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第四話 勇者王子の決断

  〇       〇      〇


「ふぁあ、よく寝たぁ」


 清々しい朝の空気を吸い込んで、勇者ヒイロは大きく伸びをした。


(どのくらい寝ていただろう? それにしても、こんな気持ちのいい目覚めは久しぶりだ。……ん?)


 ふと隣を見ると、すやすや寝息を立てて眠る大男――重戦士アンディの姿があった。


 気持ちの良い朝の気分が一気に吹き飛ぶ。


「なんでこいつが隣に? おいアンディ、起きろ!」


 声をかけても肩をゆすってもアンディは目を覚まさない。物音を聞きつけて魔導士ルチアが部屋に入ってきた。


「ようやく起きたわね」


「ルチア、いったい何があったんだ?」


「覚えてないのね。王子はサキュバスの呪いにかかっていたの。それも、『Fされないと目覚めない』っていう最低な呪いにね」


 ヒイロの脳裏に眠りに落ちる直前の記憶がよみがえる。


 泣きじゃくる淫魔をなだめようとして桃色の毒霧を吹きかけられた。なぜ迷わず切りつけなかったのか? 後悔が沸き上がる。可愛らしい女の子の姿だったため、つい油断してしまったのだ。


「で、どうやって呪いを解いたんだ? Fされないと目覚めない? Fって何だ?」


「知らないフリしなくてもいいわよ。王子の部屋の書棚の奥に隠してある猥本に挿絵が載ってるでしょ」


「なんでそれをっ! じゃなくて、ええっ⁉ てことはルチアがしてくれたのか? どおりで気持ちいい目覚めだったわけだ。あーなんで覚えてないんだろ、もったいない」


「何言ってるの? あたしがするわけないでしょ!」


「キミじゃない? じゃあ誰が……マリアか? うわぁ聖女様になんて罰当たりな」


「マリアちゃんでもないわ」


「なに? じゃあ、ポロムなのか? あんな小さい子に? 大丈夫だよな、逮捕されないよね、僕王子だし」


「王子でも幼女姦は死刑だけど、ポロムちゃんでもないわ」


「じゃあ誰が……いや、うすうす勘付いていたというか、嫌な予感しかしないんだが、まさか……」


 ヒイロは傍らで眠り続ける重戦士に目をやった。


「そんな、ひどい、ひどすぎる、僕は初めてだったんだぞ、あーもうこうなったら魔王とかどうでもいい、勇者なんてやめてやる」


「馬鹿言わないで。王子の目を醒ましたのは、アンディじゃないから」


「??」


「エルフの里に行ったとき長老からもらったアイテムボックスに、これがあったの」


 ルチアが取り出したのは古い木彫りの人形だ。


 昨日アンディがFしようと覚悟を決めた直後に、この人形の存在を思い出した。


「気まぐれ妖精人形。呪いの対象を別人に移すアイテムよ。これで、呪いを王子からアンディに移したの。おかげで王子は目覚めて、アンディは爆睡中というわけ」


「じゃあ、僕の貞操は守られたんだな。はー良かったぁ」


「良くないわよ。今度はアンディを目覚めさせなきゃいけないんだから」


「そうか、じゃあ早速マリアにデスペルしてもらおう」


「効かないわよ」


「そんな、アリアは予言された祝福の乙女だぞ」


「残念ながら、マリアちゃんが三日三晩頑張ってもサキュバスの呪いは解けなかったの。だから、アンディを目覚めさせるには誰かがFするしかない」


 幼馴染にそう言われて、王子は反射的に声を上げた。


「ルチアはダメだぞ!」


 予想外の反応にルチアの頬が緩む。


「え、な、なんであたしはダメなの?」


「そんな事させたら、僕が伯爵に合わせる顔がなくなるだろ」


「ふん、どうせそんなことでしょうね。もちろんやりませんけど」


「なら良し。でもマリアもダメだからな。聖女の力は純潔が前提だ。どこまでの行為で純潔じゃなくなるのかはわからないけど、危ない橋は渡れない」


「それもわかってるわ」


「ポロムは、って、この発想自体アウトだよな」


「そうね、人として間違ってるわ」


「ということは……もしかして、僕!? いやいやいや、無理無理無理」


「大丈夫、古来から衆道は騎士のたしなみと言われているから」


「僕騎士じゃなくて王子だから、次期イングルート国王だから」


「なに言ってるんですか。今魔王を討伐しなければ次期国王も何も、イングルートという国が、いえ、人という種族自体がなくなってしまうんですよ」


 ルチアの言葉がヒイロの心に突き刺さった。


 そうだ。この旅は遊びじゃない。王国全ての人間の命がこの手に握られている。


 それにすべては自分が蒔いた種なのだ。ちっぽけなプライドにこだわっている場合じゃない。


「うぐぐ……わかった。僕がやろう。他の誰がやるよりずっといい」

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