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46 その頃のヒーロー達 4

「行こう」

 促すヒロトモに中学校の生き残りは頷く。

 わずかな希望を頼りにして。



 状況は最悪だった。

 他の多くの場所と同じくヒロトモのいる避難所の食料は底をつきそうになっていた。

 どうにかしようと外に食料を求めて出歩いてみたが。

 同じような状況の他の避難所の者達と遭遇。

 当然ながら騒動になった。



 周辺のスーパーなどにある食料は限られている。

 それらを分け合えるほど余裕は無い。

 当然ながら残った食料の奪い合いになる。



 ヒロトモはそんな者達にも話し合いを持ちかけた。

 どうにか上手い分け合い方はないものかと。

 綺麗事である。

 出来るわけがない。

 食料の数は限られており、分け与えねばならない者は多いのだ。

 他にまわす余裕などあるわけがない。



 そして、奪い合いのための殺し合いが始まり。

 ヒロトモは他の避難所からやってきた者達を皆殺しにした。

「仕方がなかった」と自分に言い聞かせ、己の所業を正当化した。

 だったら話し合いなど持ちかけずに最初から戦えば良かったのだ。

 言い分けがましいあたりに本性が垣間見える。



 ただ、これで近隣のスーパーは確保出来た。

 喜び勇んで中に入り、食料を確保しようとした。

 すぐに絶望感がヒロトモ達を襲った。

 もう誰かがスーパーからめぼしいものを持ち去ったからだ。

 それがイツキによるものだと彼等は知るよしもない。



 仕方なくヒロトモ達は更に足を伸ばした。

 まだ食料などが残ってる場所はないかと。

 残念ながらそのほとんどが無駄足となる。

 近隣のめぼしい場所からイツキが食料を持ち出してるからだ。



 食料だけではない。

 工具などの作業用品なども軒並み奪われている。

 ガソリンスタンドからはガソリンも。

 自分達が出遅れた事をヒロトモ達は理解する事になった。



 そんなわけで手ぶらで避難所に戻る事が相次いだ。

 留守番をしていた老人達は、そんなヒロトモ達を嘲った。

「不甲斐ない」

「何をしてるんだ」

 もちろんヒロトモ達が悪いわけではない。

 先んじて動いた誰かが優秀だっただけだ。

 その事を認めようとせず、目の前にいる者達をなじる。

 そんな連中の言い分をヒロトモは呆れながら聞いていった。

 面倒なので言い返しはしなかったが。



 ただ、物資の残りは少ない。

 急いで対策をしなければならない。

 でもどうやって?

 避難所の者達は頭を抱えた。



 もっと広範囲に足をのばし、物資を探すか?

 それとも、近くの避難所から食料を分けてもらうか?

 救援が来るまで待つにしても、いつ来るか分からない。

 明日にでも来てくれるならともかく。

 そうとは言えない状況なので、自分達で物資を確保しに行ってるのだ。

 あてには出来ない。



 かといって、似たような状況だろう他の避難所から食料を分けてもらえる可能性は少ない。

 出向いても時間を無駄にするだけ。



 となれば、やはり索敵範囲をひろげて、まだ手つかずかもしれない食料などを見付けるしかない。

 平和で穏便な手段はこれだ。

 普通ならこの方法を選んでいただろう。

 しかし、そこまで状況に余裕はない。



「遠くの場所も同じように荒らされてるさ」

 探す範囲を拡げようというヒロトモの考えは即座に弾かれる。

「それより、近くからかっぱらった方が早い」

「何を言ってるんだ!」

 代わりに出された提案を、今度はヒロトモが突っぱねた。



「じゃあ、どうすんだ?

 確実に飯がある場所が分かるのか?

