19章
◇
翌日の閉店後、沙希は川西さんのおごりで、近くの喫茶店で尋問さながらの質問攻撃をうけた。
「な、うちの勘も捨てたもんやないやろ」
「そうですね。でもまさか、ストーカーが駐輪場で刺してたなんて……」
「だって、簡単やん。三角関係やもん」
「違いますって」
「違わへんわ」
沙希は頭を抑えた。三十越す今まで、誰にもデートに誘われなかったのに、何で今更。
「あいつがパトカーから降ろされて、そこで散歩いこうとしとった警察犬が、すんごい吠えて、わかったってのも笑えるな」
「まあ、一ヶ月前に犯人のって嗅がされたのを、覚えてたんですね。その時は途中で見失う……じゃなくて、嗅ぎ失ったみたいですけど」
「でもな、あいつが言ってること、はちゃめちゃやな。本当におかしい奴やったんやな。それやったら重い罪にでけへんのかな」
「どうなんでしょうね。私の髪の毛が欲しかったとか、話かけて邪魔だから、刺したとか。ストーカーって精神異常者多そうだけど罪にはなるでしょうし、実刑軽そうですよ。それよりも、今回は刺した罪が重そうですね」
「そうなんか。吉村さんのは、正式に被害届だしてなかったからなぁ。つきまといだけでも、被害届けだしていいなんて知らんかったもんね」
「本当にね……」
今更ながら、出しておけばよかったと、後悔した。一応、現れた日と居てた時間帯は、一年分くらいノートに記録してあるから、参考にしてもらえるようだけど。
「でもなー、その髪の毛は、美容師さんでも練習用に下さいって、言ってきそうやけどな」
「やめてくださいよー」
気になって、一つ結びにしてまとめてる髪の下っ端を自分でつかんだ。腰辺りまである毛先をついでに見た。枝毛は見当たらない。
「まあ、でもいっぺんに解決してよかったなぁ。で、こち亀さんと進展はあったん?」
「ええと……いや、特には……。って、何で川西さんに言わないといけないんですかっ」
「隠しても無駄やで。ついこの間まで、こち亀さんからは、けえかほうこく、もらってたんやからな」
「え? なんですか、それ」
「おお、ほんまに約束守っとったんやな。えらいわ、あのあんちゃん」
「ちょ、どういうことですか!」
「ええと、この先は、デートしながら聞いてな」
「そんな……」
「気になって、すぐにでもメールしたいやろ」
「いや、私は携帯でメールやりませんから」
「そうやったな。でもこれからは、休憩中に頻繁に携帯でメールするようになるんとちゃう?」
「やりませんって」
「でも、安心してな。もう私らはメールせえへんで。アドレス消したでな」
「え……。そんなにやりとりしてたんですか」
「あー、心配せんで。ほんの数回程度やから」
「そうですか。どこまで情報が筒抜けだったのかは、聞いてみます」
「そやそや。私の話ネタにして、盛りあがってなー」
「盛りあがりませんよ……」
豪快に笑う川西さんを見ながら、この件は、メールでは済ませないぞ、と決めた。
◇
久しぶりに、アパートに帰ってきた雄二の携帯から、銀河鉄道999が流れてきた。
表示は、登録したばかりの名前。
「あっ、どうも……。いきなり電話なんて、どうしたんですか?」
「どうしたも、こうしたも。うちの同僚さんと、メールで事件のやりとりしてたんですね」
「あぁ、とうとう白状しましたね。まあ、潮時でしたしね。あの方も、引き際はちゃんとわきまえてくださってますね」
「どうして、そこで川西さんをほめてるんですか」
「あ、怒ってますね」
「当たり前です」
「嫉妬ですか?」
「……会うの、やめましょうか」
「あ、いやいやいや。ごめんなさいっ」
「いきなり、シンジ君にならなくても」
「じゃぁ、いつものカヲル君で。その前に、僕からかけ直しますよ」
「あ……そうですか。ありがとうございます」
「すぐかけますから」
言って、雄二はすぐに携帯を切って、お茶を淹れなおして、高揚するのを抑えるために、一息ついて飲んでからかけなおした。