4. 砂色の鳥、白銀の嘆き
真っ暗だ。
何も見えない。
だが声が聞こえる……一体誰だ?
「……雪のなか動かすだって!馬鹿な奴だ」
見慣れない服装の男が誰かと話している。その後ろには見たことがないほど大きな機械が置かれている。
長大な二枚の細長い板が斜めに取り付けられているようだ。
板はまるで剣のように細長い。
色は砂のように黄土色を基礎としている。
飛行機と違って主翼は無く、プロペラが機体上部にあるのは珍妙だ。
「一応オイルや設定は変えてますけど……」
「この無人ヘリは熱帯仕様だ。雪原でも動くだろうが性能は目も当てられん」
私のことには一切気が付いてないようだ。
だがどのみちバレる。迷ったことにして話を聞いてみるか……
「あの……すみません」
声をかけるが全く反応がない。集中しすぎているのか?
試しに背中をたたいてみよう。
「すみませんが……」
……身体が動かないことに気が付いた。まるで全身を拘束されているようだ。
それに彼らはもこもこした防寒具を着ており口からは白い吐息が出ている。
だのに俺は全く寒くない。まるで世界から自分だけが抜け落ちたようだった
これが臨死体験というやつか?
「気は乗らねえが雪中での注意事項をまとめないとな……」
「ネットワークが寸断されたせいで文書管理AIも使えませんからね」
「紙の束に助けられる日が来るとはな……」
二人の会話が耳から耳へと通り抜けていく。
知らない単語ばかりで理解が追い付かない。
まるで別の時代、別の世界に紛れ込んだようだ。
「まず長時間の連続運用は厳禁……」
「あり合わせの融雪装置をつけなきゃ」
「装甲版の外に着けるから被弾は厳禁だな」
二人は発光する板に向かって無言で操作を続けている。
光の板に触れる指先は呪文を編む魔術師のようだった
「あれ?目がおかしくなったのか?」
視界の端から色が抜けていく。音もどんどん聞こえなくなっている。
世界が静かに崩れていく。
「次は……何が来る?」
色彩が抜け落ち、輪郭がぼやけていく。何もできないので呆然とするしかない。
「ところでこの偵察ドローンどこに仕込みます?」
「適当にパイロンへ着けろ」
「分かりました」
急に視界が大きく動いた。
まるで俺の生首をひょいっと持ち上げたようだ。
男の作業服が視界いっぱいに広がり他は何も見えない。
ガッチャン!
何かを装着した振動が伝わる。
そして男の持つ部品の鏡面のような外装に反射した光景を見て理解した。
俺はさっき撃ち落とした機械――彼らの言葉を借りれば“ドローン”になっていた。
この光景はあの機械が最後に記録したものなのか?
そして巨大な機体こそがあの轟音の正体ということか?
「あれ?電源入ってる?」
「バッテリーの無駄だ。消せ消せ」
「了解」
男が何かを押すのと同時に俺の視界は奪われた。
――「きろ」
――「起きてください!!!」
――誰かの叫び声が遠くから聞こえる。
「このまま寝てたら死にますよ!」
「すでに死んでるんじゃないの?」
一気に視界が開ける。
先ほどの林の中だ。
「やっと起きましたか。大丈夫ですか?」
「……夢を見てた」
「ずいぶんと呑気ですね」
実際にあれは夢だったのか?
だがあの機械の情報が流れ込んできたとしたら……
「夢のおかげであの機械を倒す方法が思いついたかもしれない」
「なぜ『機械』と?……それに、何を見ていたんです?」
「夢の中じゃあれは無人ヘリとか呼ばれてた……熱帯仕様で寒いところではダメとか」
「……どんな夢を見たんです?」
「こいつに聞けばわかるかもな」
パールに壊れたドローンを投げ渡した。
「……特に何もなさそうですが」
「そいつに触れたら誰でも見える……とはいかないか」
パールは何を言っているんだと言いたげな表情をしている。
それも無理はない。私だって同じ顔をするだろう。
「夢によるとあいつは寒いところだと性能が落ちる……というかもう落ちているらしい。ああ見えて飛ぶのが精一杯ということだ」
「全く確証も裏付けもないのに断言されても困ります……」
「他にあれが壊れるような弱点か心当たりは?」
パールは首を横に振った。
俺だってこれが100%正しいとは思えない。でも正しいだろうと感じてしまうのだ。
「そして外装に融雪装置がポン付けしたらしい。見た目は……」
私が見たのはまだ何の改造もされてない段階のものだ。
おそらく飛んでいるのとはところどころ違うだろう。
「姿を隠しているのに見た目が分かっても意味がありませんよ」
「それもそうだな」
変なところにこだわってしまった。やるべきことはただ一つ。
「要は融雪装置を破壊する。それだけで勝手に寒さにやられて墜ちる」
「何の確証もない夢に賭けるなんて……でも試すしかなさそうですね」
「どのみちあれを黙らせないと帰れん」
俺たちは隠れながら音のする方へ向かった。




