13 その頃のヒーロー達 2
学校内の怪物達を片づけ終わる頃。
外は既に暗くなっていた。
とはいえ、オーロラは相変わらず浮かんでおり。
光りのカーテンは暗い夜を明るく照らしている。
「暗いよりはありがたいけど」
空を見上げながら藤原ヒロトモは表情を沈めていく。
今日は何とかなった。
だが、これからはどうなのだろうと。
何の前触れもなく、突然オーロラがあらわれ。
その直後に同級生が怪物に変化していった。
いったい何がと思ってると、体の奥から不思議な力がわいてきた。
その力は手に集まり、光の剣となった。
これならやれる────なぜだか分からない確信が湧いてきた。
その思いのままに動きだした。
いつもより体が軽かった。
一瞬にして怪物との距離を詰めて、光の剣を振り下ろした。
光の束は直撃した怪物の頭を融かして消した。
全ては突然だった。
オーロラも。
怪物も。
自身の光の力も。
これらがほぼ同じ瞬間にあらわれた。
何故なのかは分からない。
だが、これらが当たり前の世界になったのだけは何となく察した。
そして。
この力で救わねばならない者達がいる。
容易く人を殺せる怪物から。
力を手に入れることが出来た者達が。
そうでない者達を。
その為にも、まずは学校内をどうにかせねばならなかった。
教室の中は片づけたが、外からは悲鳴が聞こえてくる。
そちらでも何かが起こってるのは明白。
それに、怪物に変化する者がこの教室だけとも思えない。
すぐにヒロトモは他の教室へと向かっていった。
その時。
既に扉が少し開いていたのだが。
それに気づく事はなかった。
教室から一人が消えていた事は、こうして誰にも知られる事もなくなった。
そうして教室を巡り怪物を倒していく。
廊下に出ている者もいたので、それらも倒していく。
途中、攻撃を受けてあわやとなりそうな時もあった。
だが、その時は同じように力に目覚めた者達が助けてくれた。
おかげで学校の中の怪物は片づける事が出来た。
ひとまずの安全は手に入れた。
しかし、手遅れという場面も多かった。
「どうしたの」
もの思いに沈んでるヒロトモに声がかかる。
今日一緒に怪物と戦った者。
同じ教室にいる、放っておけない女の子。
それが心配そうにヒロトモを見つめていた。
「今日の事を思い出してね」
「うん、大変だったね」
同じ境遇に陥ったもの同士の連帯感から、相手も同調して声をかけてくる。
そんな彼女の声といたわる表情が今のヒロトモにはありがたかった。
しかし。
「助けられない人がいっぱい出ちゃったよ」
ヒロトモが嘆いてる一番の理由はこれだった。
超絶的な力を得たのは良い。
だが、絶大かもしれないが万能ではない。
遭遇した怪物はほとんど一撃で倒す事が出来る。
しかし、目の前にいる敵しか倒せない。
手の届かない所の怪物はどうしようもない。
この為、ヒロトモが辿り着くまでに相応の犠牲者が出た。
「もっと速く動ければ助けられたかもしれないんだよね」
「それは藤原君のせいじゃないよ」
いたわしげに少女は声をかける。
実際、ヒロトモが責任を負うべき事ではないだろう。
出来ない事なのだから。
「それでもね」
分かっているが、ヒロトモの気分は晴れない。
「でも藤原君は助けられる人を助けた。
怪物みたいな人達から私たちを」
「なら良いけど」
事実であっても、まだ気分は晴れない。
出来た事よりも、出来なかった事の方が気になってしまう。
それに、憂鬱の原因はこれだけではない。
「でもさ、怪物だったのはもともと人間だし。
それを…………この手でね…………」
これも辛いところだった。
やらねば自分達が危うい。
だとしても、人を、人だったものを殺した。
それで良かったのかという思いもある。
「それは本当に仕方ないじゃない」
少し強く少女が擁護していく。
「藤原君がしてくれなきゃ、私たちが死んでた。
もっと大勢が死んでた。
だから、藤原君のおかげで私たちが助かったんだよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
強くはっきりと少女は頷く。
「そうなんだ」
だからヒロトモは少しだけ安心する事が出来た。
己を正当化する事が出来て。
「でも、それならさ。
