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第三話 誰が王子の呪いを解くか

「無理だぁ!」

「無理よぉ!」


 聖女様にFなんてさせられるわけがない。


 しかしこのままでは勇者が目を覚まさず、魔王討伐のたびに大幅に遅れが出てしまう。


 ルチアは頭を巡らせた。


 彼女は優秀な魔導士というだけでなく、勇者パーティーの戦略を担う参謀でもある。いままで数々の窮地をそのひらめきで逆転させてきた。


 ――そして、今も。


「閃いたわ! フフフ、たかがサキュバスごときが低級モンスターこのあたしを止めようなんて百年早いってことよ」


「おう、さすがルチア。で、どうするんだ?」


「勇者パーティーにいるのは、あたしとマリアちゃんだけじゃないでしょ」


 このパーティーメンバーは、勇者ヒイロ、魔導士ルチア、聖女マリア、重戦士アンディ、それに魔物使いポロムだ。


「まさか、ポロムにやらせようってのか? あの子はまだ子供だ。そんなことは俺が絶対に許さんぞ!」


 アンディが眉を吊り上げた。


 魔物使いのポロムは、猫耳と尻尾を持つ獣人族の少女だ。


 人族とは歳の取り方が違うため実際の年齢はわからないが、その外見はあどけなく精神状態もおそらく初等学校レベルだろう。


 昨日も夕飯を食べるなり、眠くなったと寝てしまっていた。


「何言ってるの。ポロムちゃんにそんなひどいことさせるわけないでしょ」


「そうか、そうだよな。いくらルチアでもそんな非道な真似は」


「アンディがやって頂戴」


「はぁ!」


「別に女子がやんなきゃダメってわけじゃないもんね。頑張って」


「頑張ってじゃねえよ! そんなの無理に決まってるだろ!」


「何言ってんのよ。魔王軍に苦しめられる人々を一刻も早く救い出すために全力を尽くすって旅立ちの日に誓ったでしょ!」


「それとこれとは別!」


「お願いよ。この作戦に成功したら重戦士アンディがいかにして勇者を呪いから救ったか、その英雄譚を全国民の義務として子々孫々に語り継がせるから!」


「語り継がせるな! そんな話を聞かされる子供の身にもなれ!」 


 重戦士アンディは涙目で抵抗したが、ルチアにはわかっていた。


 彼はその外見からは想像できないほど知的な男だ。


 勇者を目覚めさせるのには、パーティーの誰かがFしなければならない。マリアは絶対的に無理、ポロムも倫理的に無理、ルチアは世間的に無理。


 となれば残るのがアンディだけということは、頭ではすでに理解しているはず。


「……」


「……」


 しばしの沈黙の後で、重戦士は渋々口を開いた。


「二つだけ約束してくれ。一つ、俺が部屋に入ってヒイロを目覚めさせている間、絶対に中を覗かないこと」


「えー、わたしヒイロ様とアンディさんがFするところ見たいです!」


「ええと、マリアちゃん?」


「Fが何か興味ありますし、それにヒイロ様が他の人とするなんて、考えただけで胸がきゅーっと締め付けられるんですけど、でもそれと同時になんだかドキドキして目が離せないんです」


「やだこの子素質あるわ、じゃなくてマリアちゃんはあたしが責任もって押さえておくから安心して。約束する、絶対に覗かないわ」


 ルチアの約束に、アンディはうなずいて続けた。


「そしてもう一つ。どうやって俺がヒイロを目覚めさせたか、ポロムには絶対内緒にすること」


「え?」「ええっ!」


 ルチアとマリアは思わず顔を見合わせる。


「アンディさん、もしかしてポロムちゃんのこと?」


「うわぁ、あんたってロ〇コンだったのね」


「うるさい! そんなんじゃねえ!」


 重戦士アンディは、顔を真っ赤にしてルチアとマリアを部屋から追い出しドアを閉めた。


 ベッドの上には、すやすやと眠る金髪碧眼の見目麗しい王子様。


 彼にまったくそのケはないが、汚いおっさんを相手にするよりはよほどマシだ。


(しょうがねえ、こうなったら腹をくくるぞ)



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