第10話
ケンの容態は安定していた。
大量の睡眠薬を飲んでいたが発見が早かったのが幸いしてそれほど大事には
至らなかったのだ。
自殺の理由を聞いたが本人も何でそんな事をしたのか分らないといっていた。
多分疲れていたんだろう・・・
ケンの入院している病院から出て信濃町の交差点でタクシーに乗ろうとしたとき
久しぶりに名古屋の川上先輩から電話があった。
至急会いたい・・・そう言われて俺は何か引っ掛るものを感じながら15時10分発の
のぞみに乗っていた。
名古屋の先輩のスタジオに着いたのは少し周りが暗くなり始めた頃だった。
「隆ちゃん・・・聞いたよ。ケンが自殺未遂だったって・・・」
「俺もテレビのニュースで観て知ったんです。幸い命に別状はないと・・・」
「そうか・・・良かった・・・隆ちゃんに言っておかなきゃいけないことがあるんだ。
あのギターな・・・元々の持ち主は・・・デッドエックスのギタリストHIDEの
物なんだ・・・」
「えっ?・・・・・・」
俺は言葉を失った。デッドのHIDEといえば全盛期に自殺してしまったギタリストだ。
しかも同じバンドで3人も自殺している・・・
「それだけじゃない。俺の友達が所有する前に持ってたやつも自殺したんだ・・・
ここまでいえば分るだろ?あのギター・・・きっと何かある。もう手放した方がいい」
「ちょっと待ってください・・・確かにあのギターに係わった人達が自殺してるのは
分りました・・・けど・・・それは偶然で・・・現に俺は自殺とか考えてないし・・・」
「じゃあもう一つ教えてやろう・・・俺が使ってたとき・・・俺のバンドのメンバーが
死んだんだ・・・事故だった。車でな・・・メチャクチャになってた・・・
200キロ近く出してたそうだ・・・事故で処理されてるけど・・・」
俺はその話を聞きながら身体から力が抜けていくのが分った。
あの伝説のバンドデッドエックスのHIDEの死からケンの自殺未遂まで
明らかに繋がっているのが見えたからだ。
帰りの新幹線の中で俺はあのストラトとのことを考えていた。
手放せるのか?
あのギター無しでやっていけるんだろうか?
いや・・・手放したとして・・・それで済むのか?
まだ終わってないんじゃないのか?・・・現にHIDEが死んだあとギターは誰かの
手に渡っていたんだ。なのにメンバーが次々自殺した・・・
本当に因果関係があるのか?
答えは出なかった。
結局俺はギターを手放せないまま2月を迎えていた。
芳樹が死んで1年が経とうとしていた・・・




