第五話 猫耳魔物使いは意外と大人
「うぐぐ……わかった。僕がやろう。他の誰がやるよりずっといい」
勇者ヒイロが腹をくくったそのとき、ルチアがクスッと微笑んだ。
「なーんて、冗談です」
「えっ?」
「アンディとは話がついているんです。隣町にある大人のお店のお姉さんにお願いするって」
その筋の女性に王子の相手はさせられないが、アンディなら別だ。
もちろん勇者パーティーの一員が風俗嬢と○○なんて褒められた話じゃない。けれどさすがに今は緊急事態だ。きっと世間も大目に見てくれるだろう。
それを聞いたヒイロはへなへなと力が抜けてベッドに倒れ込んだ。
「良かったぁ、今度こそ僕の貞操は無事なんだな」
「フフフ、これに懲りたら、もうサキュバスに鼻の下を伸ばしたら駄目ですよ」
「鼻の下を伸ばしてなんか……むう、今後気を付ける」
「はい。でもさっきの王子、カッコよかったです。僕がやろう、ってキメ顔で、やるのFなのに」
「うるさいな!」
「では、あたし早速隣町まで行ってきます」
一件落着なムードが辺りにたちこめたそのときだった。
「ちょっと待つにゃ!」
何者かが部屋の中に転がり込んできた。
「ポロムちゃん」「ポロム」
「その役目、このポロムに任せるにゃ」
五人目のパーティーメンバー、魔物使いポロムだった。
身長はルチアの胸ほどしかなく、その頭には猫耳族という獣人族の証である茶色い猫耳が乗っている。
「その役目って、ポロムちゃん、何をするのかわかってるの?」
「マリアに聞いたにゃ、アンディにFすればいいにゃ」
「それはそうなんだけど、そのFっていうのが何か知ってるの?」
するとポロムはルチアに近づいて耳打ちした。
伯爵令嬢の顔がみるみると朱に染まる。
どうやら想像の十倍近いどエロい言葉を聞かされたらしい。
「猫耳族は寿命が短いから、ポロムの歳ならもう大人にゃ。聖獣の加護があったポロムは冒険者になったけど、村に残った妹には子供がもう二人もいる、つまりやることやってるにゃ」
「で、でも、じゃあ、ポロムちゃんがホントにFするの?」
「もしかして、アンディのことを好きだとか?」
そう尋ねられたポロムはポリポリと鼻を掻いた。
「うーん、アンディはなかなかいいオスだけど、今回はこの子にやってもらうにゃ。神と精霊の契約に従い、出でよスラ子!」
ポロムの求めに呼応して、ポンという気の抜けた音とともに室内に魔物が現れる。彼女は一度使役した魔物を、亜空間を通じて手元に転移できるのだ。
魔物使いを名乗ってはいるが、その能力は召喚士に近いものだった。
そして現れたのは、派手な赤と白の縞々のスライム。
「テ〇ガスライムのスラ子にゃ。柔らかボディの人気者で、ウチの村ではそういう目的で使われることも多いにゃ」
スライムには酸や毒をもつものも多いが、テ〇ガスライムは粘液を出すのみで無害。そのため男性が自慰に用いたり、女冒険者が強姦除けに携帯することもあった。
名前の由来はその昔、異世界から召喚された勇者が「まるでテ〇ガのように気持ちいい」と言ったことから付けられたといい、伏字については明かされていない。
「……そんなのあるんだ」「でも、それってFなのか?」
たしかに、スライムを使った行為がFにあたるのかは微妙なところだ。
いまいちピンと来ていないルチアとヒイロの腕を引っ張って、ポロムは無理やり部屋の外に追い出した。
「まあやってみるから、二人は外で待ってるにゃ。だめならまた考えたらいいし」
「ポロムちゃんがそこまで言うなら」
「あ、でもこのことはアンディには内緒にゃ。予定通り大人のお姉さんにしてもらったことにするにゃ」
「なんでだい? 別に本当のことを話してもいいんじゃないか?」
すると猫娘はポリポリと鼻を掻いた。
「うーん、あのにゃ、アンディってばポロムのことをなんにも知らな純粋な子だって勘違いしてるにゃ。その夢を壊したくないにゃよ」