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第3話 彼女に曲を作るなら……

 あれからどれくらい時間が経過しただろう。

 なんど否定しても、有沢雪乃の楽曲の事を考えてしまう。


 俺は母さんの仕事部屋に移動する。

 俺の今世の母親は作曲家で結構有名な人だったりする。それと、父親はピアニストだったが俺が小さいころに事故で亡くなっている。


 母さんの部屋に入り、白紙の楽譜を手に取る。

 そして、目を閉じて有沢雪乃の事を考える。

 彼女は沢山の人を笑顔にしたいと言っていた。なら明るい曲がいいかな? でも、彼女なら元気のでる曲も会いそうだ。でも、一番大切なのは彼女の歌声にマッチして、彼女の魅力を引き出せるそんなメロディだ。そう、苦手な笑顔だって彼女の魅力だ。

 それから、彼女の決意に満ちたセリフと魂の抜けた表情を思い出す。


「魅力的で面白い子だったな……」


 そう呟いてから、作曲を始めようと白紙の楽譜と向き合う。


『馬鹿だな、いつも言ってるだろ、お前程度の作曲家なんていくらでもいる……だから――』


 まただ、また前世の記憶の断片がノイズのように再生される。


「……るさい」


 ノイズによる頭痛を堪える。

 いつもいつも、人を罵倒して嫌な記憶だ。中途半端に再生され、そして俺はその言葉の後に続く言葉が思い出せない。それに対しても苛立ちを覚える。

 冷たく暗い感情が心を支配する。


「分かってるよ、俺は凡人作曲家。それでも……俺は彼女に合う曲を作ってみたい」


 そんな感情を振り払うように声に出す。

 この世界に転生してからも何曲か作曲している。

 子供の頃、父親が死んで悲しんでいた母親を元気づけるためだったり、毎年誕生日プレゼントとして母親に楽曲を渡している。そして、路上でライブをしていた少女にも楽曲をプレゼントしたっけ。

 あの子が病気や事故などにあって無ければいいのだけれど、そして出来ればもう一度会いたい。


 少しだけテンションが下がったが、作曲を再開する。

 アップテンポで元気の出る曲、落ち着いてリラックスできる曲、大切な誰かと聴きたい曲……いくつも候補がある、その中でも最も彼女にあうメロディを選ぶ。

 このメロディなら彼女の美しい声によく合う。彼女の事を考えると自然と歌詞も浮かんでくる。


「~♪」


 メロディを口づさみながら作業の没頭する。

 少しだけ前世の曲を参考にした部分もあるがいい曲が出来た。

 十分に曲として誇ることが出来る。


 時計をチラリとみると、母さんが家に帰ってくるまでまだ時間がある。

 PCに電源を入れて音源を作成していく。

 合成音声ソフトで歌声を打ち込んでいく。

 そして、ドラム、ギター、ベースなどをソフトを使い一つに纏め曲が完成する。

 

「今日はここまでか……」

 

 流石に数時間では完成しないのでPCからusbメモリにデータを移し、PC内のデータは削除する。

 

 さらに机の引き出しから数枚の白紙の楽譜を取って自分の部屋に戻る。一曲では終わらない、彼女に歌って欲しいメロディが溢れてくる。こんな事は久しぶりだ。それを忘れないうちに楽譜に書いておかなくては。

 全てを満足するまで書きおえた所で最後に残ったのは作詞と作曲者名。

 

「ここは後で書けばいいか……どうせ、誰かに見せる訳でもない」

 

 そう呟いて楽譜とusbメモリを机の引き出しに仕舞った。

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