19/21
第五話 新月の海に溶ける 一
海の写真ばかり撮っていると
言われ続けている
だが正しくは、海ではない。
私が撮っているのは
その先にある一本の線
水平線
朝の白い光
夕暮れの赤
嵐の前の鈍い鉛色
波頭
雲
船
鳥
人
それらは必要ない
海と空を分ける
触れることのできない境界
確かなはずの一本
部屋の壁に
すきまなく貼られた写真
どれも
海
空
そして
水平線
だが、一枚として
私を満たすものは
なかった
光が強すぎて線が溶けているもの
靄で境界が曖昧になっているもの
波が空を侵しているもの
空の色が海に落ちひとつにみえるもの
それでも
私はどれもを剥がせなかった。
捨ててしまえば
二度と
近づけない気がしたからだ
こちら側と
向こう側
行ける場所と
行けない場所。
帰ってくるものと
帰ってこないもの
いつからだろう
線引きが
必要になったのは
記憶の先には
父親の海洋散骨
があった
子どもの頃の記憶だから
定かではない
だが、沖に出たときの
鮮やかな
線引きが
源であることは確かだ
なぜ
それを追い求めているのか
父と母の確執
死の元凶となった
女と母との確執
極限まで
切り刻まれた
私の心が
一瞬だけとらえた
境界線
それを
自分の内と外に
引きたい
ただそれだけのために




