第1話
短期連載予定です。
「すげー。これかよ? 60万もするギターってのは・・・」
ベースのケンが目の色を変えながら近づいてきた。
俺達のバンドは中学時代からの同級生の集まりで、俺とケンとは小学校以来の親友だ。
お互いの事は知り尽くしてると言っていいほど仲が良かったし、このバンドのお陰で
多分親より長い時間顔を突き合わせていたかもしれない。
メンバーの芳樹と正也は別の高校へ行ったが、勉強嫌いの俺とコイツは市内の工業高校に
通っていた。
「おいおい、まだ俺も音を出してないんだから・・・勝手に触るなって」
「いいじゃんかよー。 ・・・にしても・・・シブイ色だなぁ」
そう言いながら漆黒に塗られたボディをケンは舐めるように見ていた。
「川上先輩が貸してくれるって言うからさぁ、俺はてっきりもう1本のテレキャスかと
思ってたんよ。そしたら・・・このストラトだって。 まじビビッたわ」
「そんなこといいからさぁ・・・音出そうぜ。あいつら来る前になんか1曲ヤリテー」
俺はスタジオのマーシャルにシールドを突っ込んだ。
スイッチを入れアンプが温まってくると、ソイツの鼓動のような図太いサウンドが
スタジオ全体を包み込んでいた。
「ヤッベッ・・・めっちゃ良い音するじゃん! これ、いつものフェンダーと同じ
楽器なんだよな?」
少し興奮気味にケンが言った。
「・・・別物だ。 シングルコイルの響きじゃねー・・・どうなってるんだ?このギター
それでいてハムバッキングみたいな感じでもない。 クソッ!・・・これが俺のギター
だったらなぁ」
「川上先輩はいつまで貸してくれるって言ってたん?」
「とりあえずコンテストが終わるまでは使って良いって言ってたけど・・・」
「それだけでも感謝しなきゃ。ちょっと1曲やろうぜ!」
そう言いながらケンがB♭からのブルースを奏で始めていた。
そうだよ・・・この日から俺達の運命は変わっちまってたんだ。
このギターが・・・まさか・・・あの伝説のバンドのギタリストの物だったなんて
この時はまったく知らなかったんだよなぁ。