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第19話

「隆ちゃん、あのギター無くても結構いけるじゃん」

キーボードの黒岩さんが足元をふらつかせながら隆一に話しかけてきた。

ツアーも中盤にさしかかった6月の初頭にスタッフ全員でささやかなパーティを開いた。

前回から参加してくれてるドラムの岩瀬さんの誕生日という名目だが、まあ慰安を兼ね

どんちゃん騒ぎをしようということらしい。

さすがに未成年のメンバーには酒を勧めるものは居なかったが、みんな少しは酒を

口にしていた。


「ありがとうございます。でもこのツアーは黒岩さんのキーボードにかなり

助けてもらってますから・・・後半戦もよろしくお願いします」


「いやいや、こっちこそ・・・それにしてもケンちゃん随分元気になってきたね

一時はどうなるかと思ってたけど・・・あの調子ならファイナルまで問題なさそうだ」


確かにケンはあの日以来、人が変わったように明るくなっている。

ケンだけではない。正也も以前のようにギャグを言ったり軽いいたずらで人を

笑わせたりするようになっていた。

やはりすべてはあのギターの影響だったのだろうか・・・

ふと炎に包まれ断末魔のような音をたてていたストラトのことを思い出した。

もしあのストラトに出会ってなければ今のバンド活動は無かっただろう。

マーシャルから出る図太いサウンド。

その音に誘われるように次々とアドリブが出てくる・・・

もう2度と経験することが出来ないのかもしれない。


「隆一この後どうする?」


正也とケンが宴を持て余すようにこちらにやって来た。

さすがに酒も飲まずに何時間も騒ぐなんて所詮無理なことだ。


「どうするって?どっか行くの?」


「リリイちゃんの居る店に行こうって話してたんだけどさ、お前も行くだろ?」


「こいつがもう一回会いたいんだってさ」

そう言って正也がケンの肩を叩いた。


「いや・・・世話になったし・・・ちゃんとお礼を言ってないから・・・」


「正直に言えよ。年上だけど結構可愛いからな、リリイちゃん」

正也がからかうようにケンを見た。


「じゃあ3人で行くか。俺も礼を言いたいし・・・」


「よし決まった!ジャーマネに先に帰るって言ってくる」


店のドアを開けると今夜は客数も少なく、リリイがウエイターと暇そうに話していた。

そういえば入る時この店の名前がバッカスだということに始めて気がついた。

ローマ神話の酒の神様が店の名で流れている音楽がレゲエとか・・・

人をおちょくったようなコンセプトだ。


「あら?まーくん・・・それに隆ちゃん。えっと・・・あなたは・・・」


「ケンです。先日はありがとうございました」


「コイツがリリイちゃんに会いたいってうるさくてさー、パーティー抜け出して

きたんだ。なあ隆一」


「ホント・・・この間はお世話になりました」


「いいのよ・・・それよりちょっと気になることがあるんだけど・・・」


そういうと先日のように隆一の頬に両手をあてがった。


「やっぱり・・・」


「どういうことですか? やっぱりって・・・」


「あれだけの霊が取り憑いてたのにあなた自身には何も起きなかったから・・・

ちょっと不思議だったの。これで分ったわ。あなたには凄い霊が最初から憑いてるの

何千年も前の人だわ・・・神様って呼ばれてた人」


「神様?・・・どういうこと?」


「あのね、大昔は音楽なんかをするのは神様と呼ばれた特別な能力の持ち主しか

許されてなかったの。その中でも何人もの心を引きつけたような演奏者を

人々は神様といって崇めていた。雨乞いの儀式や 婚姻の席 人の死・・・

どの場所でも神様と呼ばれた人が音楽を奏でていた。そんな人があなたの後ろに

立ってるの」


「凄いじゃん!隆一。そんな人に守ってもらってるかよ」

正也がちょっとふざけたように言った。


「そうよ、まーくん。ちゃんと崇めなさい」

そう言ってリリイは笑っていた。


リリイの話は嘘ではないんだろう。でもまったく実感は無かったし、だから

どうなんだよって、その時は気にもしていなかった。


そう・・・あの事件が起こるまでは・・・





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