16/21
第四話 屋上のアポロ 一
この世界は
少し重すぎる
そう思うようになったのは
いつからだっただろう
目を覚ます
まぶたを持ち上げる
身体を起こす
歯を磨く
シャツの袖に腕を通す
駅まで歩く
改札を抜ける
会社でいつもの顔をする
どれも重力がかかる
誰もが
当たり前にやっていることが
僕にはどれも小さな着陸みたいだった
本当はどこにも降りたくないのに
毎日
何度も地面に縫いつけられる
そう
二人で
校舎の屋上から
町並みを見てからだ
学校は小高い山の中腹にあった
登校するのは地獄だったが
見晴らしだけは
天国だった
それよりも
僕が心を奪われたのは
夜に忍び込んだ
校舎の屋上から見た世界だった
「ここ、宇宙船みたいじゃない?」
彼女の言葉に
さらに心が揺れた
「ここからだったら
ちゃんと遠くに行けそう」
その時
彼女は
どんな意味で言ったのだろう
その言葉は
大人になって
僕を傷つけた
彼女の身をもって
その日から
孤独に
意味が生まれた
孤独は
唯一の無重力だった。
何にも着地せず
遠くから世界を見ている
そのあいだだけ
壊れずに済む気がした。
けれど
やがて
大気圏に突入する気がした




