25章 沙希、雄二の家へ
すこし間が空きました。おまたせしました。
その間にお気に入りしてくれた方がまた増えました。ありがとうございます。
◇
その夜。沙希は気遣いのメールとともに、川西さんの文言も加えてみた。きっと来ないようにと返信くるはずだが。
『今、非常に重篤で、身体に根が生えたように動けません。しかし、物資が不足してしまいました。代金払いますので、差し入れだけ置いていっていただけると助かります』
なんと、あれから急に悪化したのか。それにしても丁寧な文章だ。
『わかりました。必要物資をメールしてください。お邪魔していい時間にお伺いします』
と返したら、しばらくしてから返信がきた。
『ポカリ系2リットルと、レトルト梅がゆ。時間はいつでもいいです。もし寝てても携帯鳴らしてくれれば起きます』
場所は以前きいている。ひと駅先だから周辺まではたどりつくはず。細かい場所がわからなければ、どこかで車を路肩によせて聞けばいいか。
沙希は、要求の物資にプラスして用意をして、家に向かった。母には、マンガ喫茶に行ってくると告げてある。普段から夜にそういう所へ行っているから、あえて勘ぐられることもないだろう。
雄二のコーポはすぐに見つかった。周辺に似たようなコーポがなくてよかった。
着いてみると、22時すぎだ。起きてるかな。
インターフォンを鳴らすと、鍵を開ける音がした。
「あ……。大丈夫ですか?」
雄二は紺色の半纏を着て、下は寝巻きだった。マスクをして、ひたいには吸熱剤が貼ってある。相当つらそうだ。
「ちょっと、今晩がヤマかも……。ともかく入って」
「あ、はい」
沙希は玄関先に入り込む。すぐ帰るからコートは脱がないでおこう。その脇に座って、物資を出した。
「ごめんね。ちょっと全然頭回らないから、気遣えない」
「いえ、そんな。暴言吐かれても熱のせいにしておきますから、お気になさらずに」
言うと、雄二は笑ってくれたようだ。目しか見えないけど。
「ええとね。あと他にちょっとブラスしてもってきたから。梅干と、家にあった風邪薬ののこり。それから、額に貼るやつも」
「ああ、ありがとう……いろいろ気をつかってもらって……」
「いいの。今、熱はどれくらい?」
「八度八分だった。あ、お金」
「いえいえ。いいの。気にしないで」
「でも、薬とか……」
「家にあるのもってきたから、代金不明」
沙希は笑って手を振った。
「悪いなぁ……」
「本当にいいの。だったら、今度図書カードで返してくれればいいわ」
「……さすがだ」
「なにが?」
「いや。それよりも、本当はコレクションみてもらいたいけどね。それどころじゃないから」
「そうね。横になってもらわないといけないし」
「うん……。沙希さんにうつしたら大変だし」
「そうね……でもせっかくだから、見える範囲だけ見学してから帰るわ」
言うと、沙希は立ち上がった。
目の前のこたつの後ろに布団がしいてあって、その背後に本棚がある。見上げると、耐震してないので、寝る場所としてはお勧めしないが、今だけの場所かも。
本棚には、少年漫画、少女漫画がきっちり分けて配置されていた。その下には文庫も並んでいる。
「グッズの棚は別にあるんですか?」
「そう。奥の部屋なんだ。今度の機会に……」
「そうですね。じゃぁ、元気になったらメールください」
「わかりました。いろいろありがとう」
「いえいえ。つらいと、近くの買い物ですらつらいでしょうし」
沙希も当然何度か味わった経験だ。
「本当に……ここまで悪化すると思わなかったから、帰りに買い物しなかったよ」
「まあ、この時期は油断できませんものね。じゃぁ、これで」
沙希は玄関に向かった。
「あ、ありがとう……」
雄二は、半纏姿で弱々しく手を降ってくれた。




