84 その頃のヒーロー達 9
「いくぞ!」
語気を強めて叫ぶ。
率いる仲間を勇気づけるため。
自分自身を奮い立たせるため。
無理をしている。
そうしなければくじけそうだった。
最悪が重なっている。
地表の多くが天空の領域となっている。
地脈・霊脈の噴出場所も抑えられた。
ヒロトモ達の居場所はだんだんと減っている。
まだ残った拠点もある。
強力な仲間もいる。
それでも劣勢を覆せないでいる。
そんな中、ヒロトモは仲間を率いて天空の領域へと攻め込んだ。
制圧された場所を奪還するために。
その為の戦力もつれてきている。
いずれも強力な能力を持った頼れる存在。
巨人に獣人、様々な能力を持った怪物達。
様々な動物の要素を併せ持つ混合獣。
神話や伝承では神と並ぶとされるほど強力な存在が揃っている。
これらを率いてヒロトモは敵地へと向かう。
そんなヒロトモ達を後方から支援する者達も。
こちらは樹木や草花、昆虫の要素をもった人間達。
樹霊や妖精と呼ばれる存在だ。
魔力や霊気を操るのに長けたこれらが、大地のエネルギーを呼び込んでくれる。
ヒロトモ達の役割は、天空の領域の中に切り込むこと。
道を通して大地のエネルギーを注ぎ込みやすくする事だ。
空にのまれた場所に、大地のエネルギーを注ぎ込む。
場所を取り戻すにはこうするしかない。
そして、地脈の噴出点まで向かう。
ふさがれた噴出場所を取り戻し、大地からエネルギーを吹き上げさせる。
そして、まだ大地のエネルギーが満ちてる場所とつなぐ。
エネルギー同士が結びついて強大な力を発揮する。
こうなれば、大地の領域は強固になる。
天空に侵されずに済む。
その為にもまずはこの場所を奪還せねばならない。
次の一手の為にも。
ヒロトモはその為に精鋭を連れて敵地へと突入していく。
エネルギーを翼のように拡げて。
他の多くの者達と同様、ヒロトモも進化をしていた。
気力、霊力、オーラ、様々な呼び名を持つエネルギーを炎のように放つ存在。
天使へと。
理想と理念に燃えるヒロトモにふさわしい姿である。
そんな彼は仲間の前に立って先へと進む。
仲間の中でもっとも強いエネルギーをもつ故の義務感から。
その姿は他の多くの者達の畏敬を集めている。
いつしかヒロトモはこう呼ばれるようになった。
勇者と。
その雄姿に怪物達は畏敬の念を抱いた。
危険に立ち向かっていく度胸に賞賛を送った。
あらゆる戦いにおいて、逃げずに進む姿に誰もがつられていった。
成果を全くあげてないという事実を無視して。
ヒロトモがいる戦場は、確かに勝つ。
これは紛れもない事実だ。
実際、ヒロトモの戦歴に敗北はない。
あるとすれば、仲間の撤退を助ける時。
それすらも仲間の損失をおさえて、多くの命を生きながらえさせている。
そんなヒロトモは勝利の象徴だった。
だが、それ以外の戦場では敗退を繰り返している。
ヒロトモがいる場所だけでは確かに勝てる。
しかし、他の幾つもの場所では敗北を強いられていた。
1つの勝利の陰に、10の敗戦がある。
おおむねこんな調子だ。
そんな空虚は勝利を手に入れるために、怪物達は突進していく。
多くの犠牲を出しながら。
その甲斐あってか、ヒロトモ達は勝利を手に入れた。
大地のエネルギーの噴出点を取り返した。
あふれ出たエネルギーに他の噴出点からのエネルギーを結合させた。
パイプラインのように繋がったエネルギーが、天空のエネルギーを押し返していく。
地脈・霊脈の繋がりが強固な空間を作り出した。
地表の一角が大地の手に戻って来た。
怪物達が沸き立つ。
犠牲は大きかったが、それでも大地を取り戻した。
「死んだ奴もこれで報われる」
そう言って泣く怪物もいる。
そして、結びついた噴出点の中から大地の中に潜んでいた者達が出て来る。
ヒロトモ達の勝利を待っていた者達が。
その中には、ヒロトモの大切な者達もいた。
「あなた!」
生まれたばかりの赤子を抱いた女が、エネルギーの中に浮かんで近づいてくる。
空を飛ぶように。
そんな彼女を、同じくエネルギーの中に浮かんでいたヒロトモが抱き留める。
「あぶないぞ、戦いが終わったばかりなんだから。
それに、慌てて転んだらどうすんだ?」
「このエネルギーの中で転んだりしないわよ。
それに、敵は倒したんでしょう?」
「まあな。
何とか撃退したよ」
「なら安心じゃない」
そう言って笑うミオは、腕に抱いた赤子に目を落とし。
「それに、この子も早くお父さんに会いたいって」
そう言われるとヒロトモは何も言えなくなる。
せいぜい、
「ずるいぞ」
ささやかな抵抗をするだけだ。
そんな微笑ましい姿を周りの者達は温かく見つめ。
この場における勝利を喜んでいった。
同時に他の様々な場所が制圧され。
噴出点もいくつか抑えられて。
怪物達の居場所が減っていってる事を忘れて。
また、死んだ怪物も多い。
戦力はこれで更に減っていく。
今後の戦いは更に厳しいものになっていく。
かろうじて手にしてる勝利も、いずれ覚束なくなるだろう。
新しく誕生してる者もいるが、これらが戦力になるのは先の事。
今はほとんどが赤子だ。
地脈や霊脈が覚醒し、地磁気が強く働き出して何年も経つ。
この間に新たに生まれた怪物も多い。
しかし、死んでいく者達の数は誕生を上回る。
怪物は緩慢な滅びの道を歩んでいる。
それでも生まれたわが子達の為。
自分達が生きていける場所を保つため。
怪物達は戦い続けるしかなかった。
しなければ滅びるのだから。
正直なところ、先は見えている。
このまま行けば、いずれ必ず敗北する。
今日の勝利は、他の多くの場での敗北に塗りつぶされる。
重要拠点を確保したとて、それ以上に多くの地点を奪われている。
その中には地脈の噴出点もある。
今日、取り戻したものと引き替えるように重要な場所を失った。
地脈・霊脈の一つがこれで消えた。
大局的に見れば、喪失の方が大きい。
怪物の居場所は、今日また小さくなった。
それでも怪物達は目の前の勝利を喜んだ。
先の事など考える事なく、ただ目の前の事態だけを見ていく。
そんな彼等は幸せだった。
つかの間だとしても、今この時だけは。
これまでの出来事も、これからの予測もせず。
ただ、目の前の事だけ見つめていた。
ヒロトモも今は己の赤子を見ている。
ミオとの間に生まれた、大事な存在を。
つらい状況ではあるが、その姿を見てるだけで励みなる。
この命を守っていこうと。
それが出来るかどうかは別として。
気持ちだけは強く保っていた。
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