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第三話 雨の代役 -やさしい雨- 二
そのまま
見知らぬ路地へ足を踏み入れる
暗い路地の奥に
滲んだオレンジ色の灯りが見えた
看板はない
蔦の絡まる古びたガラス戸の向こうに
天井まで届きそうな本棚の影と
得体の知れないガラクタのシルエットが
重なり合っている。
びしょ濡れで入るのはためらわれた
そもそも営業しているのかも怪しい。
それでも私は
なぜか足を止められなかった。
戸に手をかける。
指先が少し震えているのに気づく
押すと
戸は思いのほか素直に開いた
中に入った瞬間
外の雨音がふっと遠のいた。
完全に消えたわけではない
けれど
遠い場所で降っているように
輪郭を失っている。
微かなカビの匂いと
古い紙の匂いがした。
書店のようでもあり
アンティークショップのようでもある
国籍のわからないランプ
歯車の外れた時計
乾いた花束
ひびの入ったガラス瓶
どれも役目を終えたはずなのに
まだどこかで息をしているようだった。
規則正しく落ちる水滴の音。
何かの羽がすれ違うような「バサリ」という微かな音
大きな獣が静かに息を吐くような「しゅう」という律動
生き物の気配がするのに、姿は見えない。
店主の姿もなかった。




