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0.漆黒の唄
漆黒。彼を見た印象はまさにその一言だった。
罪人という重たい十字架を背負うにはあまりにも美し過ぎる。人間等糧でしかないはずなのに、私は真っ先にそう思った。
彼が立ち向かうのは大いなる神々の定めた則。
己の身を滅ぼす事になろうとも、それが少しでも希望の光を醸し出すという限り、彼はこの蛮行を止めたりしないだろう。
私は彼を止めたかった。だが止められる者は私ではない。
その者の名はアマリリス。
人狼である私が、一人の女である私が、心の底から憎み続けるべきはずの赤い魔女、ただ一人だった。