第6話
11月のレコーディングを控えて猛練習が始っていた。
なんせテクニックの無さはコンテストで嫌というほど見せ付けられていたから・・・
それに9月の半ばには2万人規模のライブイベントがある。
これはジャックレコード所属バンドのお披露目のようなもので、メインはもちろん
プラネットCだ。それ以外にも有名バンドが7組。その中には俺達より1年早く
デビューした関西のバンド、ディーボリーも居た。1度インディーズ時代に観たけど
とんでもなく上手いバンドだった。当日はオープニングアクトを勤めるらしい。
俺達のバンドは3番目だ。凄いバンドを2つ聴いた後だから客だって期待してるに
違いない。ヘマは出来ない・・・
だけど先日のコンテストの時のような緊張感はまったく無かった。
ステージに立って照明が当たった時のあの快感、スピーカーから音が出た瞬間浮かび
上がるような感覚・・・早く味わいたいと思っていた。
「そのパートだけど・・・芳樹のシンバルをもう1発入れたほうがいいんじゃね?」
「最近正也も音楽のこと分ってきたじゃん。じゃあそこだけもう1回やってみっか」
バンド内の空気も以前にもましていい感じだ。
学校が終わってからこのスタジオで毎日4時間の練習。身体はクタクタだったけど
充実感が漲っていた。
このメンバーとならどこまでも行けそうな気がしていた・・・
9月23日。連休初日のこの日のライブには立ち見も含めて22000人が詰め掛けて
いた。
明らかにプラネットCの追っかけだと分る女の子達も大勢居たが、オープニングから
爆音を響かせたディーボリーに圧倒されることも無くノリは最高だった。
2番目のJTXが終わった頃には会場の雰囲気は既に最高潮に達している。
俺達の番だ・・・
全員の掛け声と主にステージに出た。
芳樹のバスドラがリズムを刻む。
ケンのベースがそれに乗る。
ストラトのボリュームを上げる・・・
正也の叫びにも似たハイトーンが響き渡る。
そこから先は夢の中に居るようだった・・・
ライブが終わって1週間が経った頃、俺達の周りの状態は今までとはまったく
違っていた。
毎日テレビやラジオのインタビューの収録、それに音楽雑誌の写真撮り・・・
学校どころの話ではなかった。
それどころか学校へ行ったら他校の女生徒やら何やらが何人も来ている。
高校側だって対応に手を焼いている様子だ。
「正也・・・お前ちょっと外に出れないか?」
「いや・・・家の前に女子高生がたくさん居てとても出れねーよ・・・
そっちは? 隆一んとこはどうよ?」
「ああ・・・一緒だ。どうなってんだ?アイドルじゃあるまいし」
「さっきケンにも電話したんだけど、あいつ田舎に行ってるらしい。山形だって
言ってたけど・・・練習とかやってんのかなぁ?」
「正也んとこから芳樹の家って近いよな? あいつどうしてる? 電話にも出ねーし」
「PCのメールは大丈夫みたい。ただ、あいつ家にドラムとか無いから・・・
練習できなくて焦ってると思う。やっぱジャックレコードが言うみたいに
どっかで合宿するか? 場所は用意してくれるって言ってたし」
「そうしよう・・・このままじゃノイローゼになっちまう・・・」
レコーディングまでにあと2本のライブがある。
その一つは単独だ。少なくとも10曲以上演奏しなければならない。
このままの状態ならそれは不可能に近かった。
俺たちは親を説得してジャックレコードが持ってる軽井沢のスタジオつき
ペンションで合宿することに決めた。




