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第三話 雨の代役 -やさしい雨- 四
振り返ると
入口の戸は半分だけ開いていた。
外の雨が
細い線になって見えている。
私は店を出た。
雨は
さっきより強くなって
世界の形を消していく。
振り返る
さっきまであったはずの灯りは
もう見えなかった。
私はしばらく立ち尽くして
それからまた歩き出した。
雨が頬を打つ。
だが、
目は
相変わらず乾いたままだった。
あの一行も
あの沈黙も
あの終わり方も
そのままだ
――そして
しずかに ほどけるものよ
思わず
店のあった方をふりかえった
私は息を吸った。
濡れた空気が
肺の奥まで入ってくる。
少しだけ楽だった。
自分の代わりに泣いてくれている
そう思った。
自分が泣けないあいだ
どこかで
何かが代わりに落ちている。
私は歩き続けた。
濡れたまま
何も変わらない街の中
信号が変わり
車が通り過ぎ
コンビニの灯りがにじむ。
すべてはいつも通りだった。
呼吸だけが
ほんの少し深くなっていた。
それだけを確かめながら
私は雨の中を帰っていった。




