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第16話

タクシーの窓から街並みをぼんやりと眺め、色んな事を考えていた。

このバンドを結成して初めてのライブのことや、バンドコンテストのこと。

このギターで初めて音を出した時のこと・・・


マーシャルから聴こえるあの音をもう二度と聴けない。

そう思った途端なんとも言えない感覚に襲われた。


「運転手さん! そこの交差点で止まって!」


練馬区にある練習スタジオの前で車を停め慌てて降りた。

1曲だけ・・・もう1曲だけ弾いてからでも・・・

最後にコイツの音を思いっきり耳に焼き付けてから別れよう。

スタジオブースに飛び込むと焦るようにマーシャルにシールドを挿し込んだ。


「この音だ・・・すべてはここから始まった・・・」


演奏を終えハウリングの感触を楽しみながらも、俺は惜しむようにメインスイッチを

オフにした。


「終わった・・・これで全て終わるんだ」


タクシーを拾いケンの家に向かう途中、自分を言い聞かせるように何度も同じ言葉を

呟いていた。


ケンのマンションに行きインターホンを鳴らすと聞き覚えのある女性の声が聞こえた。

中学校の時よく遊びに行ったとき聞いたケンのお袋さんの声だ。


「まあ・・・隆ちゃんじゃない!入って・・・」


「どうもお久しぶりです。ちょっとケンに話があって・・・」


「そうなの。さっきちょっとコーラを買ってくるって出かけたから・・・

もうすぐ戻るんじゃないかしら」


「そうなんですか・・・じゃあちょっと待ってます」


ケンのお袋さんは最近伏せがちな息子を心配して、4日ほど前からここに来ている

らしかった。

俺達の子供の頃の話や最近の芸能ニュースのことなど、たわいも無い話をして

時間をつぶしていたが30分経ってもケンは戻ってこなかった。


「どうしたのかしらあの子・・・隆ちゃんが来てるのに・・・」


俺は変な胸騒ぎを感じすぐにリリイに電話をかけた。


「気づかれてる・・・」


リリイはそう言うとすぐにこっちに来るといって電話を切った。


気づかれた? なぜ?


俺は焦った。あのスタジオに居た20分が無ければケンはまだ家に居たはずだ。

取り返しのつかないことをしてしまったのではないのだろうか?

祈るような気持ちでケンの帰りを待っていた。


40分ほどしたころリリイが到着し、俺は彼女と一緒にケンの行きそうな

場所に向かった。


ケンのお袋さんの話では、小銭を持って行っただけで財布も机の上に置きっぱなし

だったそうである。歩いていける範囲でケンが行きそうな場所・・・

東京の空気が余り好きじゃないといってたケンだが、以前隆一が遊びに行った時

ここだけは好きだといっていた場所ある・・・

二人は荒川沿いにある小さな公園を目指した。


「無事で居てくれ・・・」


俺は心の中で何度も叫んでいた。




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