僕の方も助かったよ」
自分を正当化してくれた少女にも評価を付けていく。
「夷隅さんがいなければ、途中で死んでた。
何度も守ってくれたから生きてここにいる事が出来た。
ありがとう」
「あ、うん、私こそありがとうね」
少し照れくさそうに夷隅ミオは返事をした。
実際、ミオの力によって危機を免れた瞬間は多い。
敵の攻撃を弾く障壁。
バリアというべき力。
その力で襲いかかる怪物を退ける事が出来た。
また、バリアをまとって怪物に突進し、敵をなぎ払う事も出来た。
攻めのヒロトモに、守りのミオ。
この組み合わせが今日の困難を切り開く原動力になった。
「また夷隅さんに頼る事になると思う。
学校の外も大変そうだし」
「そうだね、頑張らないとね」
「だから、これからもよろしくね」
「うん、私こそ」
そういってミオが近付いて抱きつく。
そんなミオを抱きしめる。
温かさと柔らかさが心地良い。
そんなミオを抱きしめて、ヒロトモはキスをした。
ミオも瞳を閉じて受け容れる。
去年、中学に上がってから急速に親密になった二人。
最初は同級生として。
身の上を聞いてからは同情心を抱いて。
そして、一年生の最後の頃にはキスをするくらいの関係になっていた。
今も親密な関係は続き、いずれ体を重ねる時もくるだろうと思う程には。
それがこんな事になり、状況は最悪になったが。
お互いに目覚めた力と、辛い境遇の共有が親密さを増してくれている。
とんでもない事になってはいるが、今はこの状況に感謝しても良いかもとヒロトモは思えた。
何せ、自分の全てを肯定してくれる。
うるさい小言など言われない。
ああしろ、こうしろ、何故やらないと言わない。
出会った頃から、ミオはヒロトモの全てを受け容れ認めてくれた。
今日もそうだ。
元は人間だった怪物を殺してもケチをつけない。
救出が遅れてしまい、死んでしまった者がいても責めない。
仕方ないのは確かだが、
(それが分からないバカが多いからな)
ヒロトモの嘆きは大きい。
そんな中でミオは例外的にヒロトモを認めてくれる。
こんなありがたい存在はいない。
誰かにしてほしかった言い分け。
それが出来たから良い。
自分を正当化できる。
ミオはやってくれる。
それだけでヒロトモにとっては価値があった。
おまけに、気を許して近付いてきてくれる。
手頃に楽しむには都合のよい存在だ。
幼なじみの男につきまとわれてるのは面倒だが。
それも非が相手にあるので糾弾は簡単。
あとは時期を見るだけだ。
もっとも、その機会は幾分遠のいたかもしれないが。
この状況では色恋にうつつを抜かしてもいられない。
まずは生き延びねばならない。
そう思いながらヒロトモは少女を抱きしめ。
ミオは少年の腕の中で安息を得る。
やがて勇者と呼ばれる少年と。
聖女と呼ばれる少女。
二人は誰も居ない教室で、静かに身を寄せ合った。
「そういえば彼は?」
そんな中でヒロトモは思い出す。
同じ教室にいた。ミオにつきまとってる存在を。
忙しくて忘れていたが。
名前を呼ぶのもおぞましいから、『彼』と呼びながら。
「あれ、そういえば」
言われてミオもようやく思い出す。
そういえば今まで姿を見てないと。
「もしかしたら」
「怪物に?」
可能性はあった。
そう思うと嬉しくなる。
二人を阻む障害がなくなった事に。
思わずにやつく二人。
だが、その表情を見た者はいない。
当事者達も。
抱き合って相手の顔を確かめる事も出来なかったから。
その後、死体の確認などろくに行われずに。
だが、生存者の確認だけは済ませて。
イツキの存在がない事に二人は気付く事になる。
おそらく死んだのだろうと、そう考えられる事になった。
一々死体の数を確認したり、死体一つ一つの顔を見て確かめる余裕もない。
こうしてイツキは死んだものとして処理されていき。
二人は遮る障害がなくなったと思い込んだ。
これからは誰憚る事無くいちゃつけると。
イツキが見通した通りの姿がそこにあった。
それを地球が活性化した瞬間に見る事になったイツキの落胆は実に大きかった。
色ボケしたミオとヒロトモが知るよしも無かったが。
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