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断罪されて地獄に堕ちた悪役令嬢ですが、モフモフが可愛いくて天国です  作者: 星井ゆの花


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「ところでお昼はどうしますか。大抵の人は、あのジンギスカンハウスに立ち寄るそうですが」


 あまりアルパカ小屋での流れを気にしないのか、それとも興味本位なのか。意外なことに朗読劇を鑑賞した人々の殆どは、売店で山羊沼さんブロマイドを購入したのち、ジンギスカンハウスへと入っていった。


 ログハウス造りの店内からは、羊肉が焼ける特有の匂いが漂っているようで、外にいてもそこはかとなくジンギスカン臭を感じ取ってしまう。

 そこでふと、脳裏に先ほどの朗読劇のセリフが駆け巡った。


『メリーヌを奪った恋敵を殺るなら、ジンギスカンハウスに送り込めば良いだけ。だが、そうそううまい具合に事は運ばないだろう。黒魔術にでも手を染めない限りはな!』

『パカカ……黒魔術?』


(アルルン、まさかあの後本当に黒魔術に蹄を染めてしまったの? アルパカ毛を刈り取って得たやっとのお金で贈った超人気ブランド、ビヨンドシーのアクセサリーセット。それをフリマアプリのメリカルで大々的に転売されるなんて、屈辱でしょうけど。だからって、メリーヌを奪った恋敵をジンギスカンハウス送りにしなくても……。はっ……私ったら何を、あの朗読劇は架空のお話しなのに)


 所詮作りごとの朗読シナリオのはずなのに、何となく黒魔術的な要素がひっかかっているマリアンヌは首を横に振った。


「遠慮しておくわ。温泉宿に併設されているレストランで何か食べようかしら」

「なるほど。僕も夕刻は温泉宿で試供品を配るので、次はそちらに移動しましょう」

「きゃおん」


 狆様も賛成のようで、明るく鳴いて返事をしてくれる。今夜泊まる温泉宿にチェックイン出来るのは、午後三時から。なのですぐには入室出来ないが、レストランは利用可能だ。


 流石は畜生道が管理しているだけあって【お犬様連れのお客様は外のテラス席でお食事が出来ます】との看板がある。テラス側の入り口から席に座ると、ウェイトレスの鬼娘がにこやかに今日の特典を教えてくれる。


「いらっしゃいませ、お客様ラッキーですね。今日は、ジンギスカンハウスさんのご厚意で、ラムステーキの無料フェアを開催しているんです。ご宿泊のお客様はタダになるスペシャル企画なんですよ」

「えっ……ジンギスカンハウスさんのご厚意って何。まさか、あの羊小屋の子をいきなり屠ったんじゃ……」


 お客様を喜ばせようと思ってラムステーキを勧めてくれるウェイトレスには悪いが、例の黒魔術が効いているんじゃないかと思い不安になってしまう。


「実は配送業者さんが間違えて、冷凍ラム肉を保存出来ないくらい届けてしまったそうなんです。冷凍庫がいっぱいだからと、こちらでも引き取ることになりまして。牧場の羊ちゃん達ではないので、そこは罪悪感なくお愉しみください」

「そ、そうなの……」


 しかし、冷凍保存の羊も屠られる前は牧場の子達と同じくモフモフ暮らしていたはずだ。


「マリアンヌさん……牧場の羊でなければ同族の羊を食して良いのかというお気持ちなのでしょう。ですが、牧場というのは命の循環を学ぶ場所であるそうですよ。ここはご厚意に甘えて、羊さんの尊い命を有難く頂きましょう」

「命の大切さ、そうね……いつも私達は食物連鎖の中で命を頂いているんだわ」

「命に感謝すれば、大丈夫ですよ、ではこの無料ラムステーキセットを二セット、お犬様用ラムカットスペシャルを一匹分。ドリンクは紅茶、デザートはふわふわアルパカ風ホワイトケーキで」


 戸惑ってなかなか注文出来ずにいるマリアンヌだが、シャア・チンクの自論に納得した様子。


「お待たせしました! 本日のスペシャルメニュー、ラムステーキセットでございます。お犬様用のラムは、食べやすいサイズにカットしてありますっ」

「うわぁ……冷凍肉とは思えないほど、ふっくら焼けているわね。こんな凄いお肉がタダで提供されるなんて驚きだわ」

「きゃおーんきゃんきゃん!」

「はははっ。普段の社畜生活のご褒美だと思って存分に味合わせてもらいますよ!」


 しばらくすると、焼きたてのラムステーキが運ばれてきて、一同【何か】に取り憑かれたようなテンションで夢中に頬張る。だから、アルルンが闇に蹄を染めて行ったであろう黒魔術のエピソードのことなんか、不思議なくらい忘れてしまった。



 * * *



 今日も平和に畜生道の一日が終わった。

 牧場の仕事の終わりに、羊小屋の係員がよく眠っているであろう羊の数を数える。


「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……あら? 一匹足りないわ。何かしら、この逆五芒星のマーク……居なくなった羊のスペースに落書きが。やあねぇ……明日の朝にでも掃除しないと」


 居なくなった羊の行方を誰も知らない。

 その夜、アルパカ小屋では山羊沼さんが久しぶりの黒魔術成功に歓喜の笑みを浮かべていた。


「何、余が残酷だって? アルルン、貴様はまだ分かっていないなぁ。人間どもは毎日毎日、いろんな家畜を当然のように屠っているんだ。今更、何も残酷だなんて思いやしないさ。ただ、自分達が残酷だなんて思われたくないから、見て見ないふりして嫌な部分は隠してしまうんだよ」


 見て見ないふりをしたのは、きっと皆同じ。羊肉のルートが何処で、何匹屠られたかなんて本当は誰も知らないし、知っていても居心地が悪くなることは隠してしまう。


 この朗読劇の犯人は、皆が共犯ということで幕を閉じれば良いのである。

 観客は、美味しい羊肉を当然のように皆で食べてしまったのだから。


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