表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

23章

        ◇


 十二月になると、店内の飾りつけがすっかりクリスマス仕様になっており、天井にはモールまで下がっている。なんだか気ぜわしい。


 この季節は、店内がチカチカするだけでなく、店員も多少きらびやかにならないといけないので、沙希はそれが憂鬱だった。そう、近年コンビニ店員でもやっている、サンタ帽での接客だ。しかも、沙希には赤いエプロンまでついてくる。これは、どんな年齢の男女でもやらされるので、ベテランのおじちゃん、おばちゃん店員も帽子だけは被る。

 それでも、苦笑いしながらでも結構みなノリノリで、学生バイトに至っては、男女とも閉店後に写真を撮りあっていたりする。

 沙希も例年嫌々被っての接客だが、今年はどうしても嫌だ。

 だって、浅見さんがやってくるから……。どんな顔されるだろうかと想像して、ため息をつく。


「おお、恋の季節だねぇ」


 川西さんは、沙希の浮かない顔を何と勘違いしているのか、突っ込んできた。

 突っ込みはいれつつも、手元で書店のカバーの端折りはこなしている。時間がある時に、文庫用、漫画用の紙カバーの端をおっておく。やっておかないといざという時に、何箇所も新たに折るので、お客さんを待たせてしまうのだ。


 沙希は、オンライン端末で欠品の発注をかけつつ、店内を見回している。もうちょっとしたら、学生が家に帰る前に寄っていく時間帯に差し掛かる。


「そんな季節はないでしょうけど……サンタ帽が嫌なんです」

「せやな。吉村さんは毎年嫌がってたからな。今年は更に、恥ずかしいからやろ?」

「……まあ、そうですね……」


 この人の前では小細工は通用しない。完全に言い当てられているし。


「こち亀さんが来たら、すぐに帽子はずそうにも、きっと後ろからみてますからね……」


 店の構造的に、お客さんがレジの後ろの商品もみられるようになっている。そこに立てば、後姿でサンタ帽の店員がみられるのだ。


「もうそろそろ次のとりに来る気がするんですよね……」

「どうしても嫌だったら、次に取りに来る予定の日をメールで聞いて、避けるという手もあるけどな」

「わざと休憩に出てしまうんですか? その間に、川西さんと余計な世間話されるのは、ちょっと……」

「言うてくれるなー。もう二人のキューピットは済んでるから、あとはてぐすね引いて待ってるだけや」

「はあ……そうですか……」


 もう何も言うまい。あきらめて、見られるしかない。

 ズレ落ちそうな帽子を被り直して、店内を見回した時、不審な視線を感じた。

 沙希の、警戒スイッチが入る。『悪・即・斬』をしなくていい相手であってほしい。

 その男は、見た目五十代。深緑のコート。統計的には、あまり本を万引きする年代ではないけど、万引きに常識も例外もない。その視線は遠くから沙希……というか川西さんをみている。


「あの……川西さん」

「なんや?」

「あの人、知り合いですか?」

「は?」


 沙希がレジから遠く、示す方向に、川西さんが目をむけた。と思ったら、すぐに逸らした。


「しらんわ」

「そうですか……」


 とはいえ、その男性は半分姿を隠しつつ、まだ川西さんをみている。本屋だけど、本には全く興味のないような行動だ。


「そろそろ、織田さんくるやろ」

「え? ああ、そうですね」

「織田さん来たら上がりやで、そこらへん整頓してくるわ」


 言って、川西さんはレジをでて、男性とは反対側の売り場へ歩いて行った。

 しばらくして、学生バイトの織田さんが来ると、川西さんはすぐに退社していった。

 それからまもなく。


「あのー」


 先ほど、川西さんを見ていた男性がレジにやってきた。


「はい、なんでしょうか?」

「先ほどまでいた店員、名前はなんというんでしょうか?」

「あのー。個人情報にあたりますので、私からはお伝えしかねます。もしよろしければ、店員はそれぞれこのように名札を下げてますので、今度あの店員が出勤のおりに、ちらりと拝見されたらよろしいかと思います」


 沙希は丁寧に頭を下げた。


「そうですか……わかりました」


 ほっそりとしている男性の口調は丁寧だった。そのまま店から出ていった。

 沙希はすぐに横にいた織田さんに声をかけた。


「今みたいに、他の店員の個人情報とか、シフト。お客さんに聞かれても、答えないようにね」

「あ、はい……」

「家族ですって言って聞いてくる人もいるかもしれませんけど、それも直接本人に聞いてくださいって、対応してね」

「はい、わかりました」


 織田さんは真剣な眼差しで聞いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