第14話
俺はリリイという女に先日名古屋で聞いた川上先輩の話を全て話した。
本当にあと数日で正也かケンが死んでしまうのか?
正直、信じられないというよりは信じたくない気持ちでいっぱいだった。
「とりあえずギターを見せてくれないかなぁ・・・」
言われるままケースからギターを取り出し彼女に渡した。
「へー・・・結構傷だらけなんだね。どの位前のものなの?」
「多分1960年頃のモデルだと思う。ただパーツは色々変えてあるみたいだけど」
リリイはソファーに座るとギターを抱きしめるような格好をして目を閉じた。
そして数分の沈黙のあとゆっくりと目を開け話し出した。
「隆一君、今から言うことは多分あなたにとってかなり苦しい選択を迫ることに
なると思うから・・・少し覚悟しておいてね。 このギターを一番最初に持ってた
人はね、アメリカ人で・・・南部の農家で働いていた貧しい黒人の男の子。
彼は夢を実現させる為に15歳の時シカゴに出てきたの。
彼の夢はミュージシャンになってお母さんに楽をさせること・・・
子供の頃から安物のギターを弾いていて、地元の村のダンスパーティーなんかでは
10歳の頃から演奏させてもらってたの。
でもシカゴに来ても、ろくな楽器も持ってない彼にはどこにも演奏する場所がなかった。
彼は楽器店からギターを盗むことを思いついたの。ウインドに飾られているギター。
真っ白なギターは彼にとってとても手が出せない代物だったわ・・・」
「白いギター?・・・」
「そう。これは色を塗り替えてあるの。元の色は白・・・そのままだと盗んだことが
すぐにバレてしまうものね。このギターを手に入れた男の子は色んなクラブで
演奏させてもらうことが出来たわ。ギャラのほとんどは田舎に居るお母さんに
送金してたみたい。でも彼が19歳の頃ジャズクラブで知り合ったマフィアに
マリファナを奨められから、彼の人生は変わってしまったの。
彼はドラッグにおぼれて行って・・・手が震えて演奏もままならなかった。
そしてまた無一文になったわ。でもドラッグは止められない。
彼は護身用に買ってあったコルトをこめかみに当てた・・・」
「自殺したのか?」
「そう・・・彼が21歳のバースデイの前日・・・」
「彼の死を発見したのはバンド仲間の白人の男性。とても優しそうな人だわ。
ドラッグに溺れていく少年を何度も立ち直らそうとしていた。葬式が終わって
彼の形見のギターを大切にしていつも彼の事を思い出していたみたい。
でも、それが良くなかったんだけど・・・」
「友達を思い出すことがよくない事だって?」
彼女は少し悲しそうな顔をして続きを話し始めた・・・




