第8話
俺達のCDが店頭に並ぶ頃にはソニックエンジンは芸能界のちょっとした話題だった。
全員高校生でジャックレコードのコンテスト優勝。
ライブは来年までぎっしり詰まっている・・・
ビジュアル的にもウケがいいらしい。特にボーカルの正也のアクションは絵になった。
人気が上がるとともに俺達の自由に出来る時間はどんどん減っていった。
練習する時間もスケジュールに沿ってマネージャーの言われるままスタジオに入っていた。
早くも次のCD製作の話があり、何曲かはデモテープまで用意されている。
もちろんオリジナルじゃない・・・だけど俺達の誰かの作曲って事になるらしかった。
「正也最近喋らなくなったよな・・・」
ケンが天井を見ながら言った。
「ああ・・・冗談しか言えないやつだからなぁ。こう忙しすぎると精神的に余裕が
無くなってるんじゃないかなぁ・・・俺もちょっと疲れてきたよ」
「芳樹ちょっと痩せたんじゃね?」
相変わらず天井を見上げたままケンが言った。
「今日はジャーマネに言ってちょっと早くあがらせてもらうわ・・・来週から
またライブあんし・・・」
渋谷にあるスタジオをからFMラジオ局へ向かう途中で芳樹だけタクシーで
最近借りたばかりの世田谷のマンションに帰っていった。
ラジオのインタビューではほとんど正也が喋っていたから芳樹が居なくても
場は繋げるだろう。
生放送を難なくこなし俺たちはそれぞれのマンションに戻っていった。
タクシーの時計を見ると23時を少し回っている。
翌朝マネージャからの電話で目が覚めた。
いつもなら9時頃かけて来るんだがこの日は7時過ぎに携帯が鳴った。
「隆一君・・・気をしっかり持ってくれ・・・芳樹君が・・・・・・」
俺は寝ぼけていてマネージャーが何を言っているのか理解できなかった。
いや・・・理解しようとしていなかったのかもしれない。
芳樹が死んだ?
なんで・・・
昨日一緒に居たじゃん?
迎えに来たマネージャーの車には放心したような顔をした正也とケンが乗っていた。
病院に到着するまで俺たちは一言も話さなかった。
「自殺って何?・・・意味わかんねーよっ!」
病院を出て最初に声を出したのはケンだった。
「そんな事考えてたんなら・・・なんで俺達に言わねーんだよ・・・
俺達・・・仲間だよな? なあ・・・そうだろ? 隆一・・・なんで・・・」
「わかんねーよ・・・なんで芳樹が・・・正也・・・お前なんか聞いてないのかよ?」
「あいつ・・・疲れてたんだよ。この何ヶ月かの間に生活が一変しちまって・・・
俺だってそうさ、どこへ行ったって誰かが俺達のこと見てやがる。
ずっと監視されてるみたいだぜ・・・もう飽き飽きする。隆一は平気なのかよ?」
「俺は・・・自分の演奏を聴いてくれるやつらが居ることが嬉しいから・・・
それに誰かに見られてるとかそんなこと気にしたことなかった。
ギターが弾けるんなら・・・そんなこと気にならない・・・」
「へえー・・・随分立派な答えだな? だけど俺や芳樹にはこんな生活は
耐えられないんだよ! ケンはどうなんだ? お前も隆一と同じこと言うのかよ?」
「もう止めろって・・・芳樹は死んじまったんだ・・・もう俺達のバンドは
終わったんだよ・・・そうだろ? 隆一・・・」
俺はその言葉を聞いた時どう返事をしていいのか分らなかった・・・
このバンドを終わらせる?
もう演奏出来ない?
そんなの嫌だ!
じゃあどうするんだよ?
まさか・・・別のドラムを入れる?
俺、何考えてるんだ?
さっき芳樹の亡骸を見たばっかりなんだぜ?
どうかしてるんだ・・・きっとそうだ・・・
結局その場では何も答えなかった。
帰りの車の中、俺は何を考えることも無く2月の街の空をただぼんやりと眺めていた。




