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「ふう……地獄江戸城下町に戻ってきたわね」
「きゃうん」
一泊二日のトリミング旅行も無事に終わり、マリアンヌと狆はホームである地獄江戸城前に無事帰城。バスターミナルでは、他の地獄道から観光に来ている魂の姿も見受けられる。
「ちょっぴり波乱もあったけど、楽しいトリミング旅行になったわ。それに、シャアさんにもすっかりお世話になっちゃった。ちゃんと、モニターとして恩返ししないと。社畜印の栄養ドリンクの感想は、明日に改めてお渡しします」
「弊社自慢の栄養ドリンクですので、きっとマリアンヌさんも元気になりますよ。僕としても、素敵なイメージキャラクターに出会えましたし、良い出張でした」
牧場で出会った素敵なイメージキャラクター、イケメン度ナンバーワンの山羊沼さんだ。何故、アルパカ牧場に勤めているはずの彼が一緒に地獄江戸城下町領地にいるのかというと、栄養ドリンクの宣伝係に選ばれたからだ。
「くくく……シャアよ、貴様は余と契約するまでもなく魂を企業に売っているのだな。流石は社畜と言ったところか」
「好きで社畜になったわけじゃないんですけど、薬剤師になるための大学は学費が高いんですよ。なのに薬剤師にならず営業職になっちゃったんで、返済するには社畜になるしかなかったんです」
「なるほどな、資格取得のための借金返済はかなりまともな動機だ。何処ぞのアルパカの如く、くだらないメス羊に騙されて余と契約したアホと比べたのは失礼だったな」
牧場では上半身裸でラフなファッションだった山羊沼さんだが、都会で上半身裸は不味いと思ったのか、黒いTシャツに革のジャケットを羽織っている。百合の紋章モチーフのシルバーアクセサリーを胸元に輝かせた彼は、ただのヴィジュアル系ミュージシャンに見えなくもない。
「ぱかか……山羊沼さんはアルパカ使いが荒いなぁ。僕もお手伝いするんですから、お仕事先ではちょっとは控えめにしてくださいね」
「ふっ……アルルンよ。貴様、俺の従属になったのに随分と生意気な口をきくな。これだから、アルパカは……」
バスを降りて荷物運びをする白髪の美少年は、メス羊メリーヌに騙されてローンを支払い中のアルルンの擬人化バージョンだ。先ほど、シャアの薬剤師大学の学費返済という真っ当な支払いだが、アルルンは違うとハッキリ山羊沼にジャッジされてしまった。
もしかするとアルルンの反抗的な態度は、図星を突かれてちょっとだけ山羊沼のことがムカついているのかも知れない。
「アルルン君も擬人化すると、見違えるほどイケメンになっちゃって。でもアルパカって可愛い顔立ちだから、擬人化すればイケメンなのは確定してたのかしら」
「カッコイイ系の山羊沼さんと可愛い系のアルルン君の二人でファンサしていただければ、弊社の栄養ドリンクももっと知名度が上がるでしょう。特典にグッズをつけたり、いろいろ検討したいと思っています」
美少年オーラが半端ないアルルン擬人化バージョンは、ふわふわとした髪と白い肌、おっとりとした口調で目の大きな可愛らしい外見だ。何も言わなければ、元がアルパカだと気づかれないだろう。山羊沼さんに比べるとちょっぴり小柄だが、地下アイドルか何かのようなイケメンぶりで、何故メス羊なんかに詐欺られていたのか謎である。
「随分と賑やかな帰城だな、マリアンヌ。どうだ、狆のトリミング旅行は。ふむ……山羊族にアルパカ族、それに時折我が城に営業しにやって来る社畜じゃないか。なかなかの畜生道ぶりじゃな。ようこそ、地獄江戸城城下町へ」
「ツナ様! ただいま戻りました」
「きゃわん」
すると、見慣れない顔ぶれに興味を抱いたのか、地獄江戸城の城主であるツナが自ら彼らを出迎えに来た。
「おぉ! お主が、かの有名な【畜生を崇める法】を作りし人間か。人々は皆、余を山羊沼と呼ぶが、真名は別にある。好きに呼ぶが良い」
「もうっ山羊沼さん、相手はお殿様なんだから失礼のないようにしてくださいよぉ。初めまして、僕アルパカ族のアルルンと言います。訳あって借金返済のために擬人化して出稼ぎをすることになったんです」
「そうか、そうか。山羊沼にアルルンか。この辺りは畜生道の本拠地ゆえ動物の方が地位が高い。擬人化しているとはいえ、お主らも過ごしやすいであろう」
城主のツナは動物大好きなだけあり、横柄な態度の山羊沼さんにも寛大だ。彼らの楽しそうな笑い声は、ターミナルの敷地に設置された売店コーナーまで届いていて、イケメンが四人もいると否応なしに目立ってしまう。
そんなホストクラブを彷彿させる状況のマリアンヌを、妬ましい目で見つめる女が一人。
乙女ゲームのヒロインであり聖女であるプルメリアが、よその地獄から観光にやって来ていたのだ。
* * *
「なっ何ですの、マリアンヌのやつ。王太子様に振られて、泣きながら地獄で酷い目に遭っていると思っていましたのに。あのイケメン集団は……それにあの不思議なふわふわした犬は何犬?」
「お嬢さん、お犬様にご興味がおありで。私の名は、ミズサキ。よろしければ簡単な解説を致しましょう」
「べっ別に、興味ってわけではありませんけど、ただ可愛いなって」
ジャパニーズスパニエルこと狆を初めて見たらしいマリアンヌは、狆の可愛いらしさに驚きを隠せないようです。そんな彼女に、先ほどまでナレーションに徹していた畜生道の案内人である私『ミズサキ』が、お犬様について詳しく解説して差し上げます。
「畜生道は動物やお犬様が偉いとツナ様によって定められています。特にお犬様の中でも、狆は別格なのです。ふわふわした毛並みの可愛いらしいフォルムは、他のお犬様と差別化され狆は犬ではなく狆であるとしました」
「くっ……そんな特別なモフモフをあの女がなぜっ!」
「お犬様は人間よりも遥かな高みにおり、狆はその頂点。そんなお犬様の中の頂点である狆を任されたマリアンヌ嬢は選ばれしお犬様お世話係なのです」
「特別なお犬様のお世話係、つまりは大出世ということ? どうりでわたくしが王太子様を奪ったのに、イケメンを侍らせてヘラヘラしてると思ったわ……」
癇癪を起こすプルメリアのことなんか目もくれず、ツナ様にエスコートされて地獄江戸城の城内へと戻るマリアンヌ嬢。
「おやおや、ツナ様も大層マリアンヌ嬢をお気に入りのようで。いや、もしかするとエリート社畜さんの方かも知れませんが。殿様の奥方も美味しいですし、エリートとの暮らしも安定感ありますし」
「ちょっと待って。ツナ様ってあの超美形のキングのこと? さらに、イケメンエリートとの線までキープしているっていうの。どちらを選んでも安泰じゃない! くっ悔しい〜」
隣の芝生は青いを地でいく典型的な性格が災いし、地獄堕ちした聖女プルメリア。そんな聖女の悔しがる声が畜生道に鳴り響く。
その金切り声すら、お犬様達の鳴き声にかき消されてただの雑音と化すのでした。
なんといっても、畜生道はお犬様がナンバー『ワン!』ですから。
お後がよろしいようで。




