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1章  沙希の日常業務

登場させるキャラに、往年の名作のセリフを言わせてみてます。

オタクな書店員さんと共に楽しみたい方は是非ご一読を。

        1

 


 沙希は、今日も愛知の自分の勤務先で目をひからせていた。

 沙希の仕事は書店での業務全般だ。

 昨今、書店でレジのみ、注文のみ、返品のみといった作業分担ができるのは、超大型書店で裕福に人員を抱えているところのみであり、坪数にして百坪に至らない、現在では小型書店分類されそうな沙希の店では、書店経営ができるくらいに全部の仕事をこなしているのだ。しかも、八時間労働パートの身分で。


 そして、今はレジを打ちつつ、挙動不審者を目で追うという、二足のわらじ的なことをしていた。

 今、レジから二時の方向五メートル先にいる男は、多分万引きをする。

 書店のテリトリーに入った時から、そいつの視線は不審だった。手持ちの黒の布袋も、口が閉じないタイプのもので、容易に入る。危険だ。

 店内の店員は今の時間二人で、レジで並んだ時のことを考えて、そいつを追いに行けない。だから、さっき警備員を内線で呼んだが、到着までにはあと二、三分というところか。


 男は、警戒しているようで、こちらの様子も伺う。

 単に本を買いに来るだけの客なら、店員の動きなどまず気にしない。

 それから、今、男は漫画を四冊手に持っている。その手の持ち方でもクロ確定だ。

 この男はみかけたことないのだが、その様子からは万引き常連。ここで捕まえないと、どこかの店でまた被害が広がる。

 沙希が並んでいたお客さんのレジを終わらせて、一旦手空きになったところで、警備の男性がやってきた。今日は偶然、私服の保安員がいてよかった。いつもなら、このショッピングセンタが抱える制服をきた人を呼ぶしかないからだ。

 制服を着ている保安員も結構目利きだが、私服でないので、犯人たちを脅す効果しかないのが実状だ。

 茶色ジャケットの男性保安員が、レジから数歩離れたところにいる沙希に声をかけてきた。 


「あいつかな?」


 と小声で沙希に確認を求めてきた。


「そうそう、あの山田太郎君みたいな人です」

「山田太郎……あー。似てるねぇ」


 私服保安員の男性は、私より年下の二十代の半ばくらいのようだが、笑いを返してきた。

 よかった。そのくらいのメジャーなキャラなら、一般人にも通じるようだ。

 ここでもう沙希は、万引きハンター役から解除だ。警戒モードの視線もいらない。

 丁度レジも混みはじめたので、後は完全にプロの保安員であるあの男性にまかせることにした。


「いつも思うけど、吉村さんの目利きはすごいなぁ、私では全然わからへんかったわ」


名古屋のこの地において、関西弁で話かけてきたのは、同じ時間帯で勤務する、川西さんという今年で丁度五十歳のパートさんだ。

沙希とは二十歳くらいの差がある。


「いや、でも私も勤めはじめた時はものすごく盗られまくってたし。慣れれば、不審者とかわかるようになりますよ」

「そうなんかー。でも、万引きハンターに転職してもいいほどの目利きの書店の人って、あんまりおらへんような気がするなぁ」

「どうでしょうかね。でも一つの書店に、全時間帯で最低一人はそういう人がいないと、万引き見張れないですからねぇ」

「んー。でもなぁ、私ここに来て三ヶ月やけど、本屋がこんなにいろんな仕事あるとは思わへんかったわ」     

「あー。まあねぇ。本屋はレジだけやってればいいとか思ってる人多そうですね」

「そうそう。でもな、いろいろあるから気分転換になってええわ。ちょっと悪い人捕まえるのは怖くてできへんけどな」

「えー。川西さんなら、その体格で威圧できそうなのに」

「いうてくれるなぁ」

「いや。いい意味で褒めてるんですよう」

「そんなんな、吉村さんみたいにちっこい方がええねん。一応女だからなぁ」


 言われて、沙希はあいまいに笑った。

 快活に笑う川西さんは、体格の割りに小心者だというのは、最近わかってきた。

 何せ、女子高生がまだ買ってない雑誌を携帯で撮ってるのでさえ、注意できないのだ。

 業界用語で、携帯万引きというその行為は年々増加していて、春、夏、冬休みにもなれば、ほぼ毎日のようにあって、頭を悩ませる。 

沙希も最初は注意するのに、勇気がいった。

 だが、三十路ちゃんという年齢とともに、くそ度胸までついてきてしまったようだ。

 小柄なのと、すっぴんで仕事してるせいか、まだ二十代半ばに見てくれる人が多いからいいけど、携帯万引きを何の躊躇もなく注意できてしまうので、中高生からおばさん呼ばわりされる日は近いだろう。嫌だ。

 

    ◇



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