 あちこち探して無駄になったらどうすんだ?」

「だからって、他の避難所を襲えるわけがないだろ!」

 もっともな話である。

 これが日常の中でなら当然支持されただろう。

 しかし、今は切羽詰まった事態に陥っている。



「しかしな、他に方法がないならやるしかない」

 避難所襲撃を提案した乱暴者に賛同する者が出てくる。

 そのほとんどは、避難所をまとめてる老人達だ。

 あとは学校の教師。

 彼等はほぼ全て他の避難所の襲撃に賛同している。

 そうでない者は、反対も賛成もせずに口をつぐんでいる。

 下手な事を言ってケチをつけられないように。



 事実上、他の避難所の襲撃に傾いた内部情勢だ。

 スッカラカンになってる救援物資の倉庫を見ればそうもなろう。

 問題はあるが綺麗事を言ってる場合ではない。

 やらないで済めば良いが、そうも言ってられない。

 生き残るためには、どうにかして食料を確保しなければならないのだ。

 方法を問うてる場合ではない。



 だが、ヒロトモは反対を続ける。

 確かにひどい状況だが、悪さは出来ないと。

 この状況でなければ素晴らしい高潔さであっただろう。

 だが、今は食い物が無いのだ。

 理想的な人道を説いてる場合ではない。

 まずは食わねばならない。



「じゃあ、どうすんだ。

 餓え死にしろっていうのか?」

「藤原君、言いたい事は分かる。

 だが、もう限界なんだ」

 襲撃を主張する乱暴者も、生き延びるために必死な老人達もヒロトモを説き伏せようとする。

 ヒロトモが大事だからではない。

 この避難所にいる者の中で最強の戦力だからだ。

 ヒロトモが参加するかどうかで成功率が変わる。

 損害の大きさも。



 だからヒロトモ以外は説得をしようとした。

 丸め込むとか言いくるめるというのが正解だが。

 しかしヒロトモは頑として頷かない。

 他の代案があるわけでもなく、ただただ否定していく。

「絶対にダメだ!」

 人を襲う事を受け入れない。



 そうして時間だけが過ぎていく。

 やむなくヒロトモ以外は自分達だけで行動しようとした。

 しかし、それをヒロトモは止める。

「どうしても行くというなら、僕が止める」

 手に光の剣を発生させて。

 それを見て、さすがに他の者達も足を止めた。



「ヒロトモ君……」

「黙れ!」

 老人の一人が声をかける。

 幾分強めの声で。

 それをヒロトモは一蹴した。

「何を言おうと、貴方たちのやろうとしてる事は人を傷つける。

 そんな事見逃せない」

 自分を除いて動こうとする他の者達をヒロトモは止める。

 避難所の者達は硬直状態に陥った。

 時間だけが過ぎ去っていく。



 それが良かったのか悪かったのか。

 ヒロトモと他の者達がにらみ合ってるその時。

 中学校の避難所は襲撃を受けた。

 他の避難所の者達から。



 考える事はどこも同じである。

 手元に食料はない。

 近くにもない。

 ならば、確実にある場所から奪う。

 この決断が出来た者達から行動に移り。

 避難所同士の戦争が始まっていった。



 対立していたヒロトモとその他の者達も、この襲撃のために動きだした。

 迎撃に出た彼等は襲ってきた者達を次々に倒していく。

 自我を保ったまま怪物になった者を。

 人の姿を保ったまま、魔術や超能力を使う者を。

 こういった力をもたない普通の人間を。



 数十人はいた襲撃者達は、決死に表情で襲ってくる。

 これが成功しなければ、彼等の家族や仲間が飢える事になる。

 なんとしても食料を奪う、そんな決意にあふれていた。

 躊躇いはない。

 良心の呵責など持ち合わせていない。

 彼等は己の都合のために他者を虐げようとしていた。

 実に人間らしい行動である。



 加害者が賞賛されるのは人間社会の常である。

 被害者が虐げられるのも。

 イジメという学校犯罪を見れば分かる。

 加害者は擁護され、被害者は全てを奪われる。

 そんな人間の持つ特性にのっとって、襲撃者達は動いていた。

 加害者になる事で全てを手に入れようとした。



 その願いはヒロトモ達によって粉砕され。

 中学校には死体の山が積み上げられた。



 その中には襲われた側もいた。

 最初に襲撃を受けて殺された見張りの者達。

 迎撃に出て死んだ者達。

 逃げ惑いながら襲われ死んだ者達。

 勝敗でいうなら、ヒロトモ達が勝った。

 しかし、損害は決して少なくはなかった。



「どうすんだよ!」

 迎撃に出た乱暴者が荒げる。

 仲間が死んだ事を憤ってる。

 なにも仲間意識によるものではない。

 死んだ者達への哀惜がわいてるわけではない。

「これじゃ、取りに行けねえよ」

 兵隊が死んだ、戦力が減った。

 おかげで他の避難所を襲う余裕がなくなった。

 それを嘆いていた。



 実際、中学校の避難所は進退窮まってる。

 外に物資を取りに行こうにも、人手が減った。

 その分、防衛に回せる人間が減る。

 もともと、怪物に襲われてもいた。

 だから防衛のために何人かは残さねばならない。



 ここに、他の人間からの襲撃も加わった。

 次にいつ来るか分からないが、だからこそある程度の人数は確保しなくてはならない。



 かといって全員で守りに入るわけにもいかない。

 食料を手に入れねば、いずれ全員餓え死にするのだから。

 誰かが探しにいかねばならない。

 だけど、その為にさける人がいない。

 今、襲撃を受けて失われてしまった。



 それはヒロトモも気づいていた。

 この状況では、もうどうにもならないと。



 誰もが失望をおぼえていた。

 今後について考える事もなく、ただただ目の前の状況に絶望していた。

 打開策はないかと誰もが求めるが。

 答えは出てこない。



 そんなヒロトモが救いを見いだすのは、翌日の事だった。

 周りの様子を探るために外に出て。

 そこで救いを見いだした。

「これだ!」

 叫んだヒロトモは、共に外に偵察に出た者達と意気揚々と帰っていく。

 思いも寄らない朗報を手に入れて。




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