第9話
ほとんどの仕事をキャンセルした俺達は、何もしないまま5月を迎えていた。
芳樹の葬儀は身内だけで行われたが、ファンクラブの連中が大々的に告別式をやっていた。
テレビでそれを観たときそこに居る人の多さに驚いた。数万人が参列していたのだ。
俺はそれを見たとき不謹慎にもそこでライブをやりたい・・・そう思っていた。
結局バンドは新しいメンバーを入れること無く、サポートメンバーという形で
有名なスタジオミュージシャンが参加する事になった。
来週からそのライブが始る・・・今回は全国ツアーだ。
久しぶりに集まったメンバーだったがほとんど口もきかず、淡々と演奏をこなしていた。
自主トレは各自やっていたようだ。
ドラムも違和感無く演奏に溶け込んでいる。
何も変わってない。
ただ違ってるのはそこに座ってるのが芳樹じゃないこと、メンバーの心が通い合って
いないこと・・・
こんな状態でも客は盛り上がるに違いない。
メンバーの自殺からの復帰ライブなんだから。
状況が一変したのはツアーも中盤に差し掛かった8月のことだった。
正也が覚せい剤容疑で取調べを受けたのだった。
結局証拠不十分ということで帰してはもらえたがマスコミは大喜びだった。
話題の多いバンド・・・しかも未成年だ。
ツアーは中止されず10月のファイナルまで何とか体裁を繕っていた。
「なあ・・・隆一・・・このバンド解散した方が良くないか?」
ベースのケンがダルそうに言った。
「何でそんな事言うんだよ・・・デビューして丁度1年だろ?
これからじゃねーのかよ・・・俺達・・・」
「このままじゃみんなダメになっちまう・・・正也見てみろ・・・
昼真っからラリってやがる。毎晩女をとっかえひっかえでほとんど寝てねーだろ」
「ああ・・・知ってるよ。この前注意したんだけど・・・」
「このままじゃまた死人が出るぜ。もう限界かもよ?」
「ツアーも終わったし、暫く活動休止ってことでいいんじゃね?
ゆっくり旅行でもしてさ・・・そしたら正也も前みたいに・・・」
俺はこのバンドを失いたくなかった。
みんなとずっと一緒にやっていきたかった。
ただそれだけだったんだ・・・
ケンの自殺未遂のニュースを俺はテレビのニュースで知った。
クリスマスも近い12月の寒い朝のことだった・・・




