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断罪されて地獄に堕ちた悪役令嬢ですが、モフモフが可愛いくて天国です  作者: 星井ゆの花


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06


 初めての早朝お散歩は、新顔ということで試供品モニターを頼まれたり、近隣のお茶屋さんにクーポンを貰ったりと意外と賑やかだった。狆も芝犬と親しくなったようで、尻尾の揺れ加減から察してもご機嫌である。


 世間話もほどほどに、地獄江戸城へと帰城。行きよりも日差しが高くなっていて、城内の朝特有の忙しさが裏口にいても伝わってくる。


「ただいま戻りました。朝のお散歩が終わったので、狆様のおみ足を水で清めて差し上げたいのですが」

「ああ、お疲れ様! 裏口にお犬様の御御足を洗いが出来るスポットがあるから、そこで洗って差し上げてね」


 流石はお犬様を崇める地獄江戸城と言うべきか、天然の湧き水を使用したお犬様専用おみ足洗い場には名犬ハチ様の石像が祀られていた。小さなお社風になっていて、お札と果物のお供えがあり何だかご利益が高そうである。


「おみ足洗い場……ああ、あのいかにも神聖な雰囲気の湧き水ね。さあ、狆様。お外をお散歩してあんよが汚れたから、綺麗綺麗にしましょう」

「きゃううんっ」


 清らかな水の力で狆の汚れた小さなおみ足を綺麗にしてやり、抱き抱えた状態で移動させて食事担当者に狆を預ける。ひんやりとした水の感覚がマリアンヌの手に残っていて、不思議と自身も浄化された気がした。


(畜生道は地獄のはずなのに、浄化やお社が欠かせないのが不思議だわ。けどよく考えてみれば人間が罪を悔い改める場所なんだから、浄化は必須なのよね)


「流れ作業で悪いけど、今朝のお犬様お散歩日誌を忘れないうちに書いてちょうだいね。それが終われば、アンタも朝食にありつけるよ」

「あっはい。日誌が義務付けられているのね。では早速……」


 狆様がお犬様用豪華朝食セットを味わっている間、マリアンヌは台所裏のお世話係日誌コーナーで今朝のお散歩記録を細かくつける。

 どうやら、この一連の流れがお犬様お世話係の朝のローテーションのようで、後から帰城した鬼娘も並んで日誌コーナーに座る。


「あれぇ新入りさん、お疲れ〜。隣使うね」

「はっはい。お疲れ様です。どうぞ……」


 ベテラン風の鬼娘とは行き帰りどちらも遭遇しなかったので、おそらくお犬様の犬種によってお散歩コースが異なるのだろう。


「けど、貴女が担当しているお犬様って土佐犬に比べて、大人しいから羨ましいわ。ほら、土佐って闘犬で扱うの大変でしょう」

「私、東洋の犬事情には詳しくないので、土佐というお犬様がどれくらいの闘犬なのかは知らないのだけれど。でも、見るからに強そうなのは分かるわ」

「そっかぁ。そういえば、金髪の人間って他所の大陸の人なんだっけ。じゃあ、狆様がお犬様の代表格だってことも知らなかった?」


 彼女が連れていたお犬様は、土佐犬という種類で狆様に比べると大きく、体力に溢れていそうだった。サラサラと慣れた手つきで日誌を書き終えると、マリアンヌの顔を覗き込んで犬知識がどれくらいあるのか探ってくる。


「えっ……代表? そういえば、公式ガイドブックにも、狆様の写真が全面的に使われていたっけ」

「狆様はね、かつてツナ様が地上でお城を治めていた時に流行っていた小型犬で、お犬様といえば狆ってくらいなのよ。お犬様などを崇める【生類憐みの令】のイメージイラストにも採用されていたらしいし」

「生類憐みの令、それがこのお犬様第一主義の正式な名称。すごく、勉強になりましたわ。私、余所者だから知らないことばかりで恥ずかしい……」


 もしかすると、この地獄江戸城のベースとなる日本と呼ばれる国では【生類憐みの令】は有名なのかも知れない。しかし、よくよく考えてみるとマリアンヌのいた世界では東洋に島国はあっても日本ではなく別の名称だった気がする。それに、マリアンヌのいた世界とも少しずつ時代の情報が異なっていた。


「うーん……それとも、マリアンヌさんはうちらの世界から見ると異世界ってとこから来たのかなぁ。ほら、聞いたことない。異世界転生って話」

「異世界転生? ああ、自分が住んでいる星とは別の星に転生することですわよね。たまに、地球からの転生者を名乗る者が、聖女になったり勇者になったりしているみたいです」


 聖女というと王太子を奪ったプルメリアも、噂では異世界転生者だったらしい。だが、忌々しい記憶なのでマリアンヌは極力忘れるようにしている。


「そう、それ。この畜生道は地獄の中でもレアだから異世界の人も受け入れているの。でも、本物の異世界人とお話しするのって初めてかも。ああ、私は赤鬼の紅葉よ、よろしくね」

「紅葉さん、いえ紅葉先輩。いろいろ分からないことだらけでご迷惑おかけしますが、こちらこそよろしくお願いします」


 城内でツナ様以外に初めて親しい人物が出来て、マリアンヌのお世話係ライフが一歩前進した。そして、マリアンヌが異世界からやってきたという噂はあっという間に広まっていく。


『何だ、マリアンヌさんはパンが無ければお菓子を食べればいいじゃない……で、有名な姫君ではなかったんだ』

『他人の空似、ならぬ異世界人の空似だろう。あのお姫様の魂もきっと何処かで救われているさ』


 一体どのような著名人とマリアンヌが似ているのかは定かではない。が、きっと愛犬家なのだろうと思い、マリアンヌは自分に似ているという姫君の魂が救われるようにと、お犬様のお社に祈ることにした。

 その日は流れ作業で仕事内容を覚えていき、あっという間に夜になってしまった。


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