第3話
「やべーよ・・・身体の震えが止まんねーよ・・・どうすんだよ・・・」
「落ち着け芳樹!俺達の出番まであと1時間近くあるんだ。今からビビッてて
どうすんだよ」
そう言ってる正也の顔もまるで血の気が引いたみたいに硬直してる。
今日はジャックレコード主催のアマチュアバンドコンテスト決勝の日だ。
俺たちは今月初めの予選から既に3度のステージに立ち、今日の12組に選ばれていた。
他のバンドの中にはプロと間違えるほどのテクを持ったミュージシャンも居て
このコンテストのレベルの高さを嫌というほど見せ付けられた。
高校生の俺たちがここまで来れたのが奇跡じゃないか?ってぐらいどのバンドも
凄かった。
「なあ・・・俺達ここまで来たけど・・・どう見たってテクじゃ勝てねー・・・
だけどさ、なんかこう・・・身体の中で疼くんだよな。今日の客達に俺達の音を
聴かせてーって・・・」
ギターのネックを握り締めながら俺はみんなに言った。
手のひらは緊張からか汗でベットリと濡れている。
「そうだよなぁ・・・間違えないようにとか、そんな事どうだっていいよな?
ステージに立った瞬間に感じたことをそのまんま吐き出せばいいんだよな・・・」
正也が少し落ち着きを取り戻したように小さな声で呟いている。
そうさ・・・これが学生生活最後の祭りだ。
来年は就職や進学のことできっとバンドどころの話ではないだろう。
中学からずっとやってきたバンド・・・俺にとって掛替えの無い仲間達。
そいつらとここまで一緒にやってきたんだ。
思い残すことなんて何も無い・・・
「俺な・・・お前等と出会えて良かったって・・・ずっと思ってた・・・」
「隆一・・・恥ずかしい事言うなよ・・・」
ケンが笑いながらこっちを見た。その目は少し充血していた。
俺たちがステージに上がる頃、会場の外は夕闇が辺りを包み込んでいた。




