12/21
第三話 雨の代役 -やさしい雨- 一
泣くのを
忘れてしまったのは
いつからだ。
喉の奥が
焼け付くように痛い
胸の底に
冷たい泥水が
ひたひたに溜まっている
けれど
それが
目の奥まで上がってこない
あふれる手前で
見えない膜に遮られてしまう
明日も仕事がある
電車に乗らなければならない
誰かに心配をかけてはならない。
そんな「大人としての分別」
という名の乾いたタオルが
すべて根こそぎぬぐい去ってしまう
ポケットの中
スマートフォンは
凍り付いていた
三日前のまま
――ごめん、もう無理だと思う。
既読はついている。
けれど
何も返ってこない
画面を消しても
一行だけは消えずに残る
喉の奥に引っかかて
下にも上にも動かない
深夜零時を回った頃
予報にはなかった雨が降り出した。
大粒の冷たい雨
深夜の数少ない人々は
舌打ちをして
小走りで散っていく
その中を
ゆっくりと歩く
冷たい雨粒が頬を打ち
コートの肩を濡らしていく
濡れることに
理由はいらない夜だった。




