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第2話 落ちこぼれのアイドル候補生②

『さぁ、結果が出ました! 7位で決勝オーディションに駒を進めたのは……エントリーナンバー5番、小沢あかりさんです!』


 その言葉を聞いた瞬間、俺の口から思わず溜息がでる。

 そして、画面の中の有沢雪乃は魂が抜けたように放心状態だ。

 選ばれた少女が大喜びをしながらコメントをしてから、敗退の決まってしまった有沢雪乃にも司会者がマイクを向ける。


『残念ながら敗退が決まってしまいました、有沢雪乃さん。今のお気持ちどうですか?』


『――っ?!』


 司会者の言葉に一瞬だけビクっと体を揺らしながらも、悔しそうで泣きそうな表情を浮かべる有沢雪乃。

 しかし、一瞬何かを決意した様子で顔を上げた。


『お、お願いします! わ、わた、私にチャンスをください!』


 そう言って彼女は必死に頭を下げた。


『えっと、そう言われましても……』


『そ、それでも、どうかお願いします! も、もう一度だけちゃ、チャンスをください』


 有沢雪乃の嘆願にスタジオは困惑した雰囲気に包まれてしまう。


『有沢さん、残念ですが……えっ? プロデューサー? はい……はい。えっと、プロデューサーからお話があるそうです』


 そして、ステージに中年の女性が出てくる。

 その女性はマイクと手に取り話し始める。


『えー、今回のオーディションは途轍もなくレベルの高いアイドル候補生が集まってくれました。そんな中、有沢さんだけが今脱落してしまうのは勿体無いと感じております。したがって、もう一度彼女にチャンスを与えてあげたいと私個人としましては思っております』


 女性の言葉にスタジオから歓声と拍手が上がる。

 有沢雪乃もぱぁあっと明るい表情を浮かべる。


『しかし、貴女が今回のオーディションで最下位だったのは事実、よって決勝オーディションに進むには有沢さん、貴女には覚悟を示していただきたい』


『か、覚悟……ですか?』


 雪乃の表情が強張る。


『ルールを曲げてまで、決勝に進ませるのです。それこそ今回のアイドルオーディションで優勝出来なければアイドルになる事を諦めるくらいの覚悟が欲しいです。もちろん、断っていただいても構いません。その場合はここで敗退となりますが、いかがいたしますか?』


『や……やります! やらせてください!』


 その発言に、スタジオからは大きな歓声があがる。画面に映る有沢雪乃は、自分でそう言い切ったにも関わらず魂が抜けたような表情をしている。早くも自分の発言に後悔していそうにも見えなくないが……。


 プロデューサーの女性はそんな雪乃を見ていないのか満足そうに頷いてマイクを司会者にかえす。


『そ、それでは今回のアイドルオーディションは、候補者全員が決勝オーディションへと駒を進めました。決勝オーディションは二カ月後に生放送でお送りします。決勝ではフリー楽曲で8人全員にその歌声を披露していただきます。ただし、楽曲は未発表の物で番組終了直後からプロ、アマ問わず番組公式ホームページ、または各アイドル候補生の所属プロダクションのホームページで楽曲を募集します! 貴女の推しのアイドル候補生に自分の楽曲を歌って欲しいテレビの前のあなた! チャンスですよ! もしかしたら、その楽曲がデビュー曲に選ばれる可能性も!』


 未発表の楽曲を募集か。

 なるほど、選ばれる可能性は低いが視聴者も巻き込んで番組を盛り上げようとしているのだろう。


『そしてなんと! 次回の審査員は番組をご覧の貴方かもしれない! 決勝オーディションではスタジオに遊びに来てくれた視聴者様の投票による50ポイントと番組審査員5名による50ポイントの合計100ポイントが最大で加算されます。今日の審査ではダンス、歌、演技、将来性の各10ポイントの合計40ポイントでしたのでまだまだ逆転のチャンスはありますよ』 


 司会者のコメントの後すぐに今回の参加アイドルの審査の点数と順位が再び表示される。

 そして、有沢雪乃の合計点数は8人中8位と言う順位が表示されたところで番組が終了した。


 二カ月後に開催されるフリーの楽曲が勝負所か……正直、今の有沢雪乃が逆転するのはかなり難しい。

 今の彼女の技術では相当な努力が必要になる。それでも、歌声とマッチする未発表の楽曲があれば可能性は……。


 番組が終了してからテレビの電源を落として、ぼーっとしながらもずっとオーディション番組のことばかりが頭をめぐる。


「負けたらアイドルの夢を諦めるか……。あれ程の歌声の持ち主が……。彼女に会う楽曲さえあれば可能性はある。きっと、彼女の潜在能力ポテンシャルならトップアイドルにだって――」


 なれる。その言葉を飲み込む。

 現実はそんなに甘くない、彼女に果たして楽曲を提供する人物が現れるかすら怪しい。


 ――でも、俺なら? 俺ならどんな曲を彼女に贈る?


 そう考えた所ではっとする。

 うぬぼれるな、俺の曲ではきっとトップにはとどかない。そもそも俺はまだ学生で作曲家でもなんでもないんだ、そんな俺に何ができると言うのか。

 けれど――。

 彼女に合う曲を俺ならどう作曲する? 彼女となら新しい音楽を始められるのでないか? という思いが止まらない。 


『凡人作曲家……お前の代わりなんていくらでも――』


 突如、前世で言われた言葉がノイズのように走り頭痛がして頭を手で押さえる。


 ――くそっ、気分が悪い……。


 しばらく、休んだ後に頭痛を振り払うように首を横に振る。

 あぁ、そうだ、その通りだ。俺なんかが彼女の楽曲を担当するなんて……烏滸がましいにもほどがある。そう、ありえない。

 あり得ない事なんだ……。そう思いながらも、緊張に震えながらも頑張る、どこか応援したくなる少女の事が頭から離れなかった。 

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