18章
6
沙希は自分の車で向かい、こち亀さんは刑事さんの車で、警察署へ到着した。
沙希とこち亀さんのそれぞれの事例は、刑事課と生活安全課という違のいがあるということで、別々に話をきかれた。きっと、同一の事件の被害者でも、別々に聞くんだろうけど。その後の、マジックミラーで相手を確認するのも、もちろん時間差だった。
ただ、両方とも調べが終わったのが十分差くらいで、沙希が先だったので、交通課のロビーで待っていた。
「お待たせしました」
こち亀さんが降りてきた。
沙希は、文庫にしおりを入れて閉じ、かばんに入れて立ち上がった。
「いいえ。本を読んでたから、大丈夫ですよ」
こういう時、常に読みかけの文庫を持ち歩いていてよかったと思う。
「じゃあ、お願いします」
沙希に丁寧に頭を下げた。
「はい、かまいませんです」
沙希が、病院まで送ることにしたのだ。
「でも、助手席の下、ちょっと散らかってますけど……」
「気にしませんから」
病院へ行く時に、足場は整えておいたが、それでも窮屈だろう。沙希の助手席の足元には、五十枚くらいのアニメのCDがラックごと置いてある。
エンジンをかけて、音量は下げた。
「あ、これは、ビバップですね」
「あー、音は下げたので、あまり気にしないでください」
沙希は、もっとマイナーな、洋楽っぽいのをかけておけばよかったと、ちょっと後悔した。
警察署から病院までは、車で十五分くらいだ。隣に異性を乗せるのははじめてだが、運転に集中すると、そうも気にならない。
「そういえば、さっきの携帯の着メロも、いい曲でしたね」
「ああ、あれは超メジャー級の曲ですからね」
「そうですか? あれは劇場版の主題歌ですよ」
「ええと、私からすれば、メジャーなんです」
「すごいですね。私基準、ですか……」
「いや、ちょっと待ってください。なんか、やっぱりハルヒみたいだって言われてる気がするんですけど」
「言ってませんが、そう思うなら、自覚してるってことですよね」
「うわ……」
墓穴だ。
「BEYOND THE TIMEって、メジャーだと思うんだけどなぁ……」
はぐらかすように、言ってみた。
「そうですね。ガンダム知ってる人なら、普通に知ってるでしょうね」
「でしょ。じゃぁ、普通じゃないですか」
「いや、ガンダム世代って、年齢限られてますから。特に、富野作品はね。って見てきたように言ってますけど、僕はギリギリでリアル世代から外れてますよ」
「私もですよ。いったい幾つだと思ってるんですか」
「言っていいんですか?」
「い、いえ……」
こんな形で、年齢を暴露したくはない。きっと私の方が上だろうし。
「いいですよ。吉村さんは答えなくていいです。僕は、巳年です。早生まれじゃないです」
「そうですか……」
やっぱり、自分の方が上だった。一つだけだけど。
「あ、そういえば、タチコマ好きがわかった理由って……」
「それは、今度会う時にって約束ですよね。もし今いったら、きっと悲鳴あげて、運転ミスりますよ。僕と心中しますか?」
「ちょ、ちょっと、心中はできませんって。てか、その台詞だけでも、ミスりそうなんですけど……。私、いつ、どこでそんな事言ったの?」
「だから、今は言えませんって」
こち亀さんは、秘密を握ってるといわんばかりに、楽しそうな口調だ。
「うわ、何か、使途になったカヲル君みたいなんですけど」
「僕が?」
「そう」
「シンジ君っぽい方が、好みですか?」
「うーん。妙に落ち着かれてると、私の方が負けてるみたいで」
「負けず嫌いなんですね。ますます……」
「それ以上、言わなくていいです」
「はい。あ、ありがとうございます」
沙希は、病院の駐車場に車を入れた。
「あとは、歩いて戻りますから」
「ああ、そうですか……」
「そんな、さびしそうな顔しないでください」
「してませんっ!」
「じゃ、また今度」
こち亀さんは、穏やか笑顔で、助手席の扉を閉めた。




