、その日の夜。久しぶりに、雄二が書店にきた。

 この時間はもう、沙希と学生バイトの織田さんだけだ。


「こんばんは。いつもの取りにきました」


 このころになると、お互いもうギクシャクするようなやりとりではなくなっていた。


「はい、お待ちください」


 沙希は取り置き棚をみる。 


「あれ?」


 いつもの場所にない。おかしい。

 しばらく探してると、織田さんがひょいっと棚を覗いた。


「そこにある、ラッピングされてるやつじゃないですか? リボンのとこに、こち亀ってメモが貼り付けてありますよ」

「え?」


 ラッピングされた商品は、いつもの場所に鎮座していた。沙希の脳内では、こち亀がむき身で何冊か置いてあるイメージでしか探さなかったので、盲点だった。


「なにこれっ!」


 こち亀、多分五冊が、青いクリスマス用紙でラッピングされていて、赤いリボンもついている。もちろん、沙希がやったわけではない。


「織田さん?」

「私じゃないですよー。こんなことするの、私ら以外ならあの人しか……」

「でしたね……ごめん織田さん」

「いえいえ」


 織田さんは笑顔で返すと、レジから出ていった。と思ったら戻ってきた。雄二の後ろにお客さんが来ていた。

 沙希が前にいる雄二さんの分からやろうとすると、織田さんが後ろのお客さんの対応をしてくれるようだ。

 沙希と雄二は、レジから横にずれた。


「それで、あの……」

「会話で事情はわかりましたから」


 雄二はメモをみて苦笑している。

 リボン横のメモには、『こち亀。プレゼントにしたいけど、私が代金払う義理はないから、ラッピングだけしておくわ』

 って、誰って書いてないけど……川西さんしかいないでしょう。


「お茶目な方ですね……」

「まあ、おせっかいっていうか……」

「代金は、いつも通りですよね」

「そうだと思います。ちょっと待ってください」


 沙希はラッピングの商品の下敷きになっていた、スリップをだした。

 スリップというのは、月刊、週刊誌以外の新刊本の頭に挿してある、二つ折りの紙で、書店で買う時に店員が抜き取り、売上の管理をするもの。

 近年はコンビニにも新刊本が置いてあり、コンビニ店員は抜き取ることを知らないので、お客さんが買って帰って、そのまま本の間などに入っていることがあるようだ。 


 このスリップには、商品名や出版社。それから値段も書いてあるので、今回のようにラッピングされてしまっても、スリップみながらレジ打ちができる。


「大丈夫です。同じ値段です」

「では……」


 と雄二はレジに並び直し、沙希も対応する。


「二十二日の夕方にも来たんですけどね。なんか皆さん、必死にラッピングされてるので、誰にも声かけられずに、今日にしたんですけど」

「ああ……。ここ数日は、もう必死でしたから」


 沙希は苦笑した。そう、ラッピングに必死で、周りの警戒どころではなかった。この時期に万引きが来ると、かなり厄介だ。


「いろんな本をラッピングされたんですか?」

「それはもう、いろいろと。特に児童書の、音がでる絵本とかクリスマス仕様になってるしか

け絵本が多いですね。あとは、過去に漫画六〇冊とかありました」

「えええ。それは包みにくそうな……」


 雄二は両手を広げて、驚いている。


「いえいえ。その場合は書店のダンボールにつめてから、箱をラッピングなのでたいしたことないですよ。値段もマジックで潰さなくていいですし」

「ああ、そうか……本は値段が印刷されてるから、消さないといけないこともあるんですね」

「絵本はマジックで消しますね……。漫画は、プレゼントされるほうもわかってるからあえて消さなくてもいいみたいですね」

「なるほどね……。なんか、この時期のエピソードはいろいろありそうですね」

「ありますよ、沢山」


「そういう、書店の内事情も楽しそうです。今度、お話してください」

「え……あ、いいですよ」


 ずいぶん自然に、そっちへ話を持っていったな。沙希は苦笑するけど、断ることではない。


「じゃ、また今度。というか、数日後。あの場所で」


 雄二は笑顔だ。


「そうですね。それが一番近くに合う日になりますね……では」


 と、沙希は頭を下げて……気づいた。


「あ……」


 慌てて帽子をとっても、かなり手遅れだった。

「とっても似合ってますよ。可愛いです。撮影したいくらいです」


「いえいえいえ。それは駄目。撮影禁止っ」


 沙希は赤面して、帽子をとって頭を下げた。

 雄二は笑いながら手を振って、書店を出ていった。


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