11章
またお気に入り登録が増えました。本当にありがとうございます。
お仕事で体力減ってますが、なんとかアップ頻度をあげたいと思います。
小説はできてますので…。
◇
こういうことがあると、普段から振り返る癖ができている沙希だが余計警戒してしまう。
何度も後ろを見るのも、自分がおかしいと思われてしまうので、こういう時は悪魔くんの百目がうらやましい。
「……。あかんわ。電話留守になってまうわ」
「じゃぁ、どうにもならないですね」
川西さんが電話したのは、あのこち亀の男性だった。
コンスタントに来店してたので、沙希もいつものペースでこち亀を注文し続けてしまっていたのだ。
なのに、こなくなってしまったので、二十冊溜まっている。
別にそのくらいためてもスペースに余裕はあるからいいし、気にすることもないのだが、川西さんはそうはいかないらしい。
そんなにあのカヲル君が気にいったのか。
年齢差がちょっとあるし、川西さんは結婚してるので、ちょっとやばいのではないかと思っていたら、違うらしい。
私に、やたら電話しろと言う。そういうことか。
でも、あんなこと言われたから、私は電話したくないと言ったら、川西さんが代わりに電話をした次第だった。
「携帯も、家の方も留守やわ。朝の人にも頼んでもらって電話してるから、朝、昼、晩と留守やわね。夜逃げでもしたんか」
「さぁ……。二日くらい留守にすることならあるんじゃないですかね」
「でもな、携帯に着信が何度も入ってたら、普通電話かえしてくるやろ」
「まあ、そうですけど」
「どうしたんやろな」
「そんなに気にしなくてもいいじゃないですか」
「そらな、吉村さんは今ストーカーの方が気になってると思うけどな」
「いや、あんまり考えたくないんだけど」
「私な、推理してみたんよ。この間刺されたのが、このこち亀さんやないかって」
「え?」
「だってな、あの事件おきたくらいから来てへんねんよ」
「あぁ、確かにそうですけど……。そんな偶然って……うーん。ここの店のお客さんだしなぁ……。そういえば、刺された人のこと、全然気にしてなかったわ」
沙希は、刺した犯人の情報しか気に止めてなかった。
「店長が、刺された人のお見舞いに行ってるんだけどね、若い男の人で、全治二ヶ月弱くらいってのしかきいてないわ」
「そうなん? 店長見舞いに行ったんか。じゃあ、写真あれば、はっきりわかるんやね」
「そうでしょうけど、もう録画されたのは消去されてるだろうしね。特徴だけ言ってもわからないだろうし。名前言っても、店長が覚えてるかどうかわからないし」
「電話番号は?」
「あー。どうなんだろ。電話か名前があってれば、ビンゴですよね」
「そうそう。あー、気になってきたわ。店長に聞いてもええんかなぁ」
「いや……。いきなりそれ聞くのはちょっと。何か話のきっかけでもあればいいですよね」
「うーん。そこんとこは、吉村さんにまかすわ。店長とよく話するやろ」
「いや、しませんって」
「じゃ、ずばり定期購読の人かも知れないのでって」
「そうやって聞くしかないかなぁ」
「頼むわ。わからんとすっきりせえへんねん。吉村さんも気になるやろ」
「そんなには……。私は、そんな偶然はないと思いますけどね」
恨みを持たれそうな人にも見えなかったし。
「まあ、機会があれば店長に聞いておきます。川西さんも、もう五、六回も携帯に着信入れてるんだから、後はかかってくるの待つってことでいいんじゃないですか?」
「そやね。それ以上やるとしつこいわな」
「じゃ、休憩に出ますんで」
「はい。いってらっしゃい」
沙希が、事務所で仕事する書類を持ってバックヤードへ向かう。
いつものルートは、襲われた時から使っていない。できるだけ、お客さんが多いルートを使
うようにした。
たぶん自分が不審者に見えるだろうなぁ、と思いながらも背後や周りの確認は怠らない。
何事もなく事務所の前に来られた。扉を開けようとすると、中から開いた。
いいタイミングで、開けてくれたのは。
「あ、店長」
せっかくだから、勢いのまま聞いてしまえ。
「ん?」
「あの……。この間刺されたお客さんですが、うちの定期のお客さまかも知れないって、売り場の人がいうので、名前を教えていただきたいのですけど」
「はぁ。そうなの? 名前ねぇ。覚えてはないけど、机の中に事件の記録として残してあるから、それを見ればわかるなぁ」
「そうですか。すぐでなくてもいいので、そのうちに……」
「いや、まぁ。店内の見回りに行こうとしてただけだから、今出してみようか」
「あ、はい……。すみません」
店長が開けてくれた扉の中へ入った。店長は、机からすぐにクリアファイルをだしてきた。
「ええと、ここに名前が……。浅見雄二っていうんだね。三十歳で、住所はここからすぐ近くだね。入院先は、名教大病院だよ。もう怪我も回復してきてる頃かな」
「浅見……」
いつも、こち亀さんと言ってばかりで、名前が脳内に定着していない。でも、これは。
「うわ。ビンゴっ」
「びんご?」
「ああ、あの、本当にうちの定期の人です……どうしよう」
「へえ。本をよく読むお客さんなんだね。定期があるなら、もっていってもいいんじゃないかな。暇してるだろうし」
「え? そこまでやらないといけないですか?」
「いやいや。やらなくてもいいよ。まあでも、怪我人ってのは、もう退院してもいいくらい元気でも、拘束されることがあって、暇かなと思っただけだから。もう僕からは見舞いとか渡すものはないから、好きにしてくれていいよ」
「はあ、そうですか……。わかりました。ありがとうございました」
「そうかそうか。本のお客さんねぇ……」
店長は軽やかな笑顔で、沙希からファイルを受け取った。
沙希は、休憩に入った食堂から内線で、売り場に電話した。
「あ、吉村です。あの……丁度店長にあったんで、聞いたんですけど、合ってました」
「は? あってたって?」
「あの、刺されたの、こち亀さんなんです」
「おーっ、ほんまか? 私当たりか?」
「みたいです」
「そうかー。あ、お客さん来たわ。後で詳しく聞かせてな」
「詳しくって……」
苦笑してる間に、電話は切れた